メガネ君、家に帰る
授業が終わり、下校する時間になった。放課後を知らせるチャイムが鳴る中、俺は一つの作戦を展開する。
その作戦とはメガネ君と友達になろうというものだ。彼の趣味は既に把握している。俺は帰ろうと廊下を歩くメガネ君に近づき、彼の肩を叩いた。
「メガネ君、今から帰るのか?」
「メガネ君って……僕は谷崎って名前があるんだけど」
「そうか、気にするなよ、メガネ君」
「……いや、いいや、メガネ君で。君を説得するのは大変そうだしね」
「今日話しかけたのは他でもない。噂で聞いたんだが、谷崎君はネット小説を読むのが趣味だとか」
「……僕は誰にも言っていないはずなのに、どこからその情報を得たの?」
「情報源は明かせないな。とにかく俺は同好の士を見つけられたことが嬉しくてな。ついつい話しかけてしまったんだ」
「へぇ~剣崎くんも好きなんだね。僕のオススメは――」
事前に趣味をリサーチしていただけあり、メガネ君との間に会話の花が咲く。これで友人を確保できる。そう思った矢先だ。校門前へ辿りついたところで、見たくないモノが視界に入ってしまった。
「見てよ、剣崎君、ロールスロイスだよ。それに金髪のメイドさんもいる。誰かを迎えに来たのかな?」
「かもな……」
平凡な人生を送る上で、世界一の大富豪であることを知られることは、あまり良い結果を生まないことは明白である。なんとしてもやりすごさねば。そう思っていた矢先である。クリスが俺の顔に気づいて、手をヒラヒラと振った。
「なんだか、剣崎君に向けて手を振っているように見えるけど……」
「いいや。俺のはずがないだろ。きっとメガネ君。君に手を振っているんだ」
「え? 僕?」
「異世界転生小説を思い出せ。いつだって平凡な主人公の元に、都合の良い展開が訪れて、人生の転機を授けるだろ。きっと今回もそうさ。メガネ君に一目ぼれしたお嬢様がロールスロイスの中で待っているんだろ」
「そうなこと起こるはずないよ……」
「試しに手を振り返してみれば分かるだろ」
「それもそうだね」
メガネ君がヒラヒラと手を振り返すと、彼に周囲の視線が集まる。中には視線だけでなく、実際にメガネ君の元へと駆け寄り、いったいメイドとどういう関係なんだと詰め寄る者もいた。注意がメガネ君に集まったことと人混みを上手く利用し、俺はひっそりと校門から逃げ出した。
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