「そうですか。ま、俺も手を貸そうとはしましたけど、流石に正体をバレるのだけは出来ませんでしたからね。もし、手助けしていれば、もう少し情報を訊き出せたかもしれませんけど……」


 男は大きな欠伸をする。


「いや、今はこれだけで十分だ。深入りする程、相手のいいように操られる。それこそ何の目的かもわからない集団の手掛かりを失う方が怖い」


 バルトは、冷静に分析して言う。


 現場保存も難しく、すぐに列車ごと、壊れたレールも撤去し、すぐに修復作業に入らなければならない。


 手錠に自分の考えと、現場の状況などを書きまとめ、ポケットの中にしまう。


「あっ!」


 欠伸をしていた男は、何かを思い出したかのように声を上げる。


「どうかしたのか?」


 バルトはその声に反応する。


「いやー、そのですねぇ……。思っていたんですが……」




× × ×




「おーい、本当に洒落になんねぇーぞ……」


 ボーデンとラミアは、列車が本日中の運転は厳しいと判断を下され、街で途方に暮れていた。


「いいんじゃないの。もしかすると、これが案外ラッキーだったりして……」


「はぁ?」


 ラミアが変なことを言い出す。


「言い方が悪かったわ。もうすぐ、彼女が来るって事よ」


「彼女?」


 ボーデンが首を傾げると、遠くの方から車のクラクションの音が聞こえてきた。


 振り返ると、こっちに向かってくる一台の車が見える。


 そこには一人の女性が運転していた。


 運転の仕方に特徴があり、荒れに荒れている。見覚えがある。


「まさか、あの車は……」


 ボーデンは、嫌な思いを思い出す。


 車は二人の前で急ブレーキをし、エンジン音を鳴らしながら止まる。


「二人共、どうやら変なことに巻き込まれたようね」


 車に乗っていたエルザが話しかけてきた。


「おかげで踏んだり蹴ったりですよ。それで何をしにきたんですか?」


 ボーデンは、不服を言う。


「何って、あなた達の安否を確認しにきたのよ。まぁ、何も怪我せずにいてくれて良かったわ」


「俺達を連れて帰るとでも言うんですか?」


 ボーデンはエルザに問う。


「いいえ、そんな事はしないわ。予定通りとはいかないけど、このまま旅を続けてもいいわ。追加の金額は、後で請求してくれて構わないわ」


 ボーデンは意外な顔を見せる。


 エルザから連れ戻されると思っていたボーデンは、それを聞いて、何の風の吹き回しかと思った。


「それはいいんだが……」


「分かっているわ。そっちの調査も進めている。何かがわかり次第、私か、少佐から連絡を入れるわ」


「頼む……」


 ボーデンは悔しい顔を見せる。


「私からも一つだけ頼みごとをしてもいいかしら?」


「何でしょう?」


 すると、ラミアは、懐から小さな試験管を取り出す。


 中には真っ赤に染められた液体が少量入っており、小さく振るだけで赤い液体が混ざり合う。


「これは……?」


 エルザは、ラミアから試験管を受け取る。


「それは私達と戦った男の血よ」


「何っ‼︎ いつの間にそんな事をしていたんだ⁉︎」


 ボーデンも今になって気づく。


「戦いの最中に採血したのよ。私クラスの吸血鬼ならこれくらい余裕よ」


 ラミアはドヤ顔して、ボーデンを見る。


 ボーデンは、ムッとする。


「これくらいだったら何かしらの情報を得る事くらいできるでしょ?」


「はい、ありがとうございます。血液検査をすれば、調査に大きな進展があるかもしれません」


 エルザは、ラミアに礼を言う。


「エルザさん、少佐は?」


「あの人なら今もあそこで調査中だと思うわ」


「そうか。ま、早く帰らないと、何かをやらかす人だからな……」

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