仲間なのよ


「セシリーさんのお孫さん?可愛いわね、ヴィーナス様の毒牙に、すぐにかかりそうね」

 キャロラインさんの頭の上で声がしました。


 このときキャロラインさんは、初めておばあさまの横にギリシャ風の女性が立っていることにきずきました。

 なんとも言葉では表現できないほどの美しい女性、首にはチョーカーをしていました。


 ……アマテラス様だわ……


 そのアマテラスさんが、

「ねぇ、キャロラインさん、ジリアン・フェネリーさんって、どこにいるか教えてくださらない?」


「あっ、はい、えっっと……」

 キャロラインさん、すこしドギマギしながらも、あたりを探しますと、入り口近くで、ジリアンさんがキョロキョロと誰かを探す風にしています。


 あわててジリアンさんを呼びにいくキャロラインさん。

「ジリアン!アマテラス様はこっちよ!」


 ジリアンさんは、

「えっ、だってミリタリーの制服の方は、一人もいないのよ!」

「私服で来られているのよ、とにかく早く!」とキャロラインさん。


 その頃にはウイッチ、しかもチョーカーをつけている二人は注目の的、あちこちで、

 ……さすがにベティ女子スクール付属小学校よね、寵妃さんもおられるわ……

 とかのささやきが聞こえています。


 さらに、

 ……一人はたしか、パープル・ウィドウ・クラブの管理官公募に応募して採用されたのでは、ネットワークのどこかに勤務しているはず……

 新聞記者も中にはいるのです。


 ……ねぇ、あのギリシャの女神みたいな方のチョーカーって、レッドゴールドにグリーンゴールドのラインが入っているわ……


 ゲート前に集まっていたのは、ベティ女子スクール付属小学校の遠足行事のゲスト、つまりほとんどはご婦人たちなのです。


 ひそひそ話があっという間に広がり、先ほどの新聞記者さんが早速にインタビューなどを申し入れています。

 やんわりと断っているアマテラスさんでしたが、常識の範囲内の写真はかまわない事に、勢いに押し切られたようです。


 そんな処に、キャロラインさんがジリアンさんをつれてきたのです。

「アマテラス様!ジリアンを連れてきました!」


 アマテラスさんは、

「貴女がジリアン・フェネリーさん、始めまして、アマテラスです」


「はじめ……まして、ジリアン・フェネリーです」

 急におとなしくなったジリアンさんに、アマテラスさんは、

「今日はよろしくね、私、ルナパークって初めてなの、というより、遊園地が初めてなの、頼りなくてごめんなさいね」


 ジリアンさんが、

「お返事を下さり感謝しています、あの……すこし聞いてもいいですか?」


「なあに?」とアマテラスさん。


 ジリアンさんが、

「アマテラス様はアメリカの方なのですか?」


「生まれ故郷はね、貴女はどこだと思う?」とアマテラスさん。


 ジリアンさんが、

「ヘブンと思いました!だって天使のように美しいのですもの!」

 この場合のヘブンとは、天国の意味なのですけどね。


 すこし驚いたアマテラスさん、

「嬉しいことを云ってくれるのね、私はヴァルホルというところで生まれたのよ、貴女はどこの生まれなの?」


「マルス・プロビデンスです」とジリアンさん。


 ニューイーグルからは四百キロ離れている、アメリカのプロビデンス市の住民が移住した地域です。


 うまく切り返しているアマテラスさん、しかし次に聞いた内容が悪いような……

「お父様は来られているの?」


「私は……父は知らないので……」とジリアンさん。


 ジリアンさんは父を知らないのです。

 今のジリアンさんの保護者である男の妹の娘、つまりジリアンさんの母が、幼いジリアンさんを抱え兄を頼ってきたのです。

 余命いくばくもなかったようで、兄が必ず育ててみせると誓うと安堵したのか、そのままなくなったのです。


 戸籍には父親の名前がありません、ジリアンさんは私生児なのです。

 

「そう、私も両親は知らないのよ、ジリアンと私は仲間ね、そういえばキャロラインもそうでしょう、皆仲間なのね、セシリーさんなんかは、正真正銘の仲間なのよ」

 ちょっとばかり、あわてた物言いのアマテラスさん。


 しかしジリアンさんはこの言葉に勇気付けられたようで、たちまち元気になったようです。

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