呪胎告知

ヰ坂暁

一章 呪胎

第1話

「おめでたですよ、丸屋さん」


 川越先生の言葉に、私は全身が総毛立った。

 レディースクリニックの一室、ベッドに寝かされた状態ですぐ横にある超音波診断装置の液晶画面を見つめる。白黒で映し出された私の子宮内、左下には楕円状の黒い影があった。川越先生がペンで差す。


「これが胎嚢……まだ小さすぎて見えないけど、中でもう赤ちゃんが育ち始めてるんですよ。妊娠八週前後かしらね」

「あり得ないですっ」


 反射的に起き上がり、否定する。ほとんど叫びに近く、声は引きつっていた。

 川越先生に落ち着くよう言い聞かされ、隣の診察室へと移る。

 全体に柔らかい色彩の空間だった。デスク脇の棚にはベビー服姿のティディベアが並び、窓際には大きな観葉植物も。私が腰掛けたスツールにもクッションが敷いてある。患者にリラックスしてほしい、そういう配慮なんだろう。

 川越先生はデスク上の小籠からフルーツキャンディを一つ摘んで私に差し出した。


「一つ舐めてから話しましょうか?」

「いいですっ! それより――」


 キャンディを寄越す手を払いたい衝動に駆られる。川越先生のその気遣いが、私には自分の恐怖を逆撫でされたようで不愉快だった。


「中学の時、私白血病で、骨髄移植を受けてるんです。ずっと生理もなくて」

「機能不全になった卵巣が後に回復するケースは珍しくないわ。性行為をなさっていれば、丸屋さんが自然妊娠なさる可能性は十分――」

「したことないです」


 男性と付き合ったこともない。少なくとも私の知る限りは、妊娠する可能性がもともとない。ないはずなのだ。


「それが本当なら、たしかに考えられないことだけれど……」

「本当、本当ですっ……信じてください」

「ええ、信じる、信じます」


 絶対に信じてない、懇願しながら思った。『この子は妊娠を認められなくて無茶な嘘をついている』――私だって自分のことじゃなきゃそう思う。


「あの、あの子が……私に……」


 実は、身に覚えがないわけじゃない。私に性経験がないのは本当だ。通常の妊娠はあり得ない。だから妊娠しているというなら、アレのせいってことになってしまう。

 アレが怖くて、精度九十九パーセント以上の妊娠検査薬で陽性反応が出ても受け入れられなくて、私は産婦人科ここへ足を運んだ。間違いだと証明してほしくて、でも間違いじゃなかったと突きつけられて。


「はぁーーっ、はぁーーっ……」


 知らず知らず、過呼吸のようになっていた。全身が悪寒に包まれ、ガタガタと震える。


「丸屋さん、楽にしなさいな。息をゆっくり吐いて」


 落ち着かせようとする先生の言葉は届かなかった。今すぐ嘔吐や失神でもしそうな心地で、けれどそうはならず、私の脳裏にはあの時のことが蘇ってきていた。


・・・


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