17 オリジン-3-
またしても部屋だった。
しかし彼らはその光景に釘付けになった。
正面の壁一面に巨大なモニタが埋め込まれている。
今は何も映っておらず、まるで真っ暗な夜空を臨む窓のようだった。
左右の壁には向かい合わせるように10センチ四方のモニタが隙間なく巡らされてある。
やはり通電はしていないようで、小さな画面の中にさらに小さな画面がびっしりと映り込んでいる。
(監視室のようだ)
カイロウがそう思ったのは、中央にある肘掛け付きの大きな椅子のせいだ。
高い背もたれにいくつかの装飾があしらわれた、値打ちのありそうな作りである。
施術の振り返りができるように施設にも似たような部屋があった。
だがカメラはせいぜい3台ほどで、そうそう見返す機会もないため監視室は無人であることがほとんどだった。
「見られていたのでは――?」
と言いかけたリエは、どのモニタにも映像が映っていないのに気付いた。
窓も見当たらないこの部屋にこれだけの機材があるというのに、蒸し暑さも感じない。
明らかな人工物と、使用した形跡のない冷たさに彼女は身がすくむ思いがした。
突然、椅子が回転した。
「………………」
座っていた何者かが、ぎこちなく口唇を動かす。
しかし喉からは空気が漏れる音しかしない。
2人は咄嗟に身を退いた。
青白い顔がそこにあった。
男とも女ともつかない、人間に似た顔だ。
銀色の肢体はたおやかで美しく、しかし一目見て生物ではないと分かる。
流線型のフレームに旧いタイプの四角いパーツが張り付いた、統一感のないボディ。
人に似せる気があるのかないのか、パーツの継ぎ目は隠れもしていない。
何者かは首のあたりにあるネジをつまむと、時計回りに3回転させた。
「……ア……ア……コエを……だすのも――久しぶりだ……発声器が錆びつ……ている」
喉の奥から発せられた音は最初は甲高く、徐々に聞き取りやすい音域に落ち着く。
口唇の動きは言葉とは合っておらず、高度な腹話術のように見えた。
「誰だ、お前たちは?」
2人を睨みつける動作も視線がまだ追いついていない。
「お前こそ何者だ!?」
リエの手前、弱腰になるワケにはいかないとカイロウは凄味を利かせた。
すると何者かは首をかしげるような動作をして言った。
「我を創った人間は我にオリジンという名を付けた」
「オリジン……?」
「意図は分かるがセンスがない。我に名など必要ない」
オリジンは耳の付け根にあるネジを回した。
「今度はお前たちが答える番だ」
2人は顔を見合わせた。
ここに来るまでまともな会話が成り立つ者はいなかった。
友好的とは思えないが、言葉が通じるならきっと得られるものがあるにちがいない。
そう考えたカイロウたちは求めに応じることにした。
「私はリエよ」
抜け目ない彼女はフルネームを避けた。
「リエ……1件。珍しい名だ。リエ・カザルス……元はコッサ家の長女。生後277日目にカザルス家に引き取られた、とあるな」
あまりにあっさりと素性を言い当てられ、彼女は驚くことすらできなかった。
オリジンの言を反芻し、その意味を理解できたのは無意識に止めていた呼吸を息苦しくなって再開した時だった。
「どうして……?」
湧き上がるさまざまな疑問も、たった一言で表現できる。
リエは後ろの壁を支えにした。
「記録のとおりだ」
オリジンは表情を変えずに言った。
口角はなめらかに動くようになり、ようやく言葉と口の動きが合うようになってきた。
「その目は疑っている。ならば学歴や犯罪歴も読み上げる必要があるか? 記録によれば5年前――」
「やめて!」
淡々と述べるオリジンをさえぎるように叫ぶ彼女からは平素の聡明さは感じられない。
カイロウはリエを横目に見た。
人は誰でも触れられたくない過去のひとつやふたつは持っている。
生まれた時から真っ当に生き、疚しいところがないのならそもそもあの施設のスタッフにはならない。
その弁えがあるから、今さら彼女に自分の知らない部分があったとしても驚きもなければ軽蔑もしない。
ただ、人並みに好奇心はあった。
一体どのような秘密を抱えているのか。
彼は知りたいと思った。
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