【決意】“親友”との別れ
第2話 決意の炎 その1
「そういや、名前聞いてなかったな。俺はアベル。お前は?」
「僕はアラン……だよ」
人に自己紹介したのも久しぶりのような気がする。個人的には人と関わるのは苦手だ。
「お前、何でデッドルームに来たんだ? 見た所ただの一般人のようだが……」
「実は……」
僕は復讐の事を話すのを最初はためらったが、相手は命の恩人だ。思い切って復讐とその経緯を話した。
「そうか、復讐か……」
アベルが考え込む。何か知っているのか?
「実はな、俺も復讐を考えてるんだ」
返って来たのは予想外の言葉だった。まさかこんなところに同じ考えを持った人間がいるなんて。
「俺の仲間達の仇を討ちたいんだ。あいつらには必ず復讐してやる」
なんだか少し心が楽になった。同志がいるというのは心強い。
「なんなら、俺と一緒に来るか? 俺の知り合いに会って視覚を取り戻せる、さらにお前の復讐相手が見つかるかもしれない。……まぁ生憎俺は、『デッド・ルーム』にはあまり詳しくない。入ったのは三年前、割と新参だからな。お前の父を殺したやつの事はわかりそうにない……それでも良いか?」
これは滅多にないチャンスだと思い頷いた。
「まずは近くにいるはずの……あいつからあたってみるか」
僕達は村の入り口付近で留まっていた象に乗って目的地へ向かった。
「ボブ、また頼む」
頭にゴーグルを巻いている象使いにアベルが話しかける。知り合いだろうか。彼は青い上着を着用しているのは良いが、白地にヒョウ柄のズボンは少し趣味が悪いんじゃないかとも思ってしまう。
「隣の村までだ。……隣と言ってもかなり距離はあるがな」
一番前がボブ、続いて僕、アベルと座った。だがアベルの座っている場所には鞍が無く、ただ布が敷かれているのみ。僕が掴んでいる鞍のでっぱりを、僕の後ろから手を伸ばしアベルも掴んだが、おかげで背中にアベルの体が近くなっている事に何故か緊張してしまう。男同士だというのに。
「ごめんな……アイアンメイデン背負ってるから後ろに座るしかないんだ」
「いやぁ……別にいいよ」
僕の体に触れているアベルの腕は、少し細いように感じられた。まるで女性の様に。
「……よし行くぞボビー!」
ボビーという名の象はゆっくりと歩きはじめた。
「そういや、何の用があって隣の村まで行くんだ? あそこには何もないと言っていいほどの場所だぞ」
「詳しい事は言えないが、あそこにはボルガがいる。あいつに会いたいんだよ」
近くにいる仲間はボルガという名前の人間らしい。何色の持ち主なのだろうか。
「今更なんだけどお前……もしかして黄色の力を手に入れたのか?」
ボブは振り向かずに僕に話しかけてきた。突然だったものだから、少し言葉につまってしまう。
「あ、ああうん。ゴブリンに襲われてたら、たまたま通りかかったアベルにロストを渡されて……」
「そうかぁ……良かったな、アベル。あいつの後継者が出来て」
今度はボブは振り向きアベルに話しかけた。
「……ああ。アラン、お前は俺から絶対に離れるなよ」
アベルは僕の後ろから言ってきたが、実際のところ僕はバランスをとるのに手一杯だった。二人は象に乗る事に慣れているだろうけど、僕は初めてなんだから。
*
しばらくして目的の村に着いた。確かに何もない村だ。個性がまるで無い。木製の家屋がそこそこ建っているだけで。
ボブは他の仕事を探すらしく、僕達を下ろすとどこかへ行ってしまった。
「確か……あの建物だ。あそこにあいつがいるはずだ」
アベルが指を向けた先にはレンガで作られた少し大きい建物だった。
「よし、入るぞ。部屋の中は熱いから慣れが必要かもしれないな」
熱い……なんでだ? 何か実験でも行っているのだろうか。
「熱っ!?」
部屋の中はさらに熱かった。こんな場所に長時間いたのならば死んでしまう。
「俺はもう慣れた。だが……前回より熱くなってないか?」
熱さに倒れそうになり、慌てて外へ出た。
「もう無理だよ……熱すぎる」
「すまない……制御できなくなってきてしまったんだ」
急に背後から話しかけられた。振り向くと、赤い髪の男がいた。彼は上半身の服も赤いがズボンは黒色のものだ。
「制御できなくなってきたって…どういう事だ? ボルガ?」
そうか、この男がボルガ。彼も代償でこんな事になってしまったのだろうか。
「ああ、俺の体も限界に近づいてきたみたいだ。だが……俺の体を冷めさせる方法が見つかった」
ボルガの様子を見ても、特に異常は無いように見える。ただ熱いだけだ。
「氷のカプセル……あれを手に入れれば……だが、この村でもやるべき事が……」
「手伝うぞ。もちろんこいつもな」
アベルが僕の頭を叩く。身長差はかなりある。僕はしぶしぶ手伝う事になった。
「あいつが……グリーがこの村に来るんだ」
「グリー……確か、様々な村を襲っては殺戮を繰り返しているゴブリンか」
「今まで何回か戦ったが、一回も勝てなかった。だけど今の俺はこの力を制御できない。今までより大きいパワーが出せる」
「おい、そんな事したらお前の体が持たないぞ」
全く話についていけない。グリーとか、体が持たないとか、熱くて話の流れを理解できない。
「いや、あいつと一緒に死ねるんなら別に文句はないさ」
「あ……ちょっとカプセルを貸してもらえないかな……? 僕の視力を回復させるのに必要で……」
代償について説明した後にボルガからカプセルを借り、早々と部屋の外に出た。赤いカプセルだ。ロストラウザーにカプセルをセットすると、僕の体の中を熱が通ったように感じた。
同時に赤色の視力が回復し、すぐにボルガの手に返す。
「話はまとまった。この村に明日、グリーが来る。俺達三人で倒すぞ」
外で休む僕の耳にも入るように、少し大きな声でアベルは言った。
……グリーって強そうだけど、僕なんかが役に立てるのかな?
こんな熱い所では寝られない。村の宿に泊まる事にした。
*
「あー涼しいー……」
あんな熱い所にいたせいで、いつもの気温がとても涼しく感じる。ソファに座って水を飲むととても気持ちいい。
「ねぇ、なんだか僕……ボルガと前に会ったような気がしてるんだ。でも覚えてる名前は違くって……『ケイ』だった気がする」
「よく分からない話だな? もしかしたら前に黄色のロストを使ってたあいつの影響があるかもしれないが……それだったら名前を間違えたりはしない。気のせいじゃないのか?」
突然生まれた疑問をアベルに投げかけたが、特にこれといった収穫は無かった。恐らく気のせいだろうし、深く考える必要は無いだろう。
「そういえば、グリーってどのくらい強いの?」
「ボルガも強い。だがそのボルガを倒すんだ。かなり強いんだろうな」
アベルは窓から外の景色を見ながら話している。
「……僕達三人で勝てるのかな?」
とても不安だ。アベルはともかく、僕は戦闘経験がろくに無い。
「まあ、お前は少なくとも俺が見た中では一番カプセルに適応している。どうにかなるだろう」
……どうにかなるのかな? アベルの言葉でますます不安になる。僕達は明日に備えるため、早いうちに寝る事にした。
──意外と早く目が覚めた。こういう時に限ってぐっすり眠ってしまう。
「グリーが来たみたいだぞ」
アベルの声を聞いた僕はラウザーとカプセルを手に宿を出た。不安だけど、少なくとも前までの僕とは違う。きっとうまくやれる。
「あそこだ。あそこからグリーは来る」
ボルガが指を向けた方向には森があった。確かに、何か異形の者が迫ってきている気、がする。
「ガアアアア!」
ゴブリンの群れが森から飛び出してきた。かなりの数だ。
「まずはこいつらを一掃するぞ。グリーは後だ」
僕達三人はゴブリンの群れに向かって突っ込んでいく。敵の近くで戦う勇気はないから昨日のように遠くから攻撃することにした。
「俺がこのカプセルで動きを止める。ボルガとアランはその隙に攻撃しろ!」
アベルは昨日に手に入れたスパイダーカプセルを取り出し、ラウザーにセットした。
『スパイダー!』
アベルのラウザーからかすれた声が放たれた。次の瞬間、アベルの斧の先端から蜘蛛の糸が飛び出す。
「今だ!」
僕は離れた場所から攻撃、ボルガは剣をゴブリン達に振り下ろした。
「大体は片付いたが……まだ数は多いな……!」
ゴブリンは僕達の数十倍の数だ。終わる気配がしない。
「……っ!?」
ボルガが唐突に森へ走りだした。
「おいボルガ! 何をしている!」
「すまない! そいつらを頼む! 俺は……俺はグリーを倒す!」
小さくなっていくボルガの声。……とにかく、まずはこのゴブリンを倒さないと……!
*
「グリー……!」
俺は迷いながら走った。俺にグリーは倒せるのか。今度こそ殺されるかもしれない。でも、立ち止まる事は出来なかった。
だって……グリーは俺の一番の親友じゃないか。だから俺はグリーを復讐から解放する。必ず。
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