第37話 天罰の話しを聞いて・・後遺症? その2

 課長が自分の席に戻る様子をボンヤリと見ていた。

そして、先ほど叫んだことについて考える。


 それは伸也に、今の自分の業務を引き継がせると言われた時だ。


 伸也はいたく美智子さんを気に入っているようだ。

そんな彼奴あいつに、美智子さんが俺の取引先の女性だと言った。


 じゃあ、その仕事を俺から引き継いだ伸也はどういう行動をする?

彼奴のことだ、仕事そっちのけで美智子さんを探すだろう。


 で、いないとわかったら?

・・・。

俺、彼奴にからまれるよね、絶対・・。

それも確実に。

かなりシツコク。

で、何で嘘言うの?と聞いてくるよね?


 彼奴、へたすると勘ぐるよね、俺と美智子さんのこと。


 そして、なぁ、誰だよ彼女は、と。

ことあるごとにからんで聞いてくるだろうなぁ・・・。


 どうしよう・・・。

彼奴、ねちっこいんだよね女性に関しては。

それ以外はいい奴なんだけどね。


 えええぃ! めんどうだ!

知ったこっちゃない。

そん時は、そん時ってことで考えないでおこう。


 なんで、俺は、こう何かに巻き込まれんだろう!

これも神様が悪い!


 そう思った時だ・・


 『呼んだか、わしを』


 「ゲッ、神様!」

思わず叫ぶ。


 周りの人が一瞬拓也を振り返る。

だが、直ぐに何事もなかったかのように無視をした。


 だが、これは不味いかも・・。

課長に先ほど注意されたばかりだ。

なのにまた騒いで注目されてしまった。


 恐る恐る課長の方を見た。

課長は気がつかないようで、熱心に書類を見ていた。


 セーフ!


 思わず野球の審判のポーズをする。

そんな拓也であった。


 神様・猿田彦大神はというと・・。


 『ゲッ、とはなんだ、ゲッとは!』


 お怒りであった。


 あ、そうだった、神様に驚かされてゲッ、と、言ったんだっけ。

でもさ、神様・・さっきの俺の様子を見ていなかった?

俺、課長に先ほど怒られたばっかりなんだけど?

そう言いたかった。


 だが、あきらめてゲッ!と、言った訳を話す。


 「急に神様が現れ、声をかけるのが悪いと思う。」

 『神とはそういうものだ。』

 「・・あ、そう。

 分かりましたよ、へい、へい・・。」


 『ヘイではない! はい、と言え、はいと。』

 「は~ぃ。」

 

 『天罰が欲しいか?』

 「はい!済みませんでした!」

 『最初から素直にそうせぃ! バカモン。』

 「はぃ、で、何か用があったのでは?」


 『そうじゃった、今回は武水別たけみずわけ神社に行け。』

 「え?」


 『今日、お前に新しく任された仕事があっただろう。

 その出張先にある神社じゃ。

 弥生から言われた通り、お前の仕事にあわせてやった。

 神と会うのは、出張先での日曜日じゃ。

 感謝せい。』


 「・・・はぁ、あの、俺自体の休息は?」

 『神の御用である。お前に休息は不要じゃ。』


 拓也はその言葉に溜息をついた。

そして、あきらめの境地、そう、さとりを開く。


 うん、何を言っても無駄だよね。

ダメなものはダメ。


 融通という言葉は、神様の辞書にはない。

ナポレオンも真っ青だ。


 それに神様の言うとおりにしないと怖いしね。

天罰なんて受けたくはない。

それに不幸にもなりたくない。


 俺は学習できる男だ、できる男だ。

男は黙って札幌ビールだ。

ちと、古いか・・。

要するにだ、俺に選択肢はない。

だったら、従ってやろうではないか、神サマに。


 拓也は、神の怒りにの恐ろしさをもう忘れているようだ。

不敬きわまりない拓也である。

まあ、それに対し怒らない神も神なのだが・・。


 拓也は背筋をただし、丁寧に答える。

ただ、これは神様に対する嫌みを込めてだ。


 「わかりました、御用、承りました。」

 『うむ、殊勝しゅしょうでよろしい。』


 「・・おめにあずかり恐縮です。」

 『褒めてなどおらぬ』

 「ふぇ~ぃ。」


 『はい、であろう!』

 「は~い!」

 『まったくお前という奴は・・』


 そう神は呟いた。

そして突然何も言わなくなった。

どうやら、この場から去ったようだ。


 拓也は、溜息を吐きながら天井を見た。

両手はだらりと力を抜いている。

どうでもいいや、疲れたのポーズである。


 神様の仕事ってさ、ブラック企業の仕事と同じだよね。

神様ってブラック企業の社長、似合うんじゃね?

そう思う拓也であった。


 そして、机の前に置いてある書類をみる。

だが、先ほどの神様との会話で仕事をやる気を無くしてしまった。


 もういいや、今日の仕事。

手を抜こう。


 そう思い何時の間にか男巫おとこみこについて考え始めていた。

そう、あの神罰についてだ。


 立ちションで、雷の罰だろう・・。

その男巫は、神様を見たことも話したこともなかったんだよね。


 見たこともない神様を信じろと言っても無理だと思う。


 だから例え家系が神社でも、神様を信じていなかったのではないだろうか。

まあ、しかし男巫であった事は確かだ。

だから神罰はくだされてもしかたないということになるのか・・。


 じゃあ、神様と話しができる俺はどうだろう?

神様の御前おんまえにて、俺、やらかしているんだよね?

不敬を。

それも不敬だとおもわずに。


 やっぱ、これって不味いんじゃね?

美智子さんは、これからパートナーとなる人がサポートすると言っていたけどさ・・。


 俺、根っからの神社の家系じゃないからね。

注意されても不敬を働きそうで怖いんだけど・・。


 でもさ、俺、なりたくて男巫になったわけじゃないんだよね。

それで、神様に真摯しんしつかえろっていわれてもな~・・。


 そう思いながら、ふと、千曲川の氾濫を思い返す。

そう・・。

もし、弥生さんの張った結界が邪魔されなければ防げた災害だ。


 神様は災害を出さないよう人に警告を与えてくれていた。

そして神を敬い、人々のために働いている人達がいる。

少しでも災害を防ごうとして。

神様のお告げに従って、動いている人がいるのだ。


 でも、この人達が人々からの感謝されることはない。

あんなに苦労をしているのに。

なぜなら人々はそうしている人を知らないからだ。


 まあ、彼女らは御礼なんかは求めてはいないけど。


 それを思うと、男巫として微力ながらも何かをしたいと思う。

じゃあ、神様を弥生さんらのように敬えるか?

無理だと思う。


 いや、敬う気持ちはある。

でも・・、おれは一般の人間だ。

生活もある。

神様を中心にした生活は無理だと思う。


 もし突然、俺が神様を信じていると言ったらどうなる?

ましてや神様を敬えなどと言ったら?

周りからは奇異な目で見られるよな。


 それに、本当の男巫なら神をないがしろにするような冗談は見過ごせないだろう。

では、俺はどうだろう?


 友人には神社で神様を揶揄やゆする冗談を言う事もある。


 神様を信じてないけど、神社には行くとかさ。

 お金だしたからご利益を神様よこせ、とか、

 何の神様がいる神社か知らんが、ご利益を、とか、

 去年もお参りしたけど、ご利益ないんですけど、とか、

 神様、彼奴あいつは不幸になり、俺は幸せにとか、

 全く神様を信じていないのに、彼女の晴れ着みたさだけで初詣をするとか。


 そのような友人に、言える?

神様を敬いなさい、と。

冗談でも不敬はしてはならないと。


 まあ、一回くらいは言っても、そうだね、と、周りは言うかも。

でも、神社に行くたびに、言われたとなると・・


 何気取ってんの? 

冗談が通じない奴だな!

とかなんない?


 友達無くすよ?


 そんなとりとめの無いことを考えて、また溜息をついた。

もう疲れた。

今日は仕事さぼろうっと・・。

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