第26話 平和な町の周囲

 [あの蛙、ばらした時のこと覚えてるか?]

 (ああっ、覚えてるよ。触るのも嫌だったのに、アールヴが必要だからってなぁ……)

 [そう、そんでばらした時に透明で紫色のトローっとしたの出てきたの覚えてるか?]

 (あー、出てた!出てた!覚えてる!気持ち悪かったね!あれは!確か、今はとりあえずとか言ってアールヴが瓶かなんかに入れてなかった?)

 [あれが、マナだ]

 (へー、ってことは。それとアンナちゃんの持っていた魔石を何かするの?)

 [何かするって言うか魔石を近づけるだけだ。そうすると魔石がマナを勝手に吸収して大きくなるってわけだ]

 (ん?大きく?)

 [おう!って言っても、ほんの少しだけなんだけどな]

 (と言うことは、それを繰り返せばいいってこと?)

 [あのねーちゃんが希望する大きさまでってことか?]

 (うん)

 [ところが、そう簡単にはいかねーんだよ]

 (え?なんで?)

 [お前には、思い出してほしいんだ。俺にこの世界につれてこられて、今までの道のりを…]

 (うん……)


 アールヴに言われたミツルは、返事と共に目を瞑り昨日、そして一昨日と怒濤のように流れた日にちのことを思う。


 [それで、モンスターと遭遇して戦闘になったのってよ……蛙の一回だよな?]

 (うん、そうだね)

 [それで、あのねーちゃんの試験の期限ってのが後10日くらいだよな?ってことは……その10日という限られた期間の中で俺たちはモンスターと何度も戦いマナを集めて、魔石を大きくしていかなければいけないわけなんだけどよぉ……いねーんだな、そんなに]


 最後、アールヴが軽く言ってきた言葉にミツルは力が抜けてしまった。 


 (え?いない?)

 [おう!この辺りは、そこまでモンスターが頻発するような危険地帯じゃねーってことだよ]

 (えっ…でも、出会うと危険なのもいるとか言ってなかった?)

 [確かにお前ら二人で出会うと危険だと思うぞ、でも都市の回りには現実問題として警備とかもあるわけだろ?それ考えるとな……ん~]


 アールヴはそう言うと、腕組みをしながら考え込んでしまう。

 そしてミツルも彼の話を冷静に整理をしてみる。


 (この辺りはあまりモンスターがいない地域か……

 逆を言えばモンスターの心配が小さな地域だから町ができたというわけか……

 なんか皮肉な話に聞こえるんだけど……)

 [でもなー、そうは言っても、それが普通だと思うぞ。そんで、あのおっさんもその辺のことは考えてるみたいだぞ!]

 (あのおっさんって、ヨハンさんのことか?)

 [おう!さっきよ話の途中でおっさんが席を離れただろ?あれは、色んなヤツに助けてもらおうと片っ端から話をして魔石を持ってないかとか聞いている最中なんじゃねーのかな]

 (今日の話は、俺たちだけじゃなく他の人もされているってこと?)

 [多分だけどな、それで外出する冒険者がいたら魔石お願いしますとか片っ端に声をかけてるんだろーなー。でもなー、肝心のモンスターがいないんだからな……、かといって金も持ってねーだろーしな]

 (え?そうなのか?でもさ、モンスターがいないんだよな?)

 [おう!いねーなー]

 (その辺、どうすんの?)

 [それは流石にどうにもなんねーから…さらにもう一人お仲間がいるって言ってんだろ?そうなるとな、あのおねーちゃんのお願いは聞きたくねーんだよ]

 (えっ……、それなら他のみんなはどうしてるの?)

 [多分、金持ってるか、無理して借金してかわかんねーけど、どうにかして金を収めたってことだろ?]

 (そっかー……、ちょっともう一度聞くけど本当にどうにもならないの?)

 [俺等としても金を稼ぐチャンスだとは思うんだけどよ~。いねーものは流石にどうしようもねーからな。今のところは全く手だてがない感じなんだよな]

 (そっかー、分かった。ありがとう)


 ミツルの言葉に合わせて横ではアールヴが本当にどうにもならないというような表情で首を振っていた。

 その表情を見ると、ミツルはアールヴの言っていることが一層真実味を帯びているように思えてしまい、深く肩を落としてしまった。

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