第七章  老人と雪  令和十年十二月十三日(水) 高山圭介

令和十年十二月十三日(水) 北海道札幌市・北海道庁立南高


 私は受け持ちのクラスのHRで転任の是非を問うたが、圧倒的大差で転任は承認された。私は反面教師として生徒達を導こうとしていたから、無理もない。

 チョーク芸人としてはお役御免となった私は、歴史学研究室で榎本先生へと連絡を入れた。授業があれば一時間目に当たる時間帯で、細雪ささめゆきが降り始めている。

「……ということは共和同盟は現在、先生を筆頭とする穏健な『君主派』と、日本からの完全な分離独立を目指す過激な『共和派』に分かれているということでしょうか」

「そうだ。今回の独立宣言は、実は我々『君主派』のほうから先に手を打って出したものでな。事態の主導権は、あくまでこちらにある。あとは、金曜日の選挙次第だ」

「金曜日の道会選挙に、脅迫なり候補者の暗殺なり、そういった介入は加えないおつもりですか?」

「そう考えている。必ずしも正しくない目的を抱いているからこそ、我々はその手段においては正しくなければならん。『共和派』は必ずしもそうは考えていないようだがな」

「……分かりました。学校のほうは、今日中に引き払います」

「ああ。転属の手続はこちらでしておく。明日は直接、長官室に来るように」

 私は通話を終え、スマホをチョッキのポケットに収めた。

 ……『共和派』か。他の目的を持ってアイヌモシリ共和国構想を唱えている『君主派』とは違って、おそらくそいつらは本物の敵になる。

 今更ながら、自らが負った任務の重みを双肩に感じる。陸軍では、『生きて虜囚りょしゅうはずかしめを受けず』と言う。ことと次第によっては諜報活動が露見した場合、情報を漏らさぬよう自らを始末せねばならない場面も出てくるだろう。

 二階級特進の覚悟はしておこう。皇国みくに四方よもを守るため、私はこの身を祖国に捧げよう。

 『そのとき』には私の魂は英霊となって津軽海峡を越え、靖国に帰る。死して護国の鬼となるのなら、それはまさに我が本懐である。

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