第30話 恐れていた出来事
龍国では定期的に報告会議が行なわれる。
それぞれの眷族から管轄地域での新しい発見や、下界の種族に文明の進捗状況及び新魔法の発見に外界の報告など多岐にわたる。
外界とは龍国と大地の下界以外の暗黒空間の事で、七天龍セプティモ・カエロの眷族が管轄している。
すでに龍国内では生命と魂の分析は終わり、様々な研究に応用されていた。
遥か昔はそれぞれが研究して成果を出していたが、魔法事故もそれなりに起こったので現在は生体実験を下界の生物で行ない成功すれば
異常発生が無くなり全てが検証されて神々に認められようやく龍国内に採用される段階になる。
下界で発見された魔法や龍国で開発された魔法が投入されるまで、下界の感覚で早く十年から百年は必要だ。
そんな研究が永遠と続き、多くの文明が滅んで行った下界だ。
文明が滅ぶ原因は時には内乱で、時には他国との戦争だ。
またある時には天災で、そして破滅をもたらす黒くて巨大な龍が滅ぼしたとか・・・
様々な報告が下界から送られて来る。
下界の調査と管理は妖精王達だ。
何故なら妖精は見えないからだ。
普段は姿を隠して活動しているが故意に見せる事も可能だ。
そして龍人達も確認作業を行う。
龍人達が下界と交わり、その子孫も代々引き継がれ繁栄して行った。
龍国から下界に降りた僕達も、それぞれが独自の文化を作り繁栄したが龍国は余り関与しなかった。
前者は短命種族に龍族の力を加える事により、下界の支配と文明の発展を意図的に操りやすくするもので、短命種による発展の速度が期待されるからだ。
後者の長寿種は独自の発展からどのように変化をもたらすかを客観的に観測する為だ。
そんな会議は下界の妖精王が龍国に滞在する星の妖精王ヴィオレタと打ち合わせをして、ヴィオレタが会議の進行を担っていたのだが、かなり前から星の精霊王グリスがその役目を引き継いでいる。
星の妖精王は密命を帯びて下界に潜伏中で、龍国での仕事は星の精霊王が兼任しているが当初は不満が有ったらしい。
何故妖精の仕事をしなければならないのか。
“
ロサの事は龍種だけの秘密とされ、龍国内であっても知る者は極わずかだったからだ。
そんな星の精霊王をなだめたのは龍人のバレンティアだった。
敬愛する父の為に力になると龍人達に誓ったからだ。
何よりグリスはバレンティアの眷族でも有り、ナルキッスとプリムラが”協創”した存在で、グリスが欲しい物を与える事ができるのはバレンティアだからだ。
星の精霊王グリスが欲しい物。
それは憑代だ。
素材は龍国内の建物と同じで魔素を含みやすく蓄積量も多い。
重要なのは形だった。
グリスの要望を取り入れて、
満足のいく憑代に移り仕事をこなすグリス。
本来、星の精霊王グリスは目に見えない物を知覚する為の役割であり、その能力は龍国全体を知覚出来る為に動く必要が無いのだ。
また、浮遊して移動する事も可能である。
しかし、グリスには小さな不満が有った。
それが対価としてバレンティアに新しく作ってもらった憑代だった。
以前は置物だったが、今では精密なゴーレムとなっていた。
当然だが歓喜して喜んだグリスが率先して協力を惜しまなかったと言う。
星の精霊王グリスによって、報告の為に下界から龍国に訪れていた妖精王達が順番に説明する。
報告するのはそれぞれの管轄に起こった事と今後予測される内容だ。
それは星の動向、暗黒空間における他種族の有無、種族動向、気候の変化、地形の変化、新種の動植物、新しい魔法、言語、食べ物、音楽、文化文明等多岐にわたる。
ある時、そんな定例報告会議にテネブリスが出席すると噂が広まった。
長らく欠席していたテネブリスが久しぶりに顔を出すと言う。
噂を聞きつけた同族が次々に見舞いに来ては、おしゃべりの時間を楽しんだテネブリス。
「以前の姉上と変わりないようだな」
「ウン。姉ちゃんはああでなきゃ」
「そうだよな、あれが姉貴だよな」
同族の妹弟たちも安心したようだった。
闇のテネブリスも、もう1つの存在から共に生きて待つ事を進められ同意したので、意識の主導権を”理性側”に預けていたのだった。
とは言え、溜まった欲求の捌け口としてアルブマを拘束する事も時々あった。
もっとも、そんなテネブリスをアルブマがどのように思っているのか。
それは・・・
(あぁぁ、強引なお姉様も良いわぁぁ。昔のように無理やり私の
※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero
大きな会議場には既に主要な者達が待っていた。
全ての龍種と部門別に細分化された僕の代表たちに妖精王たちだ。
最後に会場に入るのは神々と謳われる五体の龍種だ。
翠嶺龍スペロ・テラ・ビルトスを先頭に七海龍セプテム・オケアノス、七天龍セプティモ・カエロ、聖白龍アルブマ・クリスタ、最後に暗黒龍テネブリス・アダマスの登場だ。
大神である始祖龍スプレムスは参加しない。
報告会議で重要な案件だけをまとめた物を報告するようになっている。
広い会場は種族や眷族によって区切られていて、龍種と
その壇上を輪になって覆う様に僕達の席が並んでいた。
ザワザワ・・・
いつもと違い、既に会場に入っている僕たちがザワついていた。
当然だろうと龍人達は思う。
何故なら数千年ぶりに不在だった席の神が現れるのだから。
僕たちは既に代替わりをして居て、テネブリスを直接見るのは初めてだ。
「静粛に」
もう何度も役目をこなしている星の精霊王グリスが、ザワついている僕たちに注意を促す。
次々と眷族の僕が研究の状況説明を行なった後に、妖精王達の報告が始まった。
龍族にとって下界の報告会は楽しみの1つだった。
様々な物を下界から取り入れた経緯も有り、本来必要としない食べ物も楽しみの1つだ。
また、報告会議に時間の設定は無い。
誰がどれだけ長く説明しても良く、逆も然りだ。
龍種から質問が有ればその都度答え会議が長くなっていく。
そして全員の報告が終わるまで会議は終わらない。
いつものように、滞りなく会議は進んで行った。
そう、いつものように・・・
誰もが予測していなかった。
突然に会議場に轟く咆哮。
それは妖精のものでは無く、僕たちのものでも無い。
明らかに龍の咆哮が人型の存在から発っせられていた。
会場の最奥に並ぶ席の端に座っていたはずの女性が立っていた。
小刻みに震える手に持った資料には沢山の情報の報告が記載されていて、目を引いたのは小さな一文だった。
“第97代ダークエルフ王にディラン・デ・モンドリアンが就任した”
(何で・・・どう言う事・・・おかあさん・・・)
それは”闇のテネブリス”の心だった。
当然だが会場に居た全員が驚いた。
「お、お姉様っ!!」
「お母様!!」
いち早く対応したのは隣に座っていたアルブマと、下段に座っていた使徒のベルム・プリムだ。
眉間にシワを寄せ睨みつけるように報告書を見るテネブリス。
無意識だが少しずつ身体から魔素が溢れだしていた。
((いけない、このままじゃ))
妹と娘が同時に思考し行動に出た。
アルブマは相対する魔法でテネブリスを隔離する防壁を展開しようとし、ベルムは全員に避難させようとしたその時・・・
それは一瞬の出来事だった。
発生源はテネブリスで会場全体、更に溢れ出す魔素が龍国に広がっていた。
押し寄せた濃厚で重厚な黒い魔素は、同種以外の全ての動きが封じ込められていた。
相対する属性の僕たちに妖精王はこの時点で失神。
龍種も意識を保つのがやっとの状態だった。
自らの魔素を発散しながら抱き付いて叫ぶアルブマ。
「お姉様ぁぁしっかりしてぇぇ」
ベルムも自らの魔素を発散し、テネブリスの魔素を受け流しながら叫ぶ。
「ダメェェぇお母様ぁぁ」
ξ
えっ
なに?
ダークエルフ王?・・・
何それ・・・
ディラン・デ・モンドリアン?
ディラン・デ・・・
・・・モンドリアン・・・
モンドリアン!!
メルヴィ、メルヴィ、しっかりしなさい。
ハッ、解ってるわよ。
貴女の待ち望んでいた時が来たのよ。
・・・そうみたいね。
直ぐに魔素の発散を止めてもらえるかしら。
・・・解ってるわ。解ってるけど・・・こんな事って・・・どうして・・・こんな事ってあるのぉぉ!!!
ξ
前世の時代から遥か過去へ転生した事をようやく知ったテネブリスは、深層心理で”2体のテネブリス”がやり取りをしていた。
それは、瞬き数回程度の時だった。
そして・・・
先程の黒い魔素が、波が引くようにテネブリスに戻って行った。
魔素が無くなった事に気付いた者たちがテネブリスを見ると、大粒の涙が頬をつたうほど溢れていた。
「御乱心!! テネブリス様の御乱心!!」
「国内に第一級の非常警告の発令をしろォォォ」
僕たちの行動に誰も否定する事は出来なかった。
何故なら全員がテネブリスの過去を映像で見ているからだ。
この場で成龍に戻り暴れだしたら龍国が崩壊すると誰もが瞬時に考えたからだ。
「全員退避ぃぃ!!」
「国内に安全な場所何てあるのか!?」
「国内の者達を誘導して外郭付近まで退避させろ」
「我らは姉上を止めに行く」
会場は大混乱の中、誰が何を言っているのか解らない程の恐怖に襲われていた。
意識がもうろうとする中、両腕に縋り叫んでいるアルブマとベルム。
周りにはセプティモにセプテムとスペロの姿も見えていた。
(みんな心配してくれてるのよ)
(解ってるわ・・・だけど・・・この込み上げてくる思いはどうにもならないの!!)
アルブマとベルムの制止を振り切り、窓の外に飛んで逃げるテネブリスが向かった場所は、この国の中心地だった。
「大変! お姉様はお母様の所に向ったわ」
「我らも追いかけるぞ!!」
神々とベルムも後を追い、大神スプレムスが座す場所に飛んで行った。
Epílogo
この流れは・・・対決なのか!?
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