第26話 赤野田川に結界をはろう・・
「拓也さん、すみませんが川に入っていただけますか?
あ、それとこのひとがたを持って行って下さい。」
「わかった。」
拓也は言われたまま長靴に履き替えて、川に入った。
堤防から水面までは少し距離があり、降りるのに手間取る。
川に入ったみると、水量は30cm位といったところか。
そして、水は言うまでもなく身を切るように冷たい。
そして川の中心で弥生を振り返る。
「それでは、私と一緒に移動して頂けますか?」
「わかった。」
そういうと弥生は半眼になる。
なにやら印を結び、体を高い山の方向に向けたり、横に向けたりしながら歩く。
拓也は、弥生の歩調に合わせ川の中を歩いた。
芹があるので歩きにくい。
弥生の歩調がゆっくりなので、なるべく芹を踏まないように歩いた。
やがて弥生は立ち止まる。
それを見て拓也も立ち止まった。
弥生は拓也に指示を出す。
「私のいる川岸から2m程の場所に移動して下さい。」
拓也は言われた通りに、弥生の方に移動する。
「あ、そこでいいです。
そこにひとがたを、川底に埋めて下さい。
えっと、15cm位掘って埋めて下さい。」
「えっと、ひとがたはこのまま埋めていいの?」
「はい、ただひとがたを丸めたりしないで、その状態で頭を川上に向けて下さい。」
拓也は言われた通りに埋める。
「それでは反対の堤防から1m位離れた位置に移動して下さい。」
拓也は先ほどと同じように言われたとおりに移動する。
「あ、そこでいいです。そこに同じようにひとがたを埋めて下さい。」
拓也はそれに従う。
「では、すみませんが、また川の中央に戻り、また同じように歩いて下さい。」
そういうと弥生は歩き始めた。
拓也はそれに従い移動する。
10m位歩いた所で、弥生は立ち止まる。
拓也も立ち止まった。
「拓也さん、もうすこし歩いて下さい。」
言われた通りに拓也は歩く。
「あ、そこです。
そこにまたひとがたを埋めて下さい。」
拓也は言われたとおりに、ひとがたを埋めた。
こんど埋める場所は、川の中央だった。
「ご苦労さまでした、これで終わりです。」
その言葉に拓也はホッとして川から上がった。
長靴からスニーカーに履き替える。
そして弥生と一緒に、先ほど来た小学校に向い川沿いに歩く。
「あの、少し歩きますが、よろしいですか?」
「え? 別にかまいませんが。」
「タクシーを呼んであるのが、少し先なんです。」
「どこですか?」
「
「え? タクシーで長野駅に向うのでは?」
「?」
「あ、いや、駅に行くのでしょ?」
「あ、この路線は廃線になっているんです。
駅舎は残っていて、そこならタクシーとの待ち合わせによいかと。」
「ああ、そういうことですか、わかりました。」
「今日は済みませんでした、川に入っていただいて。」
「いや、別にたいしたことではないので。」
「私が川に入ると地脈の力をもろにうけてしまうんです。
すると、地脈の特定ポイントの特定が出来なくなってしまうんです。
ですから、川に入らず地脈の微妙な変化を探る必要があったのです。」
「あ、そういうことですか・・。そんなに微妙なんですか?」
「ええ・・、それも三角形の結界となると繊細な注意が必要なんです。」
「本当に陰陽士みたいですね。」
「いえ、やっている事は陰陽士ですよ?」
その言葉に、拓也は弥生の顔を見てポカンとした。
それを見て弥生が笑う。
拓也もつられて笑ってしまった。
暫く歩いて拓也は弥生の様子がおかしいことに気がついた。
弥生が少しふらついているのだ。
「あの・・もしかして疲れていますか?」
「あ、済みません、気がついてしまいましたか?」
「?」
「拓也さんに気を遣わせないようにしていたんですが・・。」
「え? いや、俺に気を遣うより、自分を大事にして下さい!」
「え?」
拓也の言葉に、思わず弥生は目を見開いた。
「具合が悪いんですか?」
「あ、違うんです。
地脈のエネルギーをひとがたに封じ込めるには霊力を使うんです。
その時、体内エネルギーも使われるんです。
単なる疲れです。
見苦しい所を見られてしまいました・・、済みません。」
「何を謝っているんですか! どこかで休みましょう!」
「あ、いえ、大丈夫です。 それよりも拓也さん、寒いでしょう?」
正直、拓也は寒かった。
だが・・
弥生は巫女装束だ。
彼女の方が寒いだろう。
それに弥生は疲れていて、ふらつく状態だ。
人の心配なんてしている場合か、と、拓也は思った。
そんな優しい彼女に無理をさせたくない。
そんな拓也に弥生は声をかけた。
「あと300mも歩けば、目的の駅に着きます。」
「わかりました、でも無理なら言ってください。
おぶります。」
「え!」
拓也の言葉を聞いて弥生は顔を赤くした。
拓也は弥生が心配で顔が微妙に赤くなったことに気がつかない。
「では、ゆっくりと歩きましょう。いいですね?」
「・・はい。」
そういって拓也は歩調をゆっくりにし、弥生を気遣いながら信濃川田駅に向った。
この駅舎で待つこと5分。
迎えのタクシーが来て、長野駅に向った。
そして新幹線に乗り込んだ。
新幹線の中で、拓也は弥生に寝ていくことを勧めた。
弥生は最初は遠慮していたようだが、電車の揺れが眠りを誘ったようだ。
発車して暫くすると寝てしまった。
かなり疲れ切っていたのだろう。
その弥生の寝顔を拓也は、ぼんやりと見ていた。
綺麗だった。
ずっと見ていても飽きない。
そして拓也は気がついた。
いつのまにか、弥生とは自然体で話せるようになっていた。
不思議な人だと思う。
本当に、こんな人が彼女であったならと、思ってしまう。
だが・・
いやいやいや、神様の使いをする巫女さんだぞ!
何を考えているんだ、俺は!
拓也は顔を横に何度も振り、煩悩を振り払った。
東京駅に着くと、弥生を起こし改札まで見送った。
職場か自宅まで送ろうかと思ったが、弥生の恐縮する姿を見てやめた。
これ以上は弥生にとって逆に迷惑かと思ったからだ。
ただ、改札から弥生の姿が見えなくなるまで見送った。
弥生は弥生で、なんども振り向いては頭を下げていた。
それにしても何度見ても不思議だ。
これほど人がいても、目立つ巫女装束なのに誰も気がつかない。
神様って凄い、と、このときは関心した。
猿田彦大御神より次の御神託を受けるまでは・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます