第48話 思惑と憂鬱

(息子達よ、私の所に来てくれますか)

((承知いたしました))

トレ・デ・エスピナス棘の塔の一室で待つ1人の男。

扉を叩き、入室する2人の男たち。

「2人共座りなさい。また君達の力を借りようと思ったのだが」

そこにはバレンティアとカマラダが座っていた。


「監視対象者の動向は掴んでいるか?」

「ハイ。前回以降、常に気にかけております」

「何か又厄介毎に巻き込まれているようですねぇ。本当に楽しい人だ。流石は運命の男ですね」

生真面目なバレンティアと、知性は高いのだが退屈が嫌いなカマラダだ。


「知っているようにフィドキアは特命が有るので、よっぽどの事が無い限り係われないから君たちの協力を要望する」

「承知しました。しかし、コラソン様。あの地域は」

「分かっている。アレの介入も計算に入れてある」

「大丈夫ですか? アレは感情で動くので予測が難しいですよ」

「うむ。新たな監視対象者の嫁次第だがな」

バレンティアとカマラダは”アレ”が気になって仕方ないようだ。


「とにかく、ラソンには言うなよ」

「「はっ」」

(((あの2人が会えば災害が起こるからなぁ)))

同じ事を考えていた人外の存在達だった。


(((アレが出張ると面倒だなぁ。パパッと済ませるようにモンドリアンさんに助言しようかなぁ)))

ブルブルと頭を振り自らの考えを否定する三人だ。

(((イカンイカン。我らが口出ししてはダメなのだ)))



ある日、監視対象者が現れて難題を押し付けてきた。


「ところで二つ聞きたい事があるけど」

「何でしょうか?」

「フィドキアが念話に出てくれなくてさぁ」

「ああっ済みませんねぇ、ちょっと重要な仕事が有って係りっきりなのですよ。そのかわり私を含め全ての龍人に念話して構いませんから」

「えっ本当に!?」

「勿論です」


「だけどもう1つの問題が・・」

「何でしょうか?」

「インスティントがフィドキアと2人で”あの食事店”でデートしたいってさ」

「それはっ・・・」

流石のコラソンも困った様子だ。


「それで日時はインスティントが連絡して来るって」

「そうですか」

「あの店にも前もって言っとかないと困るだろうし、同席は俺とシーラだけだってさ」


考え込むコラソン。

「・・・モンドリアンさん。インスティントに日時はこちらで調整すると念話してください」

「それって」

「何とか手配して見ますよ」

「ありがとうコラソン!じゃ念話するよ」

そう言ってインスティントに交信して見る。


(インスティントさん聞こえますか?)

(あら、この声はモンドリアン?)

(そうですよ。インスティントさんに報告が有ります)

(何だい言ってみな、今コラソン様と居るんだろ?)

(はい、良く知ってますねぇ)

(報告とは例の件か?)

(ええ、バッチリですよ)

(やたっあああぁぁぁっ!)

凄い叫び声だ。


(ただし、日時はコラソンから連絡するって)

(分かった。ありがとうモンドリアン)

(じゃまた連絡するよ)

(コラソン様に宜しく伝えてねぇ)

途中から念話のトーンが変わったのがはっきりと分かった。


「最後にもう1つ。可能であれば教えて欲しいけど」

「あの2人の事ですか?」

黙ってうなづく。

「・・・そうですねぇ。時が来たら教えますよ」

苦笑いのコラソンを見て、それ以上聞くのを止めた監視対象者だ。



※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero



インスの要望を叶えるために、コラソンとカマラダにバレンティアが考え抜いた方法は、ラソンに龍国へ使いに出す事だった。

それにはオルキスとヒラソルの協力が不可欠で、コラソンが誠心誠意愛情を注いで納得してもらった。

ヒラソルに話せば二つ返事で手伝ってくれるが、オルキスに訳を話せば当然ラソンが可哀そうだと怒るだろうし、見返りも要求してくる。

オルキスとヒラソルが不仲にならないように細心の気配りと”肉体労働”をいとわない伴侶であり父なのだ。

あちらを立てれば、こちらが立たず、最終的には愛し合う時間を対価に今回の計画に協力してもらう事になった。



インスのデート当日は滞りなく進み、楽しそうなインスの笑顔を見て満足だったコラソンだ。





今回はコラソンがヴィオレタと一緒に監視対象者のうつる大画面を見ながらの会話だ。


監視対象者のモンドリアンと、婚約者であり加護したシーラの召喚により、下界で暴れる二体の龍を見ながら話していた。

「インスティント様、気合入ってますねぇ」

「そうだね。久しぶりにフィドキアと成龍状態で下界を飛ぶからだろう」

「それも有りますが、一つの事を二体が共同で行う事に意味が有るのですよ、コラソン様ぁ」

「そ、そうか・・・」



フィドキアと二体で楽しく殲滅した後、例え同族だろうが子孫の末裔たちでもブレスで殲滅しフィドキアとの思いで作りに余念は無い。

自らの管轄地で、遥か昔に最愛の男フィドキアとの間に生まれた子供の子孫であるクエルノ族。

監視対象者が自らの子孫と結ばれる事に喜び、フィドキアとの仲を取り持ってくれるので気に入っている二人だ。


インスの管轄地には独特の風習があった。

それは、子供が大人の仲間入りする時、親から出される試練だった。

内容は様々だが達成出来ないと一人前の大人と認めてもらえない重大な行事だ。

いつから始まったのか誰も知らない事だが、些細な切掛けを作った本人もすっかり忘れているインスだった。


そんなインスが目を掛けている子の親が寝ている間に念話で送ったのがこれだ。

“仲間を率いて自らが先頭に立ち古き龍を倒してこい”


ところが、当事者たちから異議申し立てがあった。

自らの種族の前に現れた神の如き存在に刃を向けるなどできません。と言ってきたのだ。

インスは自身が相手をして龍種の力を見せつけ、自身の力に驕る事無く精進させるのが目的だった。

当事者は出来る出来ないではなく、敬いたてまつる存在に戦いを挑むこと自体が不敬であり有ってはならない事だと、目の前で試練の変更を懇願しているのだ。


(私の試練はそこまで思い詰めるものだったか・・・困ったなぁ。どうしよう。お父様に聞いてみようかしら)


コラソンに念話するインスだ。

(お父様・・・コラソン様)

(ん? どうしたインス)

(折り入って相談したいことが有ります)

試練と内容を説明した。


(・・・まぁ当事者にすればそのように思うのも当然だろうな)

(じゃどうすれば良いですか、お父様?)

まるで親に甘える子供のようなインスティントだ。

だが長らく封印されていたので娘が可愛いコラソンだ。

(仕方がないねぇ・・・ではこのようにすれば良いだろう・・・)



当事者の思いを受けて、しばし考え込むフリをしてコラソンに念話していたインスティントだ。

目の前の当事者に説明する。

「良いでしょう。戦って倒すのでは無く、力を見せる事にしよう」

ホッとして安堵する当事者。

「ただし、新たに条件を付ける事にします」

真剣な眼差しになる当事者。

「仲間を率いて自らが先頭に立ち、四聖龍の証を集めて古の龍に力を見せよ」



何も考えていなかったインスティントだったが一安心した。

「ふぅ、少しは時間が稼げるな。コラソン様と相談しなきゃ」

結局はコラソン頼みのインスティントは、場所をカスティリオ・エスピナのトレ・デ・エスピナスに転移してコラソンに相談した。


「コラソン様ぁ」

「・・・話しは分かったよ、インス」

両手を後ろに組み、室内を歩き窓辺から外を眺めるコラソン。

「問題は誰が古の龍として彼らの力を見るかだねぇ」

真剣な眼差しだが、口元が綻んでいるコラソン。


「まぁその件は私に考えが有りますから、彼らから連絡が有った時点で目的地を教えなきゃいけませんね。さてと、何処にしましょうか?」


コラソンと、インスティントに何故かビィオレタ・ルルディも参加して目的地の場所を決める会議が行われた。


四聖龍の証を持つ者の戦闘力を加味しながら様々な魔物と目的地が検討された。

三人で楽しく検討しているとコラソンに念話が入った。


(・・・)

(はっ直ちに参ります)





Epílogo

インスの暴走と言うよりも欲望か

コラソンの向かう先は・・・

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