彼女と日常の変化

――黒薔薇姫が俺の家に来てから、あれから1ヶ月が過ぎた。特に今のところ問題なしに、平穏な日常を送っている。長年一人暮らしをしていた自分にとっては、彼女との生活は刺激的でもあり、退屈しないで済むものだった。


 異性として見たら、彼女は可愛いし、とても魅力的だ。ただ性格に少し問題があり、俺は彼女の下僕として扱われている。家に帰ればコキ使われて、ついでに謎の下僕2号と呼ばれている。そして、彼女は女王様のように俺の前で偉そうにしている。


 たまに口答えをすれば、もれなく大鎌の餌食になる。この前、些細なことで彼女を怒らせてしまって、壁に大きな穴が空いた。幸い隣の部屋に隣人は住んでいないが、仮に誰か隣に引っ越してきたときには大家にバレるのも時間の問題だ。


 彼女は見た目は可愛いのに怒ると恐い。ついでに暴力的な一面もあるし、けっこう高飛車だ。そして、なかなか素直じゃない。そんな彼女は世間で言うツンデレ女子だ。だけど、たまに見せる可愛い表情や、女の子らしい仕草をした時は思わず、こっちはドキッとしてしまう。そして、デレた時なんかは可愛い。きっとこんなことを彼女に言ったら、殺されるのは間違いないだろう。そんな彼女に振り回されている俺は、もしかしたらマゾ的素質があるのかもと疑う今日この頃だ――。



 不思議なことにあの日、彼女と出会ったことで、俺の日常は大きく変わったような気がする。まず、ヴァンパイアの女の子がこの世に生きていることが信じられない。ヴァンパイアなんて迷信や、誰かの造り話でしかないと思うのが普通の考えなのに、だけど実際にヴァンパイアが生きていることに、俺は驚きを隠せないでいる。それに俺は普通の人間であって、彼女とは生き方が全然違う。俺は朝に起きて、彼女は夜に起きる。お互い真逆の生活だ。そして、彼女は太陽の光を嫌い。日中は太陽の光を浴びないように、部屋の中をカーテンで締め切って閉じ籠っている。


 彼女が外出する時は殆ど夜になる。俺達が太陽の下で、同じ陽の光を浴びることは決してない。ついでに彼女はヴァンパイアなのに人間の血を吸わない。だけど、たまに人から精気エナジーをとる為にキスをしてくる。そんな時はドキドキしてしまうが、彼女にとってキスは特別な好意でも何ともなく、ただの『補給』でしかない。つまり人間の血を吸わない代わりに、人のエナジーを口から吸う為補給キスをしてくる。


 そんな彼女は他には何も食べず、唯一食べるのはトマトだったりする。この前、俺の大好物のカップラーメンを何気無く彼女に勧めたら物凄い剣幕で怒られた。『そんなもの食べないわよ!』と、言い返されて頭にカップラーメンを投げつけられた。そんな刺激的な男女の同居どうせい 生活も、1ヶ月が過ぎた。ここいらで何かしら変化を期待するのだが、未だに俺達は恋愛関係には到らない。ただ変化を求めているのは、俺だけなのかもしれない。黒薔薇姫が俺のことをどう思っているのかもわからない。彼女にとって俺は下僕でしかない。だけどもしかしたらと、その"もしかしたら"に期待してしまう自分が心のどこかにいた――。

 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る