第46話 終結
切り落とされた光背の小さなオロチたちは、徐々に再生の兆しを見せていた。
先ほどのように一斉に撃退できる機会など、そうそう有るわけがない。
手を打つならば、攻撃の手数が絞られている今にある。
『ギアッ! ギイイ‼』
しかしオロチの攻撃は、こちらの動きを捕らえておらず、無駄に着弾していく。
その間に春夢らの剣が、鱗の皮膚に傷を刻んでいった。
(動きはこちらが上! 隙を突いて、必殺の一撃を叩き込むには‼)
「はるむ! はなれるんだな‼」
ハルピコの助言に、後方へと退く。
するやオロチの口から、白煙が振り撒かれた。
あの毒の霧だ。周囲に充満し、春夢らの行く手を阻む。
「これじゃあ、盾は意味無いな。まずい! 眷属を再生する時間稼ぎか⁉」
「だったら僕が援護します!」
突風が、毒の霧を晴らしていく。
扇を振って、モノケロの突風が春夢らの道を切り開いた。
「行くぞハルピコ! 覚悟は良いか!」
「バショは分かってるんだな! ゼンリョクでやってみるんだな‼」
「よし! 最大出力だあ‼」
地を蹴って、突っ込んだ。
目指すはオロチの胴体。
皮膚を突き破り、内部へと深く侵入した。
『シャアアアアッッ……‼』
痛みに悲鳴を上げるオロチ。
その声が響き渡る体内で、春夢らは目的地へ進んでいく。
◇
うっすらと暗い空間に、じめついた空気。
あらゆるところから、時々呪力の光が、筋のような管を通って昇っていく。
その光景に、
(苛立ち。何かに、戸惑ってる……?)
乏しい思考回路が、そう告げた。
その空間での聖燐の活力は、ほぼゼロ。亡者に等しい。
服に張り巡らされた枝は、根を生やす様に強固に拘束。聖燐は囚われたまま、身体を一ミリも動かすことができない。
(アタシ、どうなったんだっけ? アタシ)
やがて考えるのを面倒がって、甘い睡眠欲に落ちていく。
「い、り~ん」
「ん?」
「せい……ん! せい、り~ん!」
ふと、誰かが自分を呼んだ。
徐々に近づいてくる。
確かに、はっきりと。
そして――。
「せいり~ん‼」
目前に目をあぶるほどの太陽光が飛び込む。
聖燐に覆いかぶさるように、先客も突入してきた。
至近距離には、平らで何とも気の抜ける、猫のような顔。そのくりくりとした瞳が、こちらを見据える。
「はる、む。ハルピー」
「よかったんだな! ぶじだったんだな‼」
顔を上げると、春夢も安堵した表情をしていた。
「助けに、来てくれたの?」
おずおずとそう口にする。
すると春夢は間を置かずに頷いた。
「お前とは、いろいろしこりが残ったままだったからさ。けど、その心配は無事に済みそうだ」
春夢の右腕に纏わりつく、呪力の刃とも言うべき何か――それが聖燐に纏わりつく根を焦がす。
人の皮膚には仄かに暖かいだけの光が、聖燐を拘束していた邪魔な力を根こそぎ削いでいった。
するや、聖燐を解放した途端。空間に断末魔が響いた。
『ギア、アアアアッッ!』
「相当苦しんでるな。うおっと!」
春夢は聖燐を胸で受け止める。
暖かい体温の温もりに、聖燐は包まれた。
こんな場所では決して味わえることのない、居心地の良い感情が芽生え……。
同時に聖燐は、自分とオロチが辿るべき未来を――願いを吐露する。
「人に利用され、ここまで歪められてきた。その未練はここで断ち切りたい。お願い春夢。オロチの怨嗟を、ここで終わらせて。それができるのは、アンタたちだけ」
青い瞳を震わせ訴える。
春夢とハルピコは静かに頷いた。
◇
悶え苦しむオロチは、眷属の首を回復させるや辺り一面を所構わず攻撃していた。
自身の怒りを少しでも他者に押し付けようと。
「オロチが向かってくる! このままでは結界が突破されるぞ⁉」
「いや待て‼ 何か様子が変だぞ?」
口内から吹き出る呪力の攻撃が一斉に止む。
オロチはまるで喉に何かをつっかえたように、『ガッ! ゴッ!』と動きを鈍らせて。
穴が開けられた胴体から、青白い閃光の爆発が巻き上がった。
飛び散る肉片と、地上に降り立った者達。
自身が依り代に取り込んだ娘と、かつて自身の前に立ちはだかった力を持つ者。
「終わりにするぞ。準備は良いかハルピコ!」
「アイツのじゅりょくが、よわまっているのが分かるんだな! もうなにも、こわくないんだな!」
飛び散りそうになった意識を、己のプライドと敵への恨みだけで引き戻す
そうやってもう一度、八つの口が目前の敵共を吹き飛ばしにかかるが。
『キアッ! シャア、ア⁉』
身体の力が抜けていく。
自身の内包する呪力が、開けられた傷口から流れていく。
対面する人間が、片手を天高くかざした。
そこに目を疑うほどの呪力が集められていく。
かつて自身を追い込んだ、あの力だ。
創り出される、呪力の刃。
オロチの全高など遥かに超えて、天にまで届きえそうとさえ思える光の柱が、彼らの手に宿り。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼』
振りかざされた。
光はオロチを飲み込んで、その身を両断し――。
オロチの身体は急速に干からび、意識は根こそぎ呪力の粒子の中で溶かされていく。
自身の行動理念、怒り、恨み……そのどれもが、まるで温かい陽の光に浄化されるように、和らいでいった。
そして雄たけびは徐々に鳴りを潜め、オロチの生命活動は緩やかに停止していく。
戦いは、終結した。
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