第15話:黒づくめの闖入者⑤
いかん、何をどう言っても引く気がしない。邪気など一切ない満面の笑みで言いつのって来る相手が、一瞬最近会っていない故郷の姉とダブった。女ってのはどうしてこう世話を焼きたがるんだ、と行き場のない疑問を抱くも、答えてくれそうな相手はこの場に存在しないわけで。
『ぴいぴい』
『きゅう~』
「う゛~~~……わぁったよ、食えばいいんだろーが」
邪気など一切ないつぶらな瞳(×二)に見つめられて、とうとう根負けしてしまった。とたんにぱあっと、さらに明るくなるティナの顔にため息をつきつつ、差し出してくる匙に向かって口を開けて、
ずダンッ!!!
……ちょうど真横から飛んできたものが、二人の間を通過してソファの背に突き刺さった。
匙を持っていた方の腕を風がかすめて、青ざめたティナが勢いよく振り向く先に、今まさに戸口から入って来る美しいシルエットが。
「――おい、貴様。その方に一体何をさせている」
地の底から響くかと思うほど低い声で宣ったのは、厳めしい武装に身を包んだエルフ族の青年――いうまでもなく、昨日の朝ぶりに会うシグルズだ。早くも次の矢をつがえているその目に、あからさまな怒りの炎が燃え上がっていたりする。いや待て、なんでそんな怒ってるの!?
「畏れ多くも女神の眷属に、食事を手伝わせるなど言語道断! 今すぐ冥府に送ってくれるッ」
「ままま待って待ってシグさん誤解だから! 無理強いされたんじゃないから、病み上がりにかこつけて私がやりたいって言っただけだからー!!」
「かこつけたの自体は否定しないのかよ……
いや、まあちょっと待て。いつもならそのケンカ腰はむしろ大歓迎だが、今ちょっと立て込んでるんでな。一旦引っ込めろ、シグルズ」
「何を年長者面で偉そうに……!!」
ツッコミを入れつつなだめてくる青年に、言い返すシグルズの顔は恐ろしく険しかった。初対面の時は比較的クールな印象が強かったが、実はけっこう感情の起伏が激しい方なのかもしれない。……いや、それはさておいて、今驚きの展開があったような。
「……えっ? じゃああの、ふたりとも知り合い!? なんで!?」
「は、いえ、知り合いというか、何というか」
「まあ、知ってる仲ではあるな。だろ?『
「その口永遠に閉じさせてやろうか、
「ええー……」
なんだこの、強敵と書いて友と読ませるような丁々発止のやり取りは。というかせっかく落ち着いたと思ったのに、さらなるトラブルが起こりそうな気配がただよっていないだろうか。
『ぴいぴい』『きゅうぅ……』
「うん、なんかますますめんどくさいことになってるみたい……」
これはイズーナが帰ってきたら、再び爆笑されることうけあいだ。目の前で一方的に火花を散らす男性陣にそんなことを思いつつ、ティナは小動物コンビをもふもふして癒しを補給するのだった。
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