9.愚かなる者1

 しばらくして、散らかった教会を片付け始めたルシフとレヴィアであった。

 夜にあんな騒ぎがあったにも関わらず、誰も気が付かなかったのは幸いだ。もし、目撃者がいたならあの悪魔がどう動いたか分からないからだ。

 レヴィアの魔法の一つ、回復魔法でなんとか動けるようにはなったルシフだが、長椅子を動かすほどの力は残っていない。

 何よりレヴィアには椅子を持ち上げる力がないのだから、椅子を元に戻すことは出来ないが、破壊され飛び散っていた椅子のパーツを運ぶことぐらいは出来る。

 そうして、少しずつだが教会を片付けた。

 

 片付けを始めて少し経った頃、ルシフは思い出したように話し始めた。

「さっきの悪魔。あの変身能力はまさに伝説の悪魔ダンダリオンが使った魔法に似ていると思うのだが……」

 それに便乗したレヴィアはまださっきの緊張が解けず、興奮気味だった。

「あの悪魔はまさに知の悪魔ダンダリオンに間違いないわ!」

 知の悪魔ダンダリオンといえば、黙示録を世界に知らしめした悪魔のことだ。

 今や彼を知らないものは居ないだろう。それほどまでに有名だ。

 彼は自分の興味がある事のためだけに人の前に現れる。そして、自分の知識と引き換えに新たな知識を得ることだけが生きがいだとされている。

 しかし、その本当の顔を見たものはおらず、目撃者はいずれも『顔見知りの顔をした何か』だという。それ故に、彼は『千の顔を持つ悪魔』とも呼ばれていた。

 

「まさか、俺がダンダリオンに興味を持たれるなんて思ってもみなかった……」

 驚きを隠せずにいるルシフだが、レヴィアがその言葉を訂正する。

「ルシフじゃなくて、ルシフの魔法に興味を持ったのよ」

「どっちでもおなじだろ?」

 ルシフにとっては魔法も自分の一部に違いない。だから、ダンダリオンの知恵の一部になれたことは光栄である。

 しかし、それは危険なことでもあった。ダンダリオンは悪魔の中では中位ぐらいの存在らしいが、もしまた戦いを挑まれることがあれば次は命すら危ういだろう。

 そんなルシフの危機感にレヴィアが気づいた。

「あの悪魔は貴方の迂闊さが招いたものだわ……。だけど、今回ばかりは私の責任とも言えないこともない……。次あいつが来ることがあれば私も本気で迎えうつわ! でも、これじゃあ本末転倒ね……」

「それは有難いが……本末転倒?」

 ルシフは首を傾げた。

 それ対し、レヴィアは「よしっ」と、なにかを決意したようだ。

 

「こうなってしまったら仕方ないわね。私がここへ来た本当の理由、それは聖者を探すことではないわ」

 ルシフにとってそれはとっくに知っていたことであるが、とりあえず驚いた素振りを見せる。

「そうなのか?」

 レヴィアは白々しいルシフの反応は気にも止めず続けた。

「それはダンダリオンが怖かったからよ……」

 ルシフにはその意味が理解出来ない。ダンダリオンを恐れることと、ここへ来たことそこに何の繋がりがあるのやら。

「じゃあ、何でここに来た? 結局ダンダリオンからは逃れられていないぞ?」

「それは難しい質問だけど……。とりあえず1から話すわ。あなたも知っていると思うけど、ダンダリオンは今や目を塞げないほど強大な存在になっているの」

「まあ、あの力を見れば強大さはわかるよな」

「なにも、彼の強大さはその力だけに限ったものじゃないわ。一番まずいのは彼の凶悪性。彼は悪魔達の統率者として、王国騎士団を壊滅させるよう働き掛けているという噂が流れているの」

 その言葉はルシフに緊張感をもたらした。

 

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