小間使い 其の三
ルシファー・ステーションに列車が停車します。
二人は荷物を持ち、乗り込みました。
四両連結のセイレン・ステーション行きです。
通常、アールヴヘイムン行きはステーションD、通称セイレン・ステーションより五日に一列車、二両編成で出発します。
ラダさんも鈴姫さんも、フォボス・ステーションからルシファー・ステーションまでの、ローマ・ダチア宇宙鉄道しか乗ったことはありません。
第一本線と呼ばれるうちの一部が、ローマ・ダチア宇宙鉄道と呼ばれており、その先が中原宇宙鉄道です。
一応、この中原宇宙鉄道は公開されています。
その気になれば、セイレン・ステーションまでやって来て、名高い『セイレンの魔女星雲』を眺めることができます。
事実、ラダさんの友達の何人かは、旅行でここまで訪れたことがあるようです。
二人はドキドキです、ともに中原宇宙鉄道に乗ったことなど無く、まして非公開の軍用支線に近いアールヴヘイムン支線など、存在も知らないというのが本当のところ……
案外に列車は混んでいました。
大きな荷物を抱えて乗り込むと、目指す一行はすぐに分かります。
ラダさんが見ても圧倒的に綺麗な女性が三人、しかも猫まで一緒です。
その中の一人は、声などかけられそうもないほどの威厳、オーラを漂わせています。
恐る恐るラダさんが、
「ルシファー様でしょうか?」
「そうですが貴女は?」とルシファー様。
ラダさんが
「ダチア高等女学院八回生の一号生徒でラダといいます」
「そちらの方は?」とルシファー様。
鈴姫さんが、
「鈴姫(すずひめ)と申します、籠目(かごめ)高等女学校の八回生で、私も一号生徒です」
ルシファー様が、
「そのラダさんと鈴姫(すずひめ)さんが、私に何の用事?」
多分ハウスキーパーと思える方が、
「ドン族長が小間使いとして、強引に派遣してきた方です」
「何でも二人は、女官任官課程だそうですよ」
と云ってくれました。
ラダさんは、この方がサリー様なのだと認識しました。
二人は通路の向こうに座りました。
ぴしっと背筋を伸ばして……
するとルシファー様が、
「二人共、こちらに来なさい、共に小柄ですから、私となら三人で座れるでしょう?」
物凄く驚いた二人ですが、「失礼します」といって座ります。
ラダさんは心臓が口から出そうです。
チラッと鈴姫さんを見ると、鈴姫さんも緊張の塊のように見えました。
突然、ルシファー様が、
「ご飯はまだでしょう、チャーハンと、おにぎりも握っておいたのですが、皆さんも如何?」
と云って、お弁当のようなものを開きました。
サリーさんが、
「あの時間で作ったのですか?」と驚いていました。
鈴姫さんが、
「ルシファー様のお手製なのですか?」と聞くと、ルシファー様は、
「本当に時間がなかったので、多少、見栄えが悪いですが」
との返事がありました。
二人はルシファー様の気さくな、あまり飾らない人柄に親近感を覚えた気がしました。
一行はセイレン・ステーションで、アールヴヘイムン支線へ乗り換えます。
この時、ルシファー様がお菓子などを買い込んでおり、アールヴヘイムン支線の車中で、このお菓子を食べながらトランプなどをしたことが、ラダさんと鈴姫さんにとっては忘れられない思い出となったのです。
不思議なことにルシファー様は、『ババ抜き』だけはからきし弱かったのです。
この後、惑星アールヴヘイムンでは、色々な事が起こりましたが、正直なところは、あまりお役にたてなかったのです。
でもルシファー様とサリーさんに、可愛がられた二人ではありました。
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