12

そして、真っ暗な林を超えると、にわかに空がひらけ、濃い鋼青のそらがぐんとジョバンニの頭上に広がりました。天の河が白くぼんやりとかかり、赤玉や黄玉を散りばめたような星々がうつくしくきらめいています。風がそよぎ小さな野菊のような花がさらさらと揺れています。

(あぁ、ここは銀河ステーションの丘だ)

 もう一度ここにくることができたのです。ジョバンニはずっと大事に抱えてきた鞄を草の上に置きました。この中にしまわれている月長石はあの銀河鉄道のステーションとなりうる輝きを十分に持っています。今夜、もう一度あの鉄道に乗ることができるのです。


※※


「へぇ綺麗だな」

 感心したような声が沙希の耳元で聞こえた。あの少年がいつの間にか沙希の隣に立っていた。草原の頭上に広がる天の川を見つめながら、前髪を撫でる風に心地よさそうに目を細めた。

「なんでいるの?」

 沙希だけの物語のはずだった。

「俺も見えるんだよ。ずっとあんたの物語を見てた。これまで見たどんな蟲よりも綺麗だった」

「蟲?」

 聞きなれない言葉に沙希が問い返すと、気にするなというように小さく首をふって、ふいに沙希を振り返った。

「だから、そろそろ終わらせようよ」

 穏やかな声だった。素晴らしい物語は、余韻があるうちに終わるからこそ何度も繰り返し読みたくなる。それは沙希もよくわかっている。でも。

「でも。ここがなくなったら私、どこにも逃げ場がない」

 いつの間にか涙が溢れ出ていた。

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