魔力計測とチームメイトと潜む影Ⅳ

 食堂を出た後、オレ達は国語・数学・社会などの一般科目を受講した。これらの科目は保護区の訓練施設で叩き込まれていた。教員の説明は理解できたし、隣席で頭を抱える彩早に教えることもできた。だけど、魔術開発の講義になると頭を抱えることになった。


 魔術開発は一般的なプログラミングと変わらない。使用するプログラミング言語は魔術開発独自のものだが、基本的な文法は保護区で学んだことがあるため、教員に与えられた課題を問題なくこなすことができた。


問題があったのは左隣に座っている憩依だった。彼女はオレの傍らから、オレが書いたコードを覗きこむと、実用的ではない、とオレに修正を求めた。彼女の理想は高く、正しく動くだけではなく、パフォーマンスも考慮させられ、オレは頭を抱えて、課題の提出に追われることになった。そして課題の提出がどうにか完了すると、憩依は刺々しい口調でオレに言った。


「教科書通りに動いて満足する程度ならうちにはいらないから、そのつもりで学んで」


 そう言い残し、憩依は重みのある足取りで、化粧室へと向かった。そんな憩依の後に彩早も続き、その場に残されたオレと和毅で先に教室に向かった。その途中、和毅はオレに語りかけた。


「憩依に罵られて大変だったな」


「……さすがに無茶ぶりだ」


 和毅も同情するように頷いた。


「普段の憩依はもっと優しいんだけど、今日は不機嫌だった。運が悪かったよ」


 和毅は苦笑して続けた。


「ここだけの話、入学した頃の憩依は優しかったんだ。ルックスもいいから男子は皆、憩依とチームを組みたがった。だけど、そういう奴らは憩依が目当てで魔術に不真面目だった。だから魔術に真面目だった憩依が怒ったんだ。それがきっかけで、陰湿な連中に目をつけられて、憩依は虐められるようになった。それからずっと憩依は気を張ってピリピリするようになった。そんな憩依が気を許していたのが正也だったんだけどな……」


 それから和毅は歩調を早めた。そしてそれが会話の終わりであることを察し、オレはそれ以上何もきかずに教室に向かった。教室では放課後に勉強会をやるという話題以外で、憩依達と会話を交わさなかった。というよりも、クラスメイトがオレを見てヒソヒソ話しているのが気になり、あまり話せなかった。


 しばらくして、担任の遠野が教室にきて、ホームルームが始まった。この日の連絡事項は特になく、遠野の雑談が続いた。恋人ができないだの、どこのお店がおしゃれだっただの、そうした話題を提供することで遠野は女子生徒に親しみやすさを、男子生徒にまやかしの希望を与えるのだった。そしてホームルーム終了間際に、遠野はオレに生徒指導室にくるように告げ、解散した。


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