暦更新評議会

 世界総人口が77億人を突破して久しい昨今。人類がどれだけ増え続けても、世界がどれほど荒れ果てようとも、年月はつつがなく進んでいく。

 そして、そんな世の中で、今年も年末恒例のイベントが発生していた。年越しではない。簡単なアンケートだ。SNSで、メールで、手紙で。様々な手段によって、全人類に配られたたった2行の選択式アンケート。

 そこには、こう書かれている。

 『来年になってほしいと思いますか?』




「えー。今年は47億6527万9243人が『来年になってほしい』と回答したため、無事に年越しできることとなりました」


 なんの変哲もない会議室に無感動な声が響き、まばらに拍手が発生する。


「無回答増えましたねー。やっぱり、昔と違って世界が繋がっているせいですかね」


「そうだろうねぇ。昔だったら、こういう『くだらないものがきたぞー』って晒し上げる土壌もなかっただろうし」


「昔だろうが今だろうが、毎年やってますから土壌はできそうですけどね」


 赤の他人が聞けば益体もない会話をしながら、会議室の人々は大きく伸びをする。


「まぁ、全然くだらなくないんだけど」


「そうだねぇ。これで『来年にならないでほしい』って回答が上回ると、暦が停止して世界止まっちゃうからねぇ」


 何気なく放たれた言葉。それは赤の他人が聞けば、妄想と一笑に付す内容だ。しかし会議室の誰もが、その発言を真剣な表情で受け取り、首肯した。


「暦。人が生み出した時間を規定する概念。私たちのご先祖さまも、まさかそんなものが生まれるとは思ってなかっただろうね」


「概念が根を張っちゃってるからねぇ。仕方ない仕方ない」


 暦が停止すれば世界が停止する。一見するとおかしな話だ。しかしこの世界は、人類が生み出した暦をもとに回っている。

 この宇宙において高度に発達した生命体は人類が最初だったがために、彼らの先祖は人類の時間を起点に宇宙の進行を制御した。しかし、人類は時間を暦として規定してしまったため、それの如何によって世界すら左右されてしまったのだ。

 人類が暦の進行を望まなければ、必然的に宇宙の進行が停止する。しかも、暦の停止を確かめるには全人類の意思確認をする必要があった。それゆえに、彼らはこうして集まり、毎年のように世界が滅亡しないための作業をしている。

 彼らの名前は、『暦更新評議会』。世界を作り上げた神の末裔にして、人間の未来を確認する人々だ。

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