新鮮なトマトジュースをお出し!.
「なんだよ、変なヤツ――?」
そう言って不意に呟いた瞬間、大鎌が彼の目の前をかすめた。そして、壁に向かってドカッと突き刺さった。その反動でボロアパートが大きく揺れた。陽介はビックリすると後ろに尻餅をついて倒れた。
「あっ、あっぶねぇな……! 何だよいきなり!?」
「聞こえたわよおバカさん。誰が変なヤツですって?」
「聞こえてたのか……。お前って案外、地獄耳なんだな?」
「うるさいわね! そんなことより、さっさとトマトジュースをお出し!」
彼女は空腹でしびれを切らすと、キッと睨んで命令した。陽介は黒薔薇姫の命令に面倒臭そうに返事をすると、買い物袋を片手にそのまま台所へと向かった。そして、彼は戸棚からミキサー機を取り出した。
「あったあった。とりあえずトマトジュースは無事に作れるな? え~っと、まず最初にと……!」
彼は流し台の前でブツブツと独り言を呟くと、ビニール袋から見た目が良さそうなトマトをひとつ手に取った。そして、包丁を握ると得意気にトマトを切った。彼女は彼がトマトジュースを作っている間にテーブルの前で正座してテレビ番組を黙って観ていた。
「――ねぇ、まだかしら。早くしてちょうだいね。私を餓死させないよう、下僕らしく精々がんばって作ることね?」
「へいへーい。言われなくても今作ってますよ~。って言うか、俺は下僕じゃねーし……!」
陽介は彼女の機嫌を損ねないように返事をすると、切ったトマトをミキサーの中に入れた。そして、そのままフタをすると機械のボタンを押して中でシェイクをしてかき混ぜた。
「もーいい頃かな?」
「出来たの?」
「んー、もうちょい……!」
「早くしなさいよ!」
「へいへーい。言われなくても今出来るって、そんなに焦るなよ?」
「焦ってなんかいないわよ!」
黒薔薇姫はキッと陽介の方を睨むと、テーブルにあった本を掴んで流し台の前に立っている彼にめがけて投げつけた。
「ッテ……! いきなり本を人に投げつけるな!?」
「うるさいわよ、下僕2号!」
「だから俺は下僕2号じゃねーっつの!?」
二人は狭い部屋の中、短い距離で口ゲンカをした。そして、暫くすると部屋はシンと静まり返った。
「……ったく、見た目は可愛いのにとんだギャップだぜ。あれはどんな男も騙されるパターンだな」
陽介は中に入っているトマトジュースをコップの上から注いだ。そして、ブツブツ独り言を呟くと不意にチラッと彼女の方を見た。
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