第2話「まず召喚と思ったが……」

「さて、まずは魔物を召喚するか。Xデーは近い」


 いま僕は岩むきだしの洞窟最奥部にいるーーいや、我がダンジョンのマスタールーム。コアの鎮座する空間だ。


「現実感わかないほどのでかい宝石だな、これ」


 光もないのに輝いているダンジョンコアが目にしみる。これが本当にただの宝石なら売って遊んで暮らすんだがなあ。だがそれはできない、これは僕の心臓であり命そのもの。破壊されたりなどもってのほか、傷などつけられた日には地獄の苦しみを味わうらしい。


「確か魔力を流して合言葉を言うんだったな」


 僕は「魔王国に栄光あれ」とつぶやく。するとSFちっくな画面が空中に現れ、メニューが表示される。


「まるでゲームだな、こりゃ」


 召喚、設置、拡張、生成などなど多くの項目があり、本当にゲームの選択画面のようだ。レイアウトも辺にしっかりしていて凝っている。


「まずは召喚だな、話し相手くらいは欲しいしーーってこりゃすごい」


 なんと思っただけで画面操作ができるのだ。これは現代科学も真っ青な魔法文明。いちいち手を動かさないでいいのは楽でいいな。近未来にタイムスリップしたかのようだ。まあ、いまの環境は岩むき出しの洞窟。旧石器時代並みなのだが。


「スケルトン、ゴブリン、インプーー結構種類があって迷うな」


 色々と選べるようなので画面をスクロールしていき、考えを練っていく。


「ここは数より質、強力なドラゴンを召喚してみるか」


 そう自分の中で決断すると、警告音のようなものが響いた。


「ますますゲームみたいじゃないかーーってなになに。あなたが召喚するには危険です。または魔力、素体、魂魄、財貨、酒が足りてませんだって? どうゆうことだ?」


 ヘルプ機能が欲しいな。いや、ないかーーって出てくるんだ。助かる。


「なになに、召喚するにはそれ相応の対価が必要です。魔力だけで強引に生み出すなら莫大な魔力を。もし素体や死体など触媒があるならば、状態次第で必要な魔力量を大幅に節約できます。魂魄の場合も同様です。また召喚に際して対価を要求してくる者もいるので、そちらをご用意ください。強い悪魔の場合は清く強い魂、契約を迫る者もいます。ドラゴンの場合は財貨や酒など様々。特殊な個体は自分より強いもの以外には従わないと勝負を挑んできたりします。なので特殊個体の場合は召喚の際、再度確認させていただきます」


 なんだこれ、不便だ。


「え、じゃあ何も召喚できないってこと?」


 そう軽くショックを受けていると、召喚できるものがリストアップされた。さすがの高性能、運命は僕を見放してはいなかったんだ。


「えっと可能なのはスケルトン、ゾンビ、ゴーストーーってアンデット尽くしじゃないか!! ここは昔戦場か墓地だったのか?ーーってそうか」


 かれこれ魔族が戦争に明け暮れ数千年。そりゃあちこち素材で満ち溢れていても不思議じゃない、納得納得。


「って他にないのか……悪魔の類は召喚可能らしいな。必要なものはーーやはり契約か」


 悪魔との契約。考えただけで良い予感がしない、今回はパスーーいや、淫魔の類ならウィンウィンでは。いやだめだなパスだな。なんか他に方法はないかーー

 そんな時にふと思った。食料など物資の類は生成できるのかと。


「……日用品とかにも素材が必要なのかよ」


 白パンには小麦粉、酵母菌、水などのレシピみたいなものが触媒として表記されている。不便だ、魔力だけで生成できないかーーって莫大すぎるだろ、パン1個で僕の魔力9割ってどうゆうことだ!! 回復するまで数日かかるじゃねえか。ああ、魔力の低いこの体が恨めしい。

 くっそ、他のラインナップはどうなっている……っ!!


「……マジかよ。最っ高じゃねえか、何でもっと早くダンジョンマスターにならなかったんだ僕」


 スクロールされた先は前世の文化にまみれていた。醤油もあればトイレットペーパーもあり、マグロや家電もラインナップに並んでいる。エネルギー問題と素材不足が頭をよぎったが、贅沢は言うまい。これは意地でも長生きして悠々自適に暮らさねば、これはきっと運のなかった前世に対する補填だ。きっとそうだ、そうに違いない。


「食ったことない外国の製品とか食品もあるな。これってちゃんと再現されるのか?」


 非常に気になる。だがまずはコンビニでよく買ってたものを楽しみたい。ポテチならジャガイモと油、そして塩だ。人族の少し大きな街にでも行けば手に入るはず、そんなに高くもないはずだ。金はどうする、適当に森に自生している薬草か狩猟をしてそれを売ろう。

 ああ、早くいままでの食生活魔族バージョンと別れを告げねば。もう生肉はたくさんだ、俺は獣じゃない、焼いても塩振らねえし。魂を吸収だって? 聞こえてくる悲鳴がスパイスになるわけないだろ。くそ、なんで略奪物資は高位魔族の嗜好品行き確定なんだ。現場でちょっと食わせてくれてもいいだろう!!


「いかんいかん、とりあえず今はポテチだ。考えただけでこんなに食べたくなってくるとは……」


 諦めて消えてしまった欲がこんなに再燃するとは思わなかった。

 さて、では街に繰り出すとするか。

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