第13話 後輩
翌朝、庸介が目にしたのは予想外の光景だった。
結局、昨日の依頼は「夜の王」の情報よりも感情を優先してしまい、迂闊にも庸介は二つ返事で了承をしてしまった。ただ、復讐心の強い依頼主である橋元との同行する、しないのやり取りは最後まで難航した。結局は、相手のアジトの情報を握っている橋元に押し切られてしまったが、その依頼主が目の前でまさかの
感染者相手には日中の襲撃が鉄則なため、陽の高い時間に行動しているのだが、感染者である彼女は、昨日と同様の怪しい風体。
そんな恰好でうろつけば、余程運がよくない限り誰かに目をつけられるのは仕方のないこと。
ただ、よりにもよって職質を受けている相手というのが……
(
小柄な栗毛の女性警察官。
昨日もテレビで広報をしていた、庸介の元同僚。というか元後輩。
とにかく、面倒なことになる前に依頼人を助けるべきだろう。幸いにも相手は顔見知り。簡単に追い払えるかもしれない。
橋元に並ぶよう近付き「よう」と気安く旭に向かって声をかけると、小柄なその身体はびくりと大きく跳ねた。
「えっ、せ、先輩?」
不意打ち、そして認識する庸介の顔。同じく驚き、庸介の名前を口にする目の前の不審者と庸介の顔を交互に見比べる姿は、まるでリスか何かの小動物のようだ。
「もしかして……先輩のお知り合い?」
怪訝な表情でこちらを伺う元後輩に「依頼人だ」と短く告げると、大袈裟すぎるリアクションで驚きを表現する。漫画か?
だが、その反応も理解はできる。
元同僚、元後輩。つまり俺たちの家族に起きた事件についてもよく知り、そして俺が警察を辞めた理由を正しく理解している。
そんな庸介が、風体の怪しい人物–– いや、陽の光から肌を完全に隠す、推定感染者と一緒にいる事自体が常軌を逸しているという認識なのだろう。
まるで自分が、感染者なら誰も彼も構わず殺して回っている虐殺者のように思われていることは不本意だが、あの事件直後の自分を知っているのならば、その認識も無理からぬものかもしれないと、庸介は自嘲する。
「先輩、沙那さんのこと……もう?」
そう、その反応も。
ただ、旭は警察官だ。否定も肯定も応えず、庸介はただその目をじっと見つめる。
それを旭はどう捉えたのだろうか、どこか切なげに「そうですか」と呟き視線を反らした。
庸介は旭に「彼女は吸血衝動を抑えるために病院へ通うような、平凡で善良な感染」で、受けた失せもの捜索の依頼のため、今から合流し行動する予定だったと説明する。
「どこまで探しに行くんですか? 手を貸しましょうか?」
なおも食い下がる旭。あまり長々と話していると、痛いところを突かれかねないため、庸介は旭を追い払うための一言を発する。
「それより、お前ひとりでこんなところウロついていて大丈夫か?」
多くの場合警察官は不測の事態に対応できるよう、二人一組で行動するものだ。旭が今、一人で行動しているのは、いつものそそっかしい理由なのだろうことは、彼女を知る人間なら想像に難く無い。つまり……
「あっ……」
しまった、とばかりに目に見える程顔色を変えた旭。
もう離れて良いかと確認を取ると、慌てながら旭は了承。
「悪い事しちゃだめですよ、先輩」
と、よく分からない捨て台詞を吐いて去っていった。
思わぬ足止めを食らったものの、依頼者と合流した庸介は「夜の王」の手下たちの根城へと向かった。
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