第12話 アンナとルーク

 ルークを見つけると、駆け寄ってきた少女は名前をアンナというらしく、やはり見た目が似ているだけあって姉ということだった。

 アンナはルークを見つけ充とアールヴの元まで来ると、言葉も早々にルークの腕を引っ張ったのだが、彼は頑なに二人の前を動こうとはしない。

 そして、彼の視線はただ一点に向けられている。


 [おい、コイツ……明らかに肉を狙ってるよな……]

 (視線的には、確かにそうですね。とりあえず一つ、あげますか?)

 [えー、俺が食う用に焼いたのによー]

 (別に一つくらいなら、たくさん炙ってるわけですし。それか気にせず見られたまま食べますか?)

 [えーっ!!何だよそれ!って言うかよ、一つやれば、あっち行ってくれんだよな?]

 (んー、そこはどうでしょうか…)

 [なんだよー。確定でいってくれるわけじゃねぇーなら、あげるだけ損だろ?]

 (損かどうかは…とりあえず確かめてみましょうか)


 充はアールヴとそんなやり取りを繰り返しながら、試しに肉を一つとってみると、ルークの視線が動いた。

 彼の視線を追ってみると……

 やはり充がとった肉に向けられているように感じる。

 そこで確認の意味も含めて、充は持っている肉を大きく左右にふってみると、やはり彼の視線もそれに合わせるように左右へと移動した。


 「よし!ルーク君って言うんだな?」

 「……」

 

 肉を持ちながら充は彼に話しかけるが、やはり先程同様に答えを聞くことはできない。

 だが、先程とは違い彼は静かに首を縦に振った。


 [なんだよ、コイツ。さっきはうんともすんとも言わなかったのによぉ]

 (まーまー、その辺は、小さい子なんだから多目に見ましょう)

 [ったくよー。んで、どうすんだよ]

 (うん。それなんだけど……、ちょっと任せてもらっても良い?)

 [あー、分かった]


 アールヴは、充にそう伝えるとルークと一切目を合わせずに肉を食べ始める。

 それを見て、ルークの目は一瞬アールヴの方にいくのだが…


 「よーし。ルーク君!ちょっとこっちの方を向いてくれるか?ちゃんということ聞いてくれたら、これやるからな!」

 「……」

 「えっ……?」

 

 充の言葉に無言だが首を向けるルーク。

 そして、その姉であるアンナも不思議思ったのか充の方を向いた。

 

 「あっ、アンナさん。すいません、ちょっと話す順序が逆かもしれないんですけど、もしも迷惑とかじゃなければ、昼御飯一緒に食べないですか?」

 「えっ!!ほんとですか?!と言うか、そんな今会ったばかりだというのに…そんな、申し訳ないです」


 充は、この時、アンナの断りかたが若干、オーバーに感じてしまう。


 「あっ……、そんな別にたかが昼飯ですよ?別に軽く食べてもらって……」

 「いえ、いえ、いえ、そんな気軽に食べ物もらってなんて、恐れ多くて!」


 オーバーなくらいに両手を振って断ろうとする彼女。


 [あー、この辺のやつはよぉー。ビンボーで昼飯を食う習慣がねぇーんだよ。だからよ、多分、そのおねぇーちゃんは俺らの事をどっかの貴族かなんかだとおもってんじゃねぇーのかな]

 (なんだよ……それ、って……それなら、前持って言ってくれよ)


 また例によってアールヴのアホがと思いそうになり周囲を見ると……


 確かに充たちの他に昼飯にしようという連中はいないように見える。

 と言うか、いくつかの視線が充たちの方に向いているように感じるので、どうやら充たちは変わり者と思われているのかもしれない。 


 (でもそれなら…)


 「あー、ごめんなさい、アンナさん。正直に申し上げましょう。実は私たちはこの辺りのものではありません。だからと言って、怪しいものでもありません。ですから安心してください」


 [おい、お前。怪しいことするやつって言うのは、大体が普通に見えるもんだぞ。私怪しいですよって言ってから怪しいことするやつなんていねぇーだろ]

 (ちょっ……、そんな……お願い、ちょっと黙って……)


 アールヴの口やかましい一言に負けず、充はアンナの顔を見ると……

 どうやら悪い雰囲気を作っているようには見えないようで、もう少し会話を続けられそうだという判断をした。


 「あのー、それは何となく……はい」

 「それで、そちらが良ければなんですが、そちらにいくつか聞きたいこととお願いしたいことというのがありまして、それを聞いてくれませんか?もしも聞いていただけるのであれば、お礼にこの食事の方をという事を考えているのですが」

 「聞きたいこととお願いしたいことですか?えっ……、どんなことでしょうか?」


 (少し柔らかくなったかな?)


 「はい。先ず聞きたいことというのは、この辺の地域についての情報です。何せ私たちは、この隣にいるアールヴと今二人で旅をしているのですが、情報がなくて……後、お願いしたいことというのが、手続きの方なんですが……」

 「手続きですか……?」


 っとここでルークが、アンナの手を離れて充の側に来た。

 彼女は充と話していたことがわざわいして、気づくのが遅れてしまう。

 充のズボンを引っ張るまで彼女はルークの存在に気づかなかった。


 「んー?どうした……?って……、あーこれね。分かった先ずはくれということか。はい、どうぞ」

 「あー、もう。ルーク!だめでしょ!」


 ルークはアンナの言うことは、関係ないとばかりに充から肉を貰うとアールヴの隣に座って肉を食べ出した。

 余程腹が減っていたのか、ものすごい勢いで食べている。


 「いやー、大丈夫ですよ。良ければアンナさんもお一つどうぞ。座って食べながら話しませんか?」

 「えっ……、そんな……悪いです……ちなみに……なんのお肉なんですか?」

 [青毒蛙ブルーポイズントードだぞ!]

 (サンキュー!アールヴ!)

 「えーっと、青毒蛙ブルーポイズントードです」

 「えー!!青毒蛙ブルーポイズントードなんですか?!」

 (なんか、凄い勢いで驚いてるんですけど……。そんな貴重なのか?)

 [多少な……]


 アールヴとアンナの反応の違いに充は戸惑いを隠せないが、今はそれどころじゃないと話を続けることにした。


 「あー、大丈夫です。肉がダメなら魚の方もありますし、それにストックは十分ありますすので」


 そう言いながら充は魔法の袋を見せアピールした。


 「えっ……、あっ……。ほんとですね。それなら、いいですか?」

 「どうぞ、どうぞ」

 「はい、それではありがとうございます」


 若干、態度は固いように思うがアンナも少し慣れてきたのだろうか、ようやく腰を下ろしてくれた。

 

 「それで、手続きの方をどうしようかと困ってしまいまして……」

 「えーっと、手続きと言うのは、何の手続きなのでしょうか?」

 「はい、町に入る手続きについてなのですが……」


 こうして俺はこのアンナと言う少女から銀貨を借りることができないかと賭けに出た。

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