第17話 狂宴 3

あれからしばらくして、冒険者たちに変化が起きた。


今までは、カレンと呼ばれる女を異常に守りながら進んでいる傾向が強かったのだが、ボルがやられた部屋から、それぞれが全力でモンスター達に当たるようになっていた。


現在の彼らの位置は、このダンジョンの中腹。


まだまだダンジョンとしては小さい俺は、全力をもって彼らを迎え撃っていが、動きに自由度が出た冒険者たちは、確実に奥へ奥へと進んできている。


やはり、大剣の男(タイガとか呼ばれてたか?)とカレンと呼ばれている女が厄介である 。


奴らは、今まで積極的に戦いに参加しておらず、傍観していることが多かったが、うち漏らしや他の冒険者のサポートを積極的にするようになった。


そのせいで、スライム達を絶え間なく差し向けてはいるが、リポップの時間が奴らの討伐速度より遅いため、予定よりも深く侵入を許してしまっていた。




(やはり、あの広場で迎え撃ってもらうしかないな。)




そんなことを考えているとき、待ちわびていた連絡が遂に入ってきた。




【準備、完了。

仕掛けも、よし】


「……わかった、合図を待て」


【了解】




アルファの端的な返事に頷いた俺は、洞窟内を観察することをやめた。

そして、意識をある部屋に向け、そのまま来訪者達がたどり着くのを待った。







さあ、これを越えられたらお手上げだ。

全力でやらせてもらおう。













==============




「また開けたところに出たな、注意しろ」




先頭を歩いていたタイガさんが、こちらを振り返りながらそう促してきた。

全員が無言で頷くのをみとめた後、彼は大剣の柄を握り、ゆっくりと広場に侵入した。

他の面々も、それに続くように警戒しながらなかに入る。


私は、カターシャさんの片腕を掴みながらそれに続く。


彼女は、終始抵抗する様子を見せず、黙って私に手を引かれている。

てっきり、何かしらのアクションをしてくるかとおもっていたのだが、今のところまだなにもない


彼女のこれまでの態度や反応から、嘘や演技臭さは一切無い。

そこは、冒険者をしている時から変わっておらず、少しホッとしている自分がいた。



念の為、スキルによる様子見も行うが、感じ取れるのは


"深い謝意"と"懺悔"

それと "死への渇望" だろうか?


私のスキルは、対象の感情や少し先の未来を見ることは出来るが、正直そこまで正確ではない。


未来の方は、本当に数秒先までしか見れないし、相手の感情だって、ざっくりしたものや部分的なところしかわからない。


でも、わずかな情報だけでも充分過ぎるくらい優秀なスキルである。



しばらくすると、不意にひらけた場所に繋がる通路があり、皆がそちらへ入ったところで、突然強烈な殺気が私たちを襲った。



「カレン、構えろ。・・・・・来る。」




タイガさんが、大剣を水平に構えてそう言った。


全員がそれを見て、臨戦態勢に入り、辺りを見渡す。


薄暗い広場で、周囲を警戒すること数分。

すると、部屋の奥から、ドスッドスッと重々しい足音が聞こえてきた。




「ハッ!どうやらギルドは、ダンジョン危険度を甘く見積もったみたいだな?

あいつがいるなら、ここの危険度は、最低2ランクは引き上げだろ?!」



1人の冒険者が皮肉混じりにそう言うと、奥から姿を現したそれを見て、私たちは驚愕した。


普通ならばいるはずのないモンスターの登場に、何名かは小さな悲鳴を漏らした。


私たちの前に姿を現したのは、身の丈3メートルはあるのではないかという巨体。


岩肌のようにごつごつとした発達した筋肉。

そして、その凶暴性を撒き散らすような鬼面。


そう、本来ならば危険度A相当のモンスター。



「・・・オーガ?」



巨大な岩の戦斧を担いで現れたそれは、一瞬でこちらの冒険者たち数人をパニックに陥らせた。




「うっ、うそだろ!?。なんでオーガなんて化け物がこんな低ランクダンジョンに?!」


「か、勝てません!!!。あれには、勝てませんよぉー!!!」


「に、にに、逃げるでござる!!!」




騒ぎ出した冒険者が、ジリジリと後ずさっていた。

いきなり直面したイレギュラーに、混乱して逃げ腰になっている。


オーガは、地の底から響いてくるような重低音を漏らしながら、徐々にこちらに近づいてくる。




「皆さん落ち着いて!オーガであれば、タイガ様のサポートをしていただければ、討伐できます!」




短槍を構え、タイガの少し後ろに位置取った私は、タイガのサポートをするために短槍を構えた。


そして、千里眼スキルをオーガのいる範囲までひろげ、驚愕した。






【?????】





な、なに?今の声??

オーガの感情が、みえてこない?

いや、正確には、みえてるけど・・・・・疑問符だけ?



今までであれば、オーガは基本的に殺気立っているか、怒りに飲まれている。


激しい感情は、しっかり伝わってくるのだ。


だが、目の前のオーガは・・・"困惑" "疑問" "戸惑い"


おおよそ、オーガから感じたことの無い感情達に、私は少し面食らっていると、タイガが声をかけてきた。




「どうしたカレン。

スキルを使ったんだろ?、わかった事を教えてくれ。」


「っっ?!

わ、わかってます!もう少し待ってください!」




私は気を取り直して、再度オーガに集中した。

そして、伝わってくる感情に絶句した。




【・・・・。????。笑笑笑笑】





伝わってきたのは


【"思考" して、"疑問"に思い、"嘲笑"。】


であった。


…待って?本当にどうゆうこと????


い、今までにないタイプだ。


まあでも、こちらを明らかに脅威と感じておらず、侮っていることはわかった。


ならば、それなりの対応をしてやるだけ。




「明らかに舐めています。初撃から全力でむかってください。」


「ん?珍しいな?オーガが奢ってるのか?・・・まあ、わかった。

なら、初めから全力で行かせてもらう」


タイガはそう言うと、構えていた大剣を一度旋回させ、背中にしまうと両手をパンッと打ち鳴らした。




「彼のものを穿ち、全てを薙ぐ力を

─────”心武・大刀“|(ライフウェポン・ソード)」




タイガは、合わせていた両の手を徐々に開いていくと、そこにかなりの太さがある剣が生み出された。

それは、先ほど使っていた大剣よりも大きく、そして長い。

彼が生み出した剣を握ると、それを、悠々と振り回し、一度肩に担いだ。




「さあ、やるか?オーガ」




不適な笑みを浮かべてタイガがそう言うと、オーガは手に持っていた大剣を同じように肩に担ぎ、大きな口を歪めて笑みを浮かべた。


私もタイガのサポートに徹するが、隙あらば攻撃してやるつもりである。




「悪いが、俺のやりたいように動く。後ろは任せるぞ」

「わかりました、任せてください。」




私の言葉を聞いて、タイガはザッとかけだした。

私もそれに続く、そしてタイガの背中が一瞬で目の前から消えた。




【!!!】




タイガの姿が消えたことで驚いたのか、オーガはギョッとした顔をして、すぐに担いでいた大剣を肩から外し、周囲をキョロキョロと見回し始めた。


酷く隙だらけ、どうやら大した時間はかからないかもしれない。


私がそう結論づけだ時、ちょうどオーガの頭上にタイガが振り上げた大剣を叩きつけようとしている姿が見えた。


私も真正面から刺突の姿勢をとり、そのまま突っ込む。


オーガは私の方へ大剣を振り上げ、横薙ぎに振るってきた。


もちろん、そんな大ぶりの攻撃が当たるわけがない。

身を低くしてかわし、そのすぐ後にグシャリという音が聞こえてきた。


タイガの大剣が炸裂したのだと確信して、私は低くした身体をバネのように使い、オーガ目掛けて短槍を突き出した。


そして、深々と短槍を突き刺し、顔を上げたところで、目に映った光景に困惑した。




「あがっ、ぐっ、がふっ!!」(驚愕、痛痛痛)


【笑っ笑っ笑っ!!!】




タイガの激しい痛みの感情と共に、オーガが先ほど振るった大剣が、大きく飛び上がっていたタイガの左足に命中しており、苦しそうに呻いていた。


しかも、オーガの大剣は振り切られており、タイガごといた。


どう言うことかと思いつつも、私はそのままがら空きになっているオーガの腹部に短槍を突き立てるため、倒れ込むように後ろへ飛び退く。


がっしかし、刺さった短槍に力を込めたところで、ガクンッと身体が後傾になった状態で止まった。



どういうことかと短槍へ視線を落とし、ようやく異変に気がついた。



(────槍が刺さっているのに、血が、出てない?

それどころか、短槍が抜けないっ?!)



そう判断するがはやいか、私は素早く武器から手を離し、そのまま倒れ込むようにして後転した。


すると、私がいた位置にゴウッと大質量の何かが振り下ろされた。


転がった私は素早く体勢を立て直し、オーガを見て驚愕した。


オーガは、酷くしわがれた顔で拳を私がいたところに振り下ろしており、彼の側頭部には、しっかりと自らの戦斧が突き刺さっている。


その近くには、タイガが大剣を支えにオーガを見据え、もう片方の手でソウルウェポンの方を構えていた。



オーガは、頭に刺さっている戦斧を掴み粗雑に引き抜いた。

そして、抜いた勢いのまま、ダメージの残るタイガへ向かって横ナギに振るった。


咄嗟にタイガは、大剣を素早くそれに合わせ、戦斧を受け流す。


だが、踏ん張りが効かずにそのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった。



(ま、まずい!

何とかしないと・・・全滅する)




私はチラリと後ろを確認した。

冒険者たちは、萎縮してはいるものの、戦意を失っている様子は─────ない。

ならば・・・



「急いでタイガさんの回復を!

後ろへ下げてください!!!


───私が引きつけます!!」




私は、再びオーガ目掛けて駆け出す。

オーガは、戦斧で凹んだ顔のまま、ニタニタ笑って棒立ちのまま、こちらを見下ろしていた。


明らかに侮っている。

モンスター風情が、目にものを見せてやる!


私はオーガに辿り着くまでに両手に魔力を込める。


そして、オーガに突き刺さったままの短槍目掛け、真っ直ぐに突撃する。


オーガは、突っ込んでくる私を見て、戦斧をゆっくり大上段に構えた。

必然、短槍をこちらに差し出すような姿勢になり、その表情は相変わらずニタニタと笑っていた。


(こちらを小馬鹿にするかっ!!それが命取りよ!)


止まることなく突っ込んだ私に、オーガは戦斧を力一杯振り下ろしてきた。

そんな大ぶりの一撃、当たってやる程、私は親切では無いっ!!。

最小限の動きで振り下ろされた戦斧を躱した。

すぐ近くの地面が激しく吹き飛び、激しい破壊音が鳴り響く。


だが、私は止まることなく、魔力を溜めた両手を突き出し、短槍の石突きに両手を押し当てた。



「――――――目覚めの時、真の姿を解き放てッッ!!

覚醒:流星槍マキシ:スターランス》ッッッ!」



私の声とともに、石突きに添えた両手から、一気に魔力が短槍へと流れ込む。


すると、一度脈打つように短槍が輝き、そして、両手を石突きから柄へと滑らせるように掴み、力を込め、一気に槍を上方へ切り上げた。


短槍は、突き刺さったまま、オーガの腹部から上方へ流れるように斬れ、ついに顔まで到達した槍先が縦1文字にオーガを切り裂いた。



そして、姿を現した槍はキラキラと輝いていた。



私の自慢の短槍、“流星槍”。



その希有な特徴は、魔力に反応して共鳴し、激しく刃を振るわせる。


これを発動した時の切れ味は、魔力が切れない限り衰えず、あらゆるものを切り裂く。


まさに必殺の槍である。


私は、オーガをにらみつけながら素早く後方へ。

身体を裂いてやったのだ、暫くは動けないはず。


私は瀕死のタイガの元へと駆け寄る。

彼は既に冒険者達の治療を受けており、治療を施している魔法使いの少女が、大粒の汗を浮かべていた。


わずかに苦戦しているように見えるが、回復薬を振りかけ、他の冒険者が治療の手助けを行っていた。

あれならば、すぐにタイガは復帰してくれるだろう。




「か、カレンさん!!オーガはっ!?」


「・・・まだよ、あれでも死なないみたい。」




そう言って振り返れば、大きく裂けた傷をものともせず、オーガは再び動き出していた。


だが、ややしばらく様子を見ていたが、腹から真っ二つに裂けたオーガは、まるで状況を理解出来ていないのか、先程から【???】と疑問の感情のみを浮かべていた。


・・・・あと少し、あと少しで倒せるはず。




「回復は・・・・まだ無理そうですね。」





オーガが困惑していることで、少し安堵した様子の彼らが口々に何か言っているが、能力を発動している私には耳障り以外の何物でも無い。


だが、脅威が去ったわけでも、ましてや逃げ帰るにはまだ情報が足りない。


スライムの洞窟と仮称しているこのダンジョン。

罠や出てくるモンスターの強さからも、A相当は硬い。

だが、あまりにも不可解な点が多い。


A相当なら、ライン爺やカイゼルさんがやられた理由としては弱すぎる。


それに、このオーガもかなり異常であるが、あのカイゼルさんや、ましてやパーティーで入ったライン爺が遅れを取るような事態になるとは考えにくい。


必ず、必ず何かある、はずなのだが……


そんなことを考えていると、徐々に静まり返る広場。







そして












・・・シューーーッ・・・パチンッ!!











「────なにっ、この音?」




辺りを警戒していた冒険者のひとりが、妙な音を聞きつけ、そう呟いた。


思考をしていた私は、その声に反応して素早くスキルを展開した。






【・・・怒、・・怒怒・、・怒・・怒怒怒怒】








それは、まるで炎の様な勢いで徐々に勢いを増している“怒り”の感情。


スキルが示す先は、先程まで困惑していたオーガであった。



(やはりあのオーガ、まだなにかしてくるつもり??

・・・やっぱり、これ以上は無理??)




情報不足であるが、これ以上調査を続ければ、間違いなくただではすまないだろう。


だが、間違いなくこのダンジョンはこれまでのものとは全く違うものである。


危険度の割に凶悪なトラップ・・・

強い固体の混じっているモンスター達・・・


スキルでずっと感じている、正体がつかめない視線・・・





不明なことばかりだが、これ以上ここにいては、貴重な上位冒険者であるタイガさんまで失うことになる。


それだけは避けねばならない。






【怒怒、怒怒怒怒、怒怒怒怒怒怒怒怒怒ッッ】






徐々に伝わってくる怒りの感情が激しくなっていき、オーガの傷口から煙が立ち上り始めた。


オーガの肌は、赤く熱を帯びるように光だした。

加えて、煙や光が強さを増す中、周囲の温度も上がってきているような気がする。




───まさか、オーガの身体が燃えてる?




まるで、その考えを肯定するように、オーガは先程までのニヤケ顔を激しい怒りの色に染め、傷口から、ゴウッと激しい炎吹き出した。




【ゴガアアアあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーーーーっっっっ!!!!!】





激しい雄叫びの後、傷口から吹き上がる炎が僅かに収まり、まるでオーガの身体を包み込むように燃え上がり始めた。


あまりの炎に、ここまで熱が伝わってくる。

そして、よく見ると先程炎を吹き出させていた傷口は塞がり、代わりに目や口の端、背中から激しい炎を立ち登らせ、正しく鬼の形相でこちらを睨みつけてきていた。




(ま、まさか・・・こんなことって?)




私は、目の前で起こったあまりのことに、思考が止まっていた。


本来、オーガは危険度A相当の危険なモンスターである。

それは、あくまで"平均的な危険度"が、Aなのである。

オーガは、種族的に他生物を嫌う性質があり、今回の場合はオーガらしくない、嘲りを持つ個体であった。


だが、力や戦闘力を加味してもせいぜいが"B"や下手をすれば"B-"程度の動きや実力しか持ち合わせていないような個体だ。


血が出ない特異な部分があったにしても、やってやれないことは無い程度の特性であった。



だが、はるか昔────

過去に1度だけ、オーガを"A"に匹敵する位置付けにした事例が存在していた。



それは、1度絶命したオーガが、突然立ち上がり、激しい炎を纏って凶暴化した事例である。


そのあまりの攻撃の激しさ、被害の大きさに、ギルド職員を半数以上動員して、やっと収束させた、いわゆる大事件であったのだ。


しかも、オーガは"討伐"したのではなく"自然消滅"したのだ。


そのオーガは、辺りのものをもやし尽くし、あまたの命を炎に変え、そして、燃え尽きたのだ。



そのあまりの凄惨さに、ギルドはオーガの危険度を"A"まで引きあげたのだ。


そして、その個体にも特殊な名前がつき、その際に発生した炎にも名前が着いた。


それが─────




「─────"エンキの鬼火"?」


【ゴウガアァァー!!!】



呟くようなそのその一言を皮切りに、オーガが吠えた。

そして、戦斧を振り回したかと思えば、自らの纏っている炎が戦斧に燃え移った。




「ま、まずいぜ!あんなん近付くのもやべー!!」





不安げな声を上げる冒険者が、こちらを見てくるが私はどこか他人事のように現状を俯瞰していた。


(どうする、あれがエンキなら、間違いなくあの炎は"鬼火"、燃え移ってしまえば終わりだ)


短槍を握り直しながら、私は炎をまとった戦斧を見た。

オーガが、今にも飛びかかってきそうな勢いで戦斧を振り回す。

飛び散った火の粉が、辺りの地面や壁を燃やしている。


(どうすれば、炎の魔法は効かないだろうし、半端な水の魔法は、かえってこちらが不利になる。

それに、私の攻撃じゃあ一撃で倒すのは───)


思考を巡らせ、辺りの音を聞いている最中、私の横を何かが通り過ぎた。

そして、それが何かすぐに把握した私は、声をはりあげていた。




「今調査は、現時点を持って"失敗"とします!!

速やかにダンジョンから離脱!!!

ギルドへの報告へ向かってください!!!

殿は、"私たち"が務めます!!!」




言い終わるのと同時に、炎を纏った戦斧と、僅かに光を纏っている巨大な剣が火花を散らして衝突した。


そこには、燃え盛る鬼と身の丈よりも遥かに大きな剣を振るうタイガがいた。

私は、すぐに流星槍を発動、狙いを戦斧を持つ腕につけ、槍を投げつけた。


熱された空気を切り裂き、私の槍は見事にオーガの腕を肘から手首の間を穿ち、分断した。

そのまま、支えを無くした腕は、タイガの剣に押され、右肩から先を見事に切断した。


着地と同時にタイガは、体勢を立て直して、さらに剣を振るう。


だが、そこで摩訶不思議なことが起きた。

なんと、タイガの大剣は先程落としたはずの右腕に握られた"戦斧"に受け止められたのだ。


彼は、怯むことなく2撃目、3撃目を打ち込むが、その全てを同様に戦斧で受け止められる。


私はその間に投げつけて手放してしまった槍を回収し、その最中で起こっていることを把握した。




!!

痛みも感じていないみたいです!!」


「ちっ!面倒な相手みたいだな!!!」




切り落とされた腕が、オーガ自身の傷口から出る炎で繋がり、まるでムチのように奇妙な動きで操られているのだ。

先程の攻撃も、それで受け止めたようだ。

しかも、攻撃を加えている間に、腕は元の位置に戻り、また何事も無かったかのように腕が再生した。


(こ、こんな化け物なの?!

当時、討伐が不可能だったのも、今なら納得出来るわね)


あまりの出来事に、驚愕を隠せなかった。

まさに、噂通りの強さである。

だが、それならば対処も可能であるのもまた事実。


それは、持久戦である。

このオーガは、自らの鬼火の影響で身体を燃やし尽くしてしまう。

故に、相手が燃え尽きるまで逃げられればいいのだ。





問題は、ここが外ではなく"ダンジョン内"という閉鎖空間であることを除けば



タイガの方を見ると、心得ていると言わんばかりに大剣を大きくふり、それを肩に担ぎ上げた。




「さあ、根比べと行こうか?

オーガ、いや?──────エンキっ!!」





タイガの叫びに応えるように、オーガもまた炎を激しく燃え上がらせ、戦斧を振りかざした。


彼は、大剣を担いだまま、炎も気にせず突撃する。

その速さは凄まじく、周囲の炎がその風圧に煽られて道を開くように揺らめいた。


その様子に、オーガは雄叫びを上げながらも戦斧を振り下ろす。




「舐めるなモンスター!!!

こっちは、上級冒険者なんだよ!!!」




迫る戦斧を紙一重でかわし、その勢いを利用して身体をひねり、担いでいた大剣を大きく振り回した。

そして、勢いのまま、がら空きになった戦斧をもつ腕を切り落とす。


──────だが、それだけでは止まらない。




「おおおーーーーーー!!、っらあ!!!」




腕を切り落とした勢いを失うことなく、そのまま大剣を振り回し続けた彼は、続く一撃でオーガの足を、腹を、胸を切り裂き、最後は頭部目掛けて大剣を振り下ろした。


大剣は、僅かに煌めきながら、見事にオーガの脳天から胴体までを切り裂いた。


(真っ二つにした!、流石にこれなら!!)


私はタイガに駆け寄ろうとしたが、彼は大剣を構えたまま、大きく飛び退き、こちらまで下がってきた。




「カレン!、他のやつはもう逃げたか?!俺たちも離脱しないとまずいぞ!!

やっぱ、攻撃がきいてねぇ!!」




タイガの言葉に、私はハッ!として後ろを振り返る。

そこには一目散に撤退する冒険者たちの後ろ姿。

すでに何人かは来た道を戻り、広場から離脱していた。




「もう全員離脱したわ!私たちも引きましょう!!」


「ああっ!バラバラの今がチャンスだ!」




私たちは、踵を返して広場の入り口の方へ駆け出す。

オーガはまだ身体の再生にかかりきりなのか、唸り声と炎が燃える音しか聞こえてこない。


背後に気を配りながらも、必死にタイガと共に入り口の方へ。


そして、私たちは無事に広場を抜けて通路に入ることに成功した。

そして、後ろを確認するために振り返ろうとした

-------その瞬間




・・・・・・ゴブギャ




「タイガ!!」


「ッ?!」




名を呼ばれ、タイガは咄嗟に伏せる。

すると、それと同時に何かが空気を切り裂く音が聞こえ、ガキンッと通路の壁に金属が当たる音がした。

慌てて視線を音のした方へと向けたが、そこには何もいない。



私は、微かに聞こえた声に、さらに周囲へ意識を集中させる。


そして、厄介なことに気がついた。




(・・・・何か、いる??)




何もいないように見えるが、確かになにかの存在を感じる。

しかも、複数体だ。




「カレン!何がいるのか分かるか?!」


「・・・はっきりとは、でも、一体ではないわ」




私の言葉を皮切りに、複数の何かがかけ出す音が聞こえた。

私とタイガは互いに武器を構え、耳を済ませる。

すると、片方はバタバタ走るような音だが、もうひとつはものすごい速さで移動している。


早い方が、タイガのすぐ近くまで迫っていたので、当たりをつけて短槍を突き出す。

すると、僅かな唸り声のようなものが聞こえ、少し音がズレる。

手応えがないので、当たってはいないだろうが、動きは阻害できているようだ。


すると、もう一体のバタバタ走る方へ向け、タイガが大上段から大剣を振り下ろす。

すると、叩きつけた大剣から爆ぜた地面の破片が前方へ飛び、バタバタ走るなにかに当たったのかグギャッ!と声が上がった。




「見えないが、相手取ることはできる!

このまま引き返すぞ!」


「わかったわ!」




二つ返事で了承し、見えない何かを無視してかけ出す。

攻撃させる気配だけを頼りに、武器を振るう。

幸いにも、こちらに攻撃は当たることなく無事に通ることが出来た。


よく分からないが、何かしらの見えない敵がいたのだろう。

だが、私たちを止めるには役不足だったようだ。



攻撃をいなし、通路を駆け抜け、前方に広場の入口が見えてきた。


1つ前の広場まで、何とか戻ってこれたようだ。




(よし、ハイ・コボルトがいた広場まで来た!あと少し戻れば!)






そんな事を考えていて、タイガが広場に入る前に、声を張り上げる。




「奴がいたところまで来た!

俺が先に行くが、何かあれば無視して先にいけ!!!

報告優先で、必ず生きて帰れ!」




そう言うと、ハイ・コボルトがいた広場に駆け込む彼の後ろ姿に、わたしも続くように広場に入る。


広場に、先程戦ったコボルトの姿はなく、何も無い広場を、ただ突き進む。


もしかしたら、復活などしているか?とも考えたが、そんなことは無かったようで、内心ホッとしつつ、広場の出口へ2人で駆ける。


出口が近いてきたところで、わたしは妙な違和感に気がついた。

普段なら、気のせい程度で済ませるくらい、ホントに小さな違和感。


この時の私は、スキルのお陰か、極限状態での感覚の鋭敏化からなのか、わからない。


だが、たしかに感じてしまったのだ。









─────""





「っ?!タイガさん!待っ─────」




私が咄嗟に声を上げるのと、目の前のタイガが、真っ赤に燃え上がるのは、ほぼ同時だった。


私は、咄嗟に後ろに飛び退き、ゴロゴロと地面を転がりながら、出口側の通路を見た。


そこからは、激しい炎が広場に向けて吹き込んできており、その炎に飲み込まれるような形で、タイガが悲鳴を上げながら燃え上がっていた。


悪夢のような光景に、私は小さな悲鳴を漏らしていた。




(そ、そんな!

キャッピーの部屋は、既に何も無いはず?!

冒険者の方々がミスを?いや、あの部屋の火が回ってきたにしては早すぎる!!)




様々な仮説を立てては否定する事を繰り返し、とにかくタイガを救わなくてはと、彼に近づこうと立ち上がったその時








吹き上がる炎の中から、巨大な影が姿を現した。




────そ、んな?

あ、あり、ありえない


な、なぜ、そちらから、奴が?!





炎の中から出てきたのは、戦斧を引きずりながら、激しく燃え上がる、先程のオーガであった。


オーガは、タイガが燃えている事を見て、少し乱暴な動きで、苦しむタイガを蹴り飛ばした。


火の玉となったタイガは、私の方へ飛来し、私は避けるまもなく、彼が覆いかぶさるような形で下敷きにされてしまった。




そして、瞬間脳裏に過ぎった最悪の結末に、私は必死にタイガをどかせようと手足をばたつかせる。


その間、手や身体には炎が見るまに移り、激しい痛みと熱さを感じた。




「ぎゃあーーー!!!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!!」




何とか身体からどかしたタイガは、既に事切れており、焦げ臭い匂いが鼻をついていたが、自らもこうなると見せつけられるようで、私はさらにパニックになってしまった。


ゴロゴロと地面をのたうち、必死に炎を消そうと身体を擦り付ける。

だが、すでに身体を燃やし始めている炎は、より強くなる痛みと熱さを増していた。




(いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ!!!

なぜ、こんなの聞いてない!!


タイガさん!!カイさん!!ライン爺!!ギルド長!!)




必死に助けを求める絶叫を上げてたが、それがもはや唸り声となっていることに気づかず、地面をガリガリと爪で引っ掻く。





いたい、あつい、苦しい!!!

誰か、誰か助け───────




必死に辺りを見ようと顔を上げた時


私が、最後に見た光景は






武器を振り上げ、こちらを見下す












──────カターシャの姿であった。







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ダンジョン転生 @040413shun

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