第21話 差し入れディスカッション

うーむ。



みんなが女子トークでキャハキャハ盛り上がってる中。


あたしはひとり、腕組みをしながら考え込んでいた。


なにがいいかなー。


甘くて腹持ち良さげなお菓子?


いや、やっぱガツンと食事系?特大の弁当とか!


うーーーむ。



「あれ?どうしたの?ひかる。真面目な顔で腕組みなんかしちゃって」


マヤが、うんうんうなっているあたしに気がついて声をかけてきた。


そうだ、みんなの意見も聞いてみよう。


「あのさ。差し入れに持ってくモノって、なにがいいかな。手作りの」


「差し入れって、なんの?」


「桜庭のバンドの練習」


って言ったとたん。


「きゃーーー!ひかる、やるぅ!」


「すごい進展っ」


「バンドの練習に手作りの差し入れ持って行くなんて。まさしく『彼女』ってカンジじゃん!桜庭も喜ぶ!」


「きゅん!!」


もぉ、また勝手に盛り上がってくれちゃって。


「違うのっ。これは交換条件なの!あたし、桜庭にずっと勉強教えてもらってただろ?そのお礼というか、報酬というか。最初はなんかおごろうと思ってたんだけど、桜庭のヤツ女にはおごってもらわない主義だとか言うからさ。だったら手作りならいいだろって。バンドの練習ある時、手作りの差し入れどーんと持って行くから、頼むから勉強教えてくれ!ってカンジで。おかげでホントに赤点まぬがれたってわけよ。で、感謝の意を込めてどーんと持ってってやるって、ただそれだけのこと!」


「なるほど。そういうことかー」


「でも。いいないいな、、そういうの。あたしも差し入れとかやってみたい!ひかる、思いっ切り美味しい料理作って持って行ってあげなよ」


ポンッ。


みんなに肩を叩かれて。


「うんっ!」


と、元気よくうなずいたんだけど。


「……ところで。ひかる、料理できたっけ?」


「ーーーーーーー」


しーーーん。



はっ。


し、しまったぁぁぁーーーー!


あたし、料理なんてできないじゃんっ!!


「どうしよう。あたし、料理できない」


ズコッ。


みんな一斉にズッコケる。


「「ひかるー!」」


「差し入れするイメージばかりが先行していて、自分が料理できないということがすっかり頭から抜け落ちていた……」


サーーーー。


血の気が引いて青ざめるあたしを、みんなが慌てて慰めてくれた。


「だ、大丈夫よっ。今から練習すればっ」


「そ、そうそう!簡単ものならすぐ作れるようになるよ」


「あたし達も協力するからさ」


みんな……。


うっ。


優しさがしみるぜっ。



「よーーーしっ。あたし、がんばる!」


ふんぬっ。


ガッツポーズ。


「よっ!それでこそ立花ひかる!」


パチパチ。


みんなの拍手で、やんややんやと盛り上がっていたその時。


「?」


ふと、誰かの視線を感じたような気がしたんだ。


後ろのドアの方から。



誰ーーーーー?



あたしはパッと振り返った。


「どうしたの?」


「うん。なんか今、ドアのところから誰かが見てたような……」


「えー?誰もいないじゃん」


「誰かが通りすがりに教室覗いていったんじゃない?」


「そうかな」


気のせいかな。


ま、いいか。


そんなことどうだって。


「でさでさ。差し入れ、なに持ってたらいいかなー」


って、すぐ話に戻ったんだけど。


これが。


実は、ただの気のせいなんかではなかったことを、その時のあたしは知るよしもなかったんだ。



そう、あの事件が起こるまでーーーーー。




「ーーーでは。第1回目の差し入れは、ひかる特製スペシャルサンドイッチに決定!」


「イェーーーイ!」


「ひかる、がんばりなよっ。サンドイッチなら練習すればちゃんと美味しくオシャレにできるから!」


「うん!」


「あ、そうだ。明日土曜で学校休みだから、さっそく練習してみたら?あたしもつき合うから」


「ホント?やるやるっ。ありがとう、有理絵!」


なんか、メラメラとやる気が出てきたぞ。


と、その時。



「立花さん」



誰かがあたしの名前を呼ぶ声が聞こえたんだ。


「え?」


振り返ると、ドアのところに知らない女子生徒がニコッと笑って立っていた。


巻いているのか、セミロングの髪がゆるーくウェーブがかっている。


「誰、あの人」


小声で隣のマヤに聞いてみた。


「B組の西崎にしざきさん」


西崎さんっていうんだ。


で、その西崎さんが、あたしになんの用なわけ?


「ちょっといい?」


手招きしている。


なんだかわからないけど、あたしはとりあえず廊下に出た。



「ごめんねぇ、邪魔しちゃって」


と、笑いかけてくる。


うおお。


よく見ると、スカート短くねーか?(あたしも短いけど)


髪もえらく茶色くねーか?(あたしもそこそこ茶色いけど)


っつーか、メイク濃過ぎだろ、それ。


うわぁ、なんかこの人。


典型的な『ギャル女子高生』ってカンジだぁ。


正直、あんまりあたしの好きなタイプの女子ではないなー。


で、この人があたしになんの用なわけ?



「なに?なんか用?」


あたしが聞くと、彼女はニコニコしたまま話し出した。


「あたし、B組の大谷とかと仲いいいんだけどぉ。なんかぁ、バンドの練習始めるみたいで。今週の日曜、さっそくスタジオでやるらしいんだけどぉ……。知ってた?立花さん」


え?


「今週の日曜って。あさって、ってこと?」


桜庭、なんにも言ってなかったぞ。


「あ、やっぱ知らなかったんだぁ。よかったぁ、教えといて。練習見に行くんでしょ?」


「えっ?」


なんでそのことを?


「誰かから聞いたの?」


「ううん。だって、桜庭の彼女でしょー?それならやっぱ見に行きたいだろうなぁーと思って」


「え、ああ……。まぁ……」


「だよねぇー。それに彼氏だって見に来てもらった方が絶対嬉しいでしょー」


ホントは彼氏、彼女ではないのだが……。


ポリポリ頭をかくあたしをよそに、彼女はニコニコと話を続ける。


「桜庭って、ああ見えてけっこう照れ屋なとこあるからさぁ。もしかしたら、立花さんに日曜日の練習のことも言ってないんじゃないかって。あたしら、心配してたんだぁ」


「え。あ……そうなの?あ、ありがとう」


「全然!桜庭も絶対嬉しいと思うから、立花さん行ってあげてー。時間と場所、教えとくね」


なんだよ。


見かけによらず意外と親切じゃん。





ガラッ。


彼女が去って、あたしが教室に戻ると、有理絵達が一斉に飛びついてきた。


「なんだったの?」


みんな真剣な面持ちで、息を呑んであたしの返答を待っている。


「おいおい。そんなおっかない顔しないでくれよ。あの人、今週の日曜日にスタジオで桜庭のバンドの練習あるって教えに来てくれたんだよ。わざわざ」


言いながら、あたしがイスに座ると。


「西崎さんが?」


驚いた様子で、有理絵達が顔を見合わせた。


「なんで西崎さんなわけ?桜庭はなんも言ってなかったの?」


「言ってない。あ、西崎さんて大谷達と仲いいいんだって」


チュルルル。


イチゴ・オレを飲むあたしに有理絵が言った。


「ねぇ。なんか変じゃない?だって。西崎さんなんて、別にひかると仲いいいわけでもなんでもないのにさ」


「確かに。それに……あたし、どうも好きじゃないなぁ。あそこらへんの人達」


さとみも眉をひそめている。


「え、なんか問題アリな連中なの?」


あたしが聞くと、マヤがちょっと苦い顔をしながら答えた。


「問題アリっていうか……。まぁ、1年の頃からちょっとハデなカンジであんまりいい意味でなく目立つ人達ではあるかなぁ。あたしもちょっと苦手な人達かも……。ねぇ、桜庭に聞いてみたら?電話とかで。ケータイの番号知ってるんでしょ?」


「知らないよ」


「えっ?ひかる、桜庭とケータイの番号とか交換してないの?」


「してないよ」


「いやいや。そこはしとかないとダメでしょー!一緒に勉強する仲なんだからさー」


「そんなこと言ったって。あたしも桜庭も、そんなこと思いつきもしなかったもん」


「いや、そこは思わないとー。まぁ、ひかると桜庭らしいっちゃらしいけどね」


有理絵がちょっと笑った。


「となると。桜庭に確認するのは無理かー。他に桜庭のバンド仲間の連絡先とか知ってる人とかいないかなー」


さとみが腕組みをする。


「いいよ、そんなことしなくてもー」


「よくない!だってやっぱりなんか怪しいもん。なんで西崎さんが?その情報ホントなの?ってカンジじゃん」


「うん。なんか怪しい。なんか企んでるんじゃないの?」


みんなが不審そうな顔をしている。


「おいおい。企むってなんだよ。なにをだよ。あたしごときにわざわざなにかを企む労力使う必要もないだろ」


あたしが笑うと。


「まぁ……確かに。バンドの練習があるって教えてもらっただけで、なにが起こるわけでもないか」


「そうだよ。いや、あたしも最初はこの人なに?って思ったよ。すっごいギャルだし。でも、親切に時間と場所まで教えてくれてさ。しかも、あたしがその場所わかんないって言ったら丁寧に地図まで描いてくれたんだぜ」


じゃん。


あたしがポケットから取り出すと。


「ちょっと見せて」


有理絵がすかさずそのメモを取った。



「午後1時から。Sビル1階Bスタジオーーー。どこ、ここ。知らないなぁ」


「あたしもよくわかんないんだけどさ。ちゃんと地図描いてくれたし、ここら辺なら通ったこともある気がするから、たぶんわかると思う」


「ホントだ。すごく丁寧に行き方の説明も書いてある」


「うん。このビルは知らないけど、地図はデタラメではないみたいだね」


丁寧に書かれたメモを見て、みんなの表情がやわらいだ。


「だろ?だからたぶんホントに親切心で教えてくれただけなんだよ。あの人の言うように、桜庭ってなんかそおういうとこあるじゃん。自分からあんまり言わないっていうか。バンドやってたことだってうちらも全然知らなかったしさ」

「確かに。桜庭ってそうかもねー。それにさ、ひかるのこと気遣ってあえて言わないってのもありそうじゃない?差し入れしてくれるって言ったけど、大変だろうから……的なカンジで」


有理絵の言葉に。


「あり得るねー」


「優しさゆえのあえての寡黙!」


みんなもようやく納得した様子でうなずいた。


そしてさとみがポンッとあたしの肩を叩いた。


「ーーーよしっ。そういうことならひかる、内緒で行って、桜庭のこと驚かしちゃいなよ。絶対喜ぶよ!」


「そーだそーだ」


「差し入れ持って、行っちゃえ行っちゃえ!」


と、またやんややんやと騒ぎ出した。


え、行く?行っちゃう?内緒で?


なんだかドキドキワクワク気持ちが高ぶってくる。


でも……。


「でも、今週の日曜ってことは……。あさってじゃん!」


景子が黒板に書いてある右下の日付けを見て声を上げた。


「そうなんだよ!あさってなんだよぉ。差し入れ、どうしよぉ」


まさか、こんな急なことになるとは。


こんなことなら、普段からちょっとでも料理の練習しとくんだった。


トホホ。


「大丈夫よ、ひかる。明日特訓すれば、絶対バッチリよっ」


ぎゅっ。


有理絵があたしの両腕をつかんできた。


「……そうだよなっ。がんばればできるよな!バッチリだよな!」


なんかやる気出てきた。



よーし!!


スペシャル美味しいサンドイッチを作って、桜庭を驚かしてやるぞーーーっ。









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