第18話:ふたりにまつわるエトセトラ②
「……で、なんでお前までついてきてんだ? アンノスに長からの言づてがあるなら、俺がやっとくが」
「当然だ、直々の御下命ゆえ。第一、うら若い女性をほぼ初対面の男と二人きりにするなぞ出来るか!」
「信用ねえなー、いくら何でも命の恩人にいきなり手を出したりはせんぞ」
「この人の前でそういうことを言うなー!! 聞いてはなりません、耳が穢れますッ」
「ふぎゃっ」
「だああ、わかったって! 本気で過保護だなオイ!」
勢いよく耳を塞がれてちょっと痛い。気遣ってくれるのはありがたいが、もうちょっといろいろとセーブしてもらえるとうれしい。……それにしても、出会い頭といい今のやり取りといい、ずいぶん気心が知れた仲のような感じがする。いったい何があって知り合いになったんだろう、このひとたち。
そんな内心がありありと顔に出ているティナに、『お前分かりやすいな』と笑ったバルトがちゃんと解説してくれた。
「俺が野伏だって話はしたろ? 独り立ちしてすぐの頃に、狩る予定の獲物がこいつと被ったことがあってな。まあ自分がやるって聞かねぇんだ、これが」
「当たり前だ。郷の周囲の警備は、長から直々に任された我々の責務。外部の手を借りるなど許されない」
「……とまあ始終こんな調子で、話し合いにならなくてよ。結局先に狩ったもん勝ち、ってことにしたまでは良かったんだが」
なんせお互いに実力伯仲、シグルズの使命感は元からだが、郷にいろいろと恩があったバルトもかなり前のめりになっていた。間に魔物を挟んでの狩猟バトルはほぼ丸一日続き、その結果、
「……ちっとばかりやり過ぎて、獲物は狩れたが俺らも長から大目玉くった」
「だから炸薬は使うなとあれほど……!!」
「そのへんはすまん、全面的に謝る。けどなぁ、お前がヤツを追い込んだあの窪地、もし越えてたら結界の間際だったぞ? しかも居住区の方の」
「ぐっ、あ、あの化け蜘蛛の機動力が予想以上で……あれからは断じて同じ轍は踏んでいない!」
「へいへい、そら賢明なことで。大体のところは了解できたか?」
「ものすごくよく分かりました」
要するにふたりとも、呼び方と所属が違うだけでほぼご同業。性格は違うけど仕事熱心なのも同じで、熱中するとまわりが全然見えなくなるタイプなのだ。炸薬使って退治する蜘蛛ってどんなスケールなんだとか、この森って実はやばいところなのかとか、詳しく聞きたいことはいろいろとあるが。
『ぴぴっ』
「どしたの? ――あ、道が」
肩に止まったルミの声に顔を上げれば、森の木々がまばらになったところに石畳が敷かれている。あちこちが苔むしていて、随分と古いもののようだ。
「森を突っ切って隣の国まで走る街道だ。最近は新しいのが出来たから、こっちを使う奴はめっきり減ったが」
「辿っていけば、程なく人里の入り口です。ここからは比較的楽に歩けるかと」
「ホントだ、あんまり草も生えてない。きれいにしててえらいねぇ」
『きゅう!』
人通りは少なくなっても、ちゃんと整備をしている人がいるのだ。アンノスの住民たちのこまやかな心根を感じて、春ウサギを抱えたティナの足取りが軽くなった。
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