11話 大野 巧3
「くそ!!完全にやられた!」
巧はベッド脇に置いてある目覚まし時計をベッドに投げつけた。
あの三人は先に帰しておいて正解だった。
喫茶店の帰りは、とてもじゃないが誰かに見せられる精神状態ではなかった。
まさか、自分と『類似』した力を持った人間がいるなんて。
自分が【視る】事が出来たときに、他にも同じ事が出来る人間がいるかも知れないという考えになるのは至極当然だ。
少なくとも、その可能性には気付くべきだった。
その迂闊さがあの喫茶店での失態に繋がった。
先手を打たれ、平静を装う事しか出来なかった。
そのうえ今後監視するとまで言われれば、巧は動きにくくなる。
『本来起こるはずだった未来に修正します。』
青野実の言葉を思い出し、巧は更に苛立った。
実際、巧は木戸にすり替える為にかなり派手に動いた。そこに違和感を感じた者もいるはずだ。
派手に動かざるを得ない程に、誰かが死ぬのを別の誰かにすり替える事は難しい。
あの公園での出来事も、子供を助けて未来を変えてみる、という実験のつもりだったが代償は高くついた。母親はきっと子供の代わりになれたのだから、本望だろうが、巧はあの公園の事故でも関係者だ。青野が調べれば、その事もすぐに分かる。
どんな手段に出るのか。考え得る全てに対策する必要がある。
それでも安心はできない。
あの口ぶりからするに、巧よりも以前から【視る】事が出来たに違いない。
青野しか知らないルールが、他にもあるのかも知れない。
青野は間違ってはいないし、事の全容が分かっている。声をかけてきた時から、巧の頭の中のサイレンは鳴り響いていた。青野の話を聞いて
『これからは未来を変えるのはやめて、大人しく、普通に生きるよ。』
そう言うとでも思っていたのだろうか。いや、思っていないから監視すると宣言したのか。と、そんな当たり前の事を考えている自分が馬鹿馬鹿しくなり、声を出して笑ってしまった。
巧にとって青野の存在は、これからの未来には邪魔だ。それにまだ手立てはある。
圧倒的に不利な状況には違いないが、必ずこの難関は乗り切る。
自分になら出来る。
青野は勝ちを確信していたからこそ、ミスを犯した。
『私が政宗を【視た】時の三日後と現実で起きた三日後は行動が違った。』青野はそう言った。奴には『3日後』の未来が視える。
そして巧も同じ『3日後』だと思っている。
巧が【視る】事が出来るのは『2日後』の未来だ。この勘違いは致命的なミスだ。
まず、未来を【視る】事自体があり得ない。
そのあり得ない事が出来る人間が二人もいるのだ。
自分も同じだと考えて当然だし、そう考えるのが自然だ。
もし逆の立場なら巧も同じ失敗をしていたに違いない。
この勘違いが青野の命取りになる。
巧は思い切り息を吐いて気持ちを整えて、これからの自分のすべき事を考えて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます