「ヤッホー！！」

　私は、この天界グランドヴァルにて、数々の勇者を召喚してきた天才女神、リザイアよ！！

　今日は後輩の女神サケノミコの異世界召喚を手伝いに来たわ！！

　一般的にはあまり知られてないのだけれど、異世界召喚って女神側も結構疲れるのよ？　勇者に私たちのパワーを使って、スキルを付与するからか、集中力と体力をかなり消耗するの。ベテラン女神の中には、そのストレスからハゲてる女神もいるわ。

神々しい光を出してくる女神は、だいたいハゲ隠し。

と、まぁ、そんな裏事情はさておいて！

私たちは、召喚する際、異世界転生者にどんな能力を与えるかをしっかり想像してから、勇者を呼び出すの！　

つまり、異世界転生者にどんなスキルを与えるのかは私たち次第ってわけ！！

　私は今までに、スキル「爆弾魔（ボマー）」やスキル「氷の女王（アイスプリンセス）」みたいな強力なスキルを勇者達に与え、

幾多の魔王を倒してきたわ！！！

　どう！？　凄いでしょ！？

「……って私、誰に話してるのかしら」

　──上がっていた両手を下ろして、冷静になる。

　だって、今日は、後輩サケノミコが初めての異世界転生を行う日。

　女神界を統一する大女神ミカヅチ様から

　かなりキツく女神サケノミコを頼むとお願いされている。

　私がしっかりしなくちゃどうするの。

　

「てか、あいつ来ないわね」

もう既に、異世界召喚をする時間なんだけど。

ったく、世話が焼ける後輩だわ。

早く、異世界召喚に慣れて、一人前の女神になって欲しいんだけどね。

このまま待っていても、来ない気がしたので

後輩の女神サケノミコの住んでいるアパートへと

足を運ぶことにする。

　ドンドン！

　少々、荒っぽくドアを叩く。

「ちょっとサケノミコー！　

早く出てきなさい、今日は異世界転生を行う日でしょー？」

「……」

　返事がない。ただの屍のようだ。

　……って女神は死なないんだったわ。

「起きなさーい！　サケノミコ、いるんでしょう？」

　諦めずドアを叩き続けると、ようやく反応があった。

ガラガラ、ドサドサと嫌な音を奏でながら、

こちらに近づいてくる足音とドア越しに

うっすらと聞こえるだらしない声。

ガチャリ。

「サケノミコ、やっぱり居るじゃない──って酒くっさっっ！！」

「なんだー、リザイア様じゃないれすか〜」

　部屋を見ると酒瓶が至る所に転がっていた。

それに、なんだか埃っぽい。生き物が住める部屋では相当ない。

「大事な日に、何してんのあんた！」

「大事な日〜？」

「今日は、あんたの異世界召喚の日でしょうが！」

「？　あー、そうれした〜。でも、昨日飲みすぎちゃって〜、

　あと、お腹もすきました〜」

「我慢しなさい！　ってもうこんな時間！！

　さっさといくわよ！　サケノミコ！」

　サケノミコを担ぐように、無理やり部屋から連れ出し、

勇者を召喚する場所まで案内する。

「オェー、気持ち悪い」

「ほら、しっかりして！　ここで異世界召喚を行うのよ」

「はいはい〜」

　勇者召喚ができるのは一つの世界に一度だけ。

　そして、召喚した時点でスキルはもう一生変更できない仕様だ。

　１つの世界を平和にする為には勿論、魔王と渡り合えるだけの強いスキルが必要。なので、私は、もう一度しっかり注意を促す。

「いいわね、サケノミコ！！　これは女神の仕事で一番大事だと言ってもいい

　異世界召喚よ！！　貴方が考えてきたスキルをちゃんと反映させるの！　失敗は許されないからね！」

　縛っていた髪の毛を解き、私は儀式呪文を詠唱する。

　途端、目の前に、大きな紋章が出現し、

　神々しい光が辺りを包みだす。

準備はOK。

「さぁ！　貴方が考えてきたスキルをイメージするのよ！」

「え〜とぉ〜なんだっけな〜雷鳴（サンダー）……？　なんだっけ〜」

　あら、でもサケノミコにしては、なかなか強そうなスキル名じゃない？

　なんか私がよく異世界召喚を行う日本からきた異世界転生者には、

　何度か、厨二臭いのが好きなんですか？

なんて言われたこともあるけど、勿論、褒め言葉よね。

「違ったっけ〜、……ウップ。なんか気持ち悪くなってきた〜」

「ちょっとサケノミコ！　しっかりしなさい！！」

「もうそんなことよりお腹空いた〜トマト料理が食べたい〜うへへぇ」

「バカぁぁぁぁぁぁぁ！！！　何考えてるのよ！！

　そんなことしたら！」

　『スキル付与が成功しました。

　これより勇者を召喚します』

　ボワーン。

　白い煙に巻かれながら勇者が出てきた。

「……ゲホゲホ！　ここは？」

　やってしまった。私は勇者のスキルを

　急いで確認する。

　神崎ゆうた（かんざきゆうた）　Lv1

　HP 104

　MP 90

　攻撃力　102

　防御力　102

　素早さ　95

　魔力値　78

　

　耐性　なし

　特性　なし

　備考　勇敢な性格

　うんうん。ステータスには特に異常はないわ。

　まぁ、レベル1の冒険者であれば、このくらいが普通。

　問題は……スキルね……。

　私はスキルを確認した。

　えーと。スキルは……

『スキル名　トメイトゥ。　

　スキル効果 トマトを出す』

……嘘だろおおおおおおお！？　やっちまったああああああああああああ！！

　なんじゃこりゃぁぁあああああああああああ！！

　てかトメィトゥってなによ！　何いっちょまえにカッコつけてんのよ！

　ただのトマトでしょうが！！

　私はサケノミコの肩を揺らしながら叫ぶ。

「あんたねええええええええええええ」

「やめてくらはい〜酒がでちゃいますううー、うっ本当にやばい」

　ダダダダダッ！！

サケノミコは私を突き飛ばし、走り去っていった。

「あんのバカ後輩！！」

「あのー、貴方は誰ですか？」

　あ、忘れていた。

　勇者トメィトゥを。

　違った、それはスキル名だ。

　名前は聞いてなかったんだ。

「えっと……勇者様、お名前は？」

「勇者……？　俺は神崎ゆうた（かんざきゆうた）ですけど……」

　名前に神が入っているわ……。

　強いスキルがついていれば、この先、カッコ良い勇者へと

　成長していたのかもしれない。

　しかし、貴方に今ついているのはトメィトゥよ。

　ただのトマト野郎。

「えっと……勇者ユウタ様。貴方はこの世界の平和を守るために勇者として召喚されました」

　すると、勇者ユウタは嬉しかったのか

　一気に表情が明るくなった。

「ほ、ほんとですか！　やった……！！　

　俺……！　こういう世界憧れてたんです！　やったついに俺も勇者だ！！」

　なんて純粋な心……。

　うう、心が痛い。

「そ、そ、そ、それは良かったです」

「勇者ってことは何かスキルついてるんですよね？」

　やばい。スキルのことを聞かれた。

「一応……ついています」

　嘘は言ってない。

「何がついているんですか？」

　えーい。もうやけくそだー。

　こうなったら正直に言うしかない。

　でも、せめてカッコよく。

「トメィトゥです」

「え……、も、もう一度言ってもらえますか？」

「トメィトゥです」

「トメィトゥ……？」

「はい、トメィトゥです」

「その……トメィトゥのスキル効果は？」

「トマトが出せます」

「……まじで？　他は？　ステータス上昇とか……」

「いえ、トマトが出るだけです」

「「……」」

「本当にそれだけ？」

「はい、ただのトマト野郎です」

「ふざけんなくそ女神イイイイイイイイイイイイイイイいい！！！」

「ひぃぎいいいい！！　わたふぃ悪くないもーん！！　いたふぃ！！　いたふぃ！！　ほっぺたつねらないでえええええええええええええ！！！」