第7話 不穏な影
紗希、寛之、洋介、夏海の4人が境内に到着したのは18時を少し過ぎた頃だった。
「境内に着いたけどよ……直哉のやつどこだ?全然見当たらないじゃねえか」
「まさか、何かに巻き込まれた……とかじゃないわよね」
「……直哉は犠牲になったのだ……古くから続く因縁……その犠牲にな」
「守能先輩。今ちょっとふざけるの止めて貰えませんか?いくら頭の中が八丁味噌の先輩でも、それくらい分かりますよね?……ね?」
「「「紗希ちゃん怖い……!」」」
顔こそニコッとしていたが目が全然笑っていない紗希だった。
「……ん?」
寛之が何か見つけたのか、突如右の方へと振り向いた。
「どうかしたのか?何か手がかりになるような物でも見つけたか?」
そんな寛之の様子に気づいた洋介が声をかける。
「……いや、何か向こうの草むらからカサカサって音がしたから何かいるのかと思ったんだけど」
「そ、それって幽霊とかなんじゃ……!も、もしそうなんだったら早くここから離れないと……!」
よほど怖いのだろう。夏海は洋介の左腕にこれでもかと引っ付いている。Eはあろうかという胸を押し付けて。しかし、洋介は顔色ひとつ変えてはいなかった。
「……ちっ、このリア充どもめ……!」
そして、それを一人快く思っていないやつもいるようだが。
"あ!やせいの ナオヤが とびだしてきた!”
「皆遅れて悪かったな。……って、誰が野生だ!」
――――――――――
……時は少し前に遡る。
「急いで境内まで戻らないとな」
俺は急ぎ足で来た道を引き返して境内まで向かっていた。
……さっきから何かに見られてる気がするが、気のせいか……?
何故だか分からないが、遺跡を離れた直後から何となく見られているような感じがあるのだ。
気のせいであることを祈りながら、俺はさらに歩く速度を早める。
それでも見られている感じは境内の手前まで続いた。
しかし、皆と合流するときには視線を感じることはなくなっていた。
――――――――――
俺は電話した後のことをみんなに話した。
「神社の奥に古代ローマにありそうな遺跡……か。何とも疑わしい話だな」
洋介はどうやら疑っているようだ。まあ、無理もない。むしろ、それで信じる方がおかしい。
「……なあ、直哉」
「何だよ、寛之」
「……写真とか撮ってないのか?」
……しまった。忘れていた。
「すまん、写真撮るの忘れてた」
「……マジか」
確かに写真でもあればまだ信じて貰えたかもしれないのにな……。取っておけばよかったな……。
「兄さん。今から撮りに行くのは?」
「俺もそうしたいのはやまやまなんだが、危険な目に合うかもしれないし止めておいた方が良い気がする」
「でも……!」
「なら、僕も行く。僕自身そのことは気になるからな」
寛之が突如として名乗りを上げた。
「二人とも行くんだったら俺たちも行くぞ」
洋介まで行くと言い始めた。どうしたものか。
「……分かった。じゃあ、行こう。でも、全員で行くわけにはいかない。洋介は武淵先輩とここに残ってくれ」
「どうしてだよ?」
洋介、自分の右腕をみろよ……と言いかけたが、ちゃんと分かるように言った方が良いだろう。
「だって、武淵先輩怖がってるし……」
俺が洋介の左腕の方を見ながら言うと洋介は納得したように首を振っていた。
「別に怖がってないわよ!?」
「よし、分かった。夏海姉さんも怖がってるみたいだし、直哉の言う通り、俺も一緒にここに残る」
先輩は意地を張って怖がってないと言っているが、絶対に怖がっていることは明らかだ。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
俺は紗希の元気な返事と寛之の無言で頷いたのを確認して再び遺跡へと歩きだした。今度は一人ではなく三人で。
――――――――――
暗く薄気味悪い木々の間を歩くこと2,3分。道中何事もなく例の遺跡に到着した。
「着いたぞ」
目の前には相変わらず場違いな雰囲気を漂わせている遺跡があった。
「……マジか。ホントにあったのか」
「兄さんが怖さで頭がおかしくなっていたとかじゃなかったんだね。安心したよ」
紗希、今さらっとひどいこと言ったな。
「二人とも信じてなかったのかよ。……って紗希、今何気にひどいこと言っただろ」
「えへへ。ごめんなさ~い。テヘ、ペロッ☆」
……可愛いから許そう。可愛いは不変の正義だ。
「……直哉。遺跡の写真は撮らなくていいのか?」
いつの間にか、遺跡を近くから眺めている寛之。そんなに近づいて大丈夫なのだろうか?
「ああ、それもそうだな。洋介と武淵先輩にも見せないといけないしな」
「……分かった。それじゃあ、僕が撮っておくよ」
寛之はズボンのポケットからスマホを取り出して写真を撮り始めた。
「……こんなもんでいいか?」
1分もしないうちに寛之は戻ってきた。そして、俺と紗希は寛之の撮った写真を一通り確認した。
「よし、戻ろう」
遺跡の周囲には依然として、気味の悪い雰囲気が漂っている。直感的にヤバい気がする。
何かに見られている感覚があったため、とりあえずこの場を離れることにした。
――――――――――
「洋介と武淵先輩はどこに行ったんだ!」
俺たちが境内まで戻ると、そこに洋介と武淵先輩の姿はなかった。
まさか、俺たちが遺跡に行ってる間に何があったとでもいうのだろうか。
「……直哉、早く二人を探そう!」
「そ、そうだな。三人で手分けして探してみよう!」
そう言って、俺と寛之が探しに行こうとした時。
「兄さん!守能先輩!一度落ち着いてください!」
紗希の声に俺と寛之がハッと正気を取り戻した。
そこへ石段の方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「お!三人とも戻ってきてたのか!」
「三人ともお帰りなさい!遺跡の方はどうだったの?」
言うまでもなく、洋介と武淵先輩の声だ。それを聞いて、安堵の息が漏れる。
心配して損した気分ではあるが、二人とも無事で何よりだ。
「……戻ってきたら二人ともいなくなってたから何かあったんじゃないかって心配してたんだぞ」
「悪かったな、心配かけたみたいで」
ホントだよ!とか言って俺も寛之に便乗したいところだったが、集合の時に迷惑かけた俺に言えることは何もなかった……。
「そういえば、お二人ともどこに行ってたんですか?」
紗希が遠慮気味に二人に問いかける。
「私が『じっとしてるのも怖いから茉由ちゃんをこの近辺だけでもいいから探してみない?』って洋介に聞いてみたの」
「俺もずっと動かずにいるのは嫌だったから、それじゃあ、探しに行こうって話になったんだ」
俺と寛之は『くそっ、このリア充どもが!』とか言いたい気持ちを押し殺しながら洋介の話を聞いていた。
「兄さん!」
すると横から
「どうした?紗希」
「兄さん、あれ見せなくてもいいの?」
「あ!忘れてた!」
「やっぱり忘れてたんだ……」
紗希は俺に大切なことを思い出させてくれた。それは……遺跡の写真を見せることだ!
「洋介、武淵先輩」
呼ばれた二人は何事かと言わんばかりに振り返る。
「二人に見せたいものがあるんだが。寛之、二人に遺跡の写真をを見せてくれ」
「……分かった。ちょっと待ってくれ」
寛之は再びポケットからスマホを取り出した。
「これなんだが……」
二人は時間が止まったかのように穴が開くほど写真を見つめていた。
「こんな遺跡がホントに神社の奥にあったのか……」
「そうね。この遺跡が茉由ちゃんがいなくなったことと関係があるのかどうかまでは分からないけど」
遺跡を調べたりとか出来たら良いのかもしれないけどな。
すると紗希に指でつつかれた。俺が振り返って紗希の方を向くと。
「兄さん、遺跡とか調べるのは良いと思うけどそもそも道具とか持ってないでしょ」
「そうだな……って紗希は俺の心が読めるのか!?」
俺がそう言うと紗希は首を横に振った。
「声。全部聞こえてるよ」
頭の中で考えていたつもりだったんだが、声に出ていたようだ。
「いや、調べる道具とかならあるぞ」
「「「えっ!?」」」
洋介の一言に俺、紗希、寛之の三人は驚きの声を上げた。しかし、武淵先輩は全然驚いた素振りを見せなかった。
「俺の親父は探検家だから物置とか探せば普通に道具とか出てくると思うんだ」
そう言えば、去年一緒に帰ってるときにお互いの親父の話になって、そのときに親父が探検家だとか言ってたな。洋介のやつ。
「じゃあ、道具とか探しておいてくれないか?」
「分かった。見つかったらまた連絡する」
「洋介、大変そうだから私も手伝うわ」
「ありがとう。助かる」
とりあえず、このリア充2人はひとまず放っておくとしよう。
俺は時刻を確認しようとスマホをつける。
「18時半か」
「……今日はあと2時間くらい探して終わりにするか?」
「そうだな……明日も学校があるわけだからな」
「……よし、とりあえず神社の周辺から探すか」
それから俺たちは2時間、神社の周辺から捜索範囲を広げていった。
しかし、結局手がかりの一つも見つけることは出来ずに終わり、そのまま流れ解散になってしまった。
「兄さん、お待たせ!」
「よし、帰るか」
解散になった後、俺は神社の鳥居の前で紗希と待ち合わせた。
俺は自転車を押しながら帰っているところだ。そして、そのすぐ左を紗希が歩いている。
「今日も茉由ちゃん見つけられなかったね」
「そうだな。無事であることを祈るしかないな」
日も落ちて真っ暗な道。足元すらもよく見えない。しかも、道を照らしているのは街灯だけ。俺と紗希はそんな道を歩いて帰っていた。
「警察の方でも探してるみたいだけど見つかるかな……」
「そうだな。今は変死事件とやらの捜査の方が忙しいらしいからな」
まあ、俺自身、昨日呉宮さんから聞いただけなんだけどな。
「変死事件か……。ここ最近、何だか物騒だよね」
「これ以上何も起きないでほしいもんだな」
「そうだね……」
俺と紗希は25分ほどかけて神社から家までの道のりを踏破したのだった。
「「ただいま~」」
俺と紗希が家のドアを開けて中に入ると。
「おう、二人とも帰ったか!」
親父が寝巻き姿でリビングに入るところだった。
「理恵ちゃん!直哉と紗希が帰ってきたぞ!」
「宗正さん。先に座っていてくださいね。今、晩ごはんの準備をしますから」
理恵というのが母さんの名前だ。そして、宗正が親父の名前だ。
俺と紗希も玄関で靴を脱いでリビングへ直行する。
テーブルの上には夏野菜カレーが置かれていた。
「直哉も紗希も早く座ってください」
「ああ、分かった」
「うん!」
俺と紗希は返事をして席についた。
「「「「いただきます!」」」」
野菜は玉ねぎやトマト、ナスやピーマンが使われていた。毎年これを食べると夏が来たなって感じがする我が家では夏の定番のメニューだ。
全員食べ終わるのも早かった。
特に親父と紗希は食べ終わってそのまま剣術の素振りに向かった。
俺と母さんは今日返却された期末テストについて話し合った。
「いつも日本史だけは点数高いですね」
「まあ、暗記するだけだからな」
「次も欠点だけは取らないように気をつけるんですよ」
「……分かった」
高校に入ってからというもの、なんだかんだでいつも欠点は回避し続けているのだ。この調子で上手くいくことを祈ろう。
「そうです、直哉」
俺がリビングを出ようとしたタイミングで母さんに呼び止められた。まだテストのことで話があるのだろうか……。
「まだテストのことで何かあるのか……?」
俺が恐る恐る聞いてみると以外な返答が返ってきた。
「違います。お風呂が沸いているので入ってきたらどうですか?」
……良かった。テストのことじゃなかったようだ。
「分かった。すぐ行くよ」
俺は着替えを取りに部屋へ戻り、すぐに浴室へと向かった。
――――――――――
俺が風呂に入って30分ほど経った頃。
俺は完全にリラックスしていた。身体中の疲れが滲み出てくるみたいで気持ちいい。俺は夏だろうと冬だろうと30分は湯船に浸かるようにしている。
「あと10分くらい浸かってから出るか」
風呂から出たら明日の学校の準備をしたりしないといけないな。そんな事を思いながら風呂でぐだぐだしていると風呂場のドアが開く音がした。
……しまった。風呂場の鍵をかけるの忘れてたんだった。
「あれ?まだお風呂入ってたんだね、兄さん」
風呂場に入ってきたのは道着袴姿の紗希だった。風呂と脱衣場を区切るドアは半透明なのでシルエットだけなのだが。
「ああ。あと10分くらいで出るよ」
「え、あと10分もかかるの?兄さんってホントにお風呂好きだよね」
「まあな。風呂に入ると落ち着くしな。どうしてもって言うなら10分と言わず、すぐに出るけど」
そう言って俺が出ようと立ち上がりかけた時。
「ううん、ボクは汗を流したいだけだからシャワーだけでいいよ。兄さんはそのまま浸かっててよ」
「えっ……」
俺が動けずに固まっている間に、紗希はどんどん着ているものを脱いでいく……音が聞こえる。そして、風呂へと入ってきた。
そのタイミングで俺ははっとして
「ちょっ……紗希!前は隠してるんだろうな!?」
「ううん、隠してないけど。それにボクは別に兄さんに裸を見られたところで何とも思わないよ」
「俺男だぞ?いくら兄妹とはいえ気にするだろ普通!」
「……ボクは気にしないよ?」
「俺は気にするんだが!?」
俺の自慢の妹は一体いつからこんなことをするような子になってしまったんだ!
「……と、とにかく俺は出るからな!目を隠して動くんじゃないぞ!」
「……分かった」
こうして俺は持っていたタオルで見られてはまずいものを隠して風呂を脱出し、紗希も風呂へ入ってドアを閉めた。
俺は一通り寝巻きに着替え終わって、部屋に戻った。部屋では明日の学校の準備をして、アニメを2話ほど見てから布団に吸い込まれるように眠りに落ちた。
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