愛犬トト


 ファリニシュちゃんは、おじさんの犬にとびかかりそうでした。

 タバサちゃんは、その黒犬さんを抱きしめるようにして、

「ファリニシュちゃん!弱い者いじめはダメですよ」

 といいます。


 ファリニシュちゃんは、それでもとびかかろうとしています。

「ダメ!」とタバサちゃん。


 タバサちゃんは少々困りました。

 黒犬さんはかなり大きく、タバサちゃんでは抱えきれないのです。

「困ったわ、お家に連れて帰って、治してあげたいのに……黒犬さん、小さくなれない?」


 そんな無理な事をタバサちゃんが云っていますが、その黒犬は聞こえたようで、一声吠えると、徐々に小さくなっていきます。

 ファリニシュちゃんぐらいになりましたね。


 タバサちゃんは、小さくなった黒犬さんを抱えると、マンクス・レディス・ハウスへ走りました。


 ついでといってはなんですが、ファリニシュちゃんも抱えています。

 タバサちゃんに抱かれてご満悦のファリニシュちゃん、静かにしています。


 降り始めた雪は、勢いを増しています。

 温度もぐっと下がり始め、休暇は冬籠りになりそうです。


「大変!大変なの!この子が死にそうなの!」

 タバサちゃんは息せき切って走って帰り、命婦(みょうぶ)さんに言いました。


「まぁ、大変、大けがしているわ、お腹をかまれているわ」と命婦(みょうぶ)さん。


 ドタバタとしていると、イシスさんがやって来ます。

 命婦(みょうぶ)さんが、

「イシス様、タバサ様が大けがをしている犬を拾ってこられて」


 イシスさんがその黒犬さんを一目見て、

「その犬、ブラックドッグじゃないの、貴女たち、寄らないほうがいいわよ、ファリニシュ、始末しなさい」


 ファリニシュちゃんがうなり声を上げました。


 タバサちゃんが、

「ダメです!この子はおじさんから頼まれたの、助けてあげて!」


「おじさん?」とイシスさん。


 タバサちゃんが、

「ものすごく大きな、毛むくじゃらのおじさんなの……」


 イシスさんは、

「フェノゼリー――マン島の妖精の一人、大鎌をふるって草を刈る――ですね、それがブラックドッグを頼むと?」


 タバサちゃんが、

「そういったの……黒犬さんを指差してヘルプって」


 イシスさんが、

「フェノゼリーがね……いいわ、タバサのお願いなのですものね……この、おばさんが治療してあげましょう、その前に言っておかなければね」


 イシスさんはマン島のブラックドッグに向かって、

「汝、モーザ・ドゥーグよ、我の命に従うか?誓うなら治してやろう、どうするか?」


 その犬は小さく吠えました。


「よろしい」と言うと、イシスさんは黒犬に向かって手をかざしました。

 かまれた傷が見る見る治っていきます。


 次の日には、黒犬は元気になりました。

 イシスさんが見に来て、

「そろそろ本来の姿におなり」

 と云うと、黒犬は徐々に大きくなって、子牛ぐらいになりました。


 モーザ・ドゥーグ、これが黒犬の犬種名と教えてもらったタバサちゃん、何か真剣に考えています。

「黒犬さんにも名前が必要よね、茜おばさま、私が名前を付けてもいい?」


「タバサの犬だろう、好きにすればいい」とイシスさん。


 で、この黒犬の名前をトトと名付けたのです。

 どうやら、オズの魔法使いに出てくる犬らしいのですが……かなりモーザ・ドゥーグはがっかりしたようです。


 結局トトは、タバサちゃんの飼い犬になりました。

 毎日タバサちゃんを送り迎えします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る