18 再会-2-

(まさか…………)

 あどけない仕草の中に彼は見つけた。

 目元に並ぶふたつの特徴的なほくろだ。

「ティレル…………?」

 聞き慣れない言葉に少女は仔犬のように首をかしげた。

(間違いない! この子は――)

 彼は確信した。

 年の頃も一致する。

「ああ、ティレル……私だ。パパだよ。分かるかい、ティレル?」

 態度を豹変させたカイロウに少女は怯えていた。

 踵を返し、その場から走り去ろうとする細い腕を彼はしっかりと掴んだ。

「待ってくれ! 私だ! 私なんだ! お前のパパなんだよ」

 ぐいっと体を引き寄せた彼は、華奢な両肩を挟むようにして少女の顔をじっと見つめた。

 彼女は恐怖で目を合わそうとしなかった。

 幼児がいやいやをするように身をよじる。

 ここで離してなるものかと彼は両手に力を込めた。

「恐がらないでくれ。お前を迎えに来たんだ。私のたったひとりの――」

 彼は泣いていた。

 これまでの全てが報われた瞬間に、この男は数年分の涙を流していた。

「………………」

 やがて少女は抵抗することをやめた。

 目の前の、妙な格好をした男の落涙に彼女は困ったように視線を泳がせた。

 そして――。

 本能的な部分がそうさせるのか、彼女は背伸びをしてカイロウの頭をそっと撫でた。

 とても小さな手で。

 彼が何年も握りたいと思っていた、小さな手で。

「ティレル……」

 まずは、名前だ。

 ここにいる他の人間にも親から与えられた名前があるハズだ。

 今ではもう知る術はない。

 オリジンなら全て把握しているだろうが、あれはもうただのガラクタになった。

 しかし彼女の名前なら分かる。

「ティレル、これからはパパと一緒だ。ああ、もうどこにもやるものか。ずっと一緒に暮らそう」

 彼女を怖がらせないように、しかし再び離れ離れにならないように抱きしめる。

 こうして親子で睦まじく暮らす日を、どれほど夢見てきたことか。

 ここに妻がいないことだけが悔やまれた。

 生きていたらこの喜びは万倍にもなったハズだ。

「家を探さなければならないな。普段はどこで寝泊まりしているんだい?」

 少女はきょとんとした顔でカイロウを見上げている。

(そうか、言葉が分からないのだったな……)

 彼はひさまずいて目線を合わせた。

 汚れのない、美しい瞳だ。

「何と言えばいいかな……家……寝る場所……つまりこういう――」

 カイロウは身振り手振りで建物やベッドを表した。

 それが通じたのかどうかは分からないが、少女はくるりと身を翻すと林に向かって歩きだした。

(伝わっただろうか?)

 彼は微苦笑した。

 これからいろいろ教えていけばいい。

 声の出し方から言葉に作法。

 それから必要最低限の知識だ。

 この楽園なら、きっと覚えることは少なくてすむ。

 法律や賢い金の稼ぎ方のような汚い部分を教える必要はない。

「今度は絶対に離さないぞ……」

 止まっていた時は動き出した。 

 遅くはなったが、彼はこれからようやく父親になるのだ。


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