天罰

ミー

天罰

 総理大臣としての最後の記憶は、怒号と銃声だった。


 国会議事堂は炎に包まれ、議員たちは次々に銃弾に倒れていった。政府の腐敗と無能さに耐えかねた国民が武装蜂起し、ついにクーデターが勃発したのだ。総理大臣である私は、無様にも立ち尽くしていた。狂気に満ちた国民の目がこちらへ向けられる。


「お前のせいで、この国は終わったんだ!」


 何かを叫ぼうとしたが、銃弾が身体を貫いた。


 死んだ。


 ――だが、意識は途切れなかった。


 目を覚ますと、そこは広大な神殿のような場所だった。玉座には威厳ある老人が座っている。その姿は神々しく、すぐに理解した。


「神様……?」


 老人は静かに頷き、私を見下ろした。


「お前は日本を滅ぼした無能な男だ。死してなお、罪は消えぬ」


 私は震えた。生前、幾度となく「無能」と罵られてきたが、神にまでそう言われるとは。


「お前に選択肢を与えよう。地獄へ落ちるか、異世界で罪を贖うか」


「異世界?」


「異世界であれば、お前は再び人間として生きることができる。しかし、それは贖罪のための生だ」


 死んでもなお苦しめということか。だが、地獄へ落ちるよりはマシかもしれない。


「……異世界へ行きます」


「よかろう」


 神が手をかざした瞬間、私の身体は光に包まれた。


 そして、次に目を開けたとき、私は飢えた孤児になっていた。


◆◆◆


 異世界での人生は、前世とは比べ物にならないほど過酷だった。


 孤児院で育った私は、満足に食事もできず、毎日を生き延びるだけで精一杯だった。生まれた国は腐敗し、支配者たちは贅沢の限りを尽くす一方、庶民には重税を課し、さらに外国人には税を免除し、移民を優遇した。国民は虐げられ、不満を抱えながらも声を上げることすら許されない。


 そんな状況の中、私はある日、革命軍に捕らえられた。


「お前、妙に口が回るな。よし、お前は今日から我が革命軍のリーダーだ」


 私の抗議は聞き入れられず、いつの間にか、革命軍の「象徴」として担ぎ上げられてしまった。訳も分からず何も知らぬまま、私は民衆の前で演説をすることになった。


「我々は……自由を勝ち取る……!」


 民衆は歓喜し、革命の炎は燃え上がった。


 戦争は熾烈を極めた。多くの血が流れ、ついに王宮は陥落した。


 革命は成功した。


 だが、それは私にとって終焉を意味した。


「お前はもう用済みだ」


 革命が成った瞬間、私は処刑された。


 結局、私は何も成し遂げることができなかった。前世と同じように、無能なまま、歴史に消えた。


◆◆◆


 目を開けると、国会の議席に座っていた。


 周囲を見回すと、閣僚たちが書類に目を落とし、静かな空気が流れている。私は思わず自分の身体を確かめた。


 ……夢?


 いや、そんなはずはない。あれほどの苦痛が、ただの夢で済むわけがない。


「総理、起きてください。会議中ですよ」


 隣の官僚が、小声で囁く。


 私は静かに頷いた。そして、ふと思った。


 ――私は、何かを学んだのだろうか?


 しかし、その答えを考えるのは面倒だった。


 私は目を閉じ、再び眠りについた。

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天罰 ミー @lock3

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