恋煩い?


 その日から、どういうわけかダイアナさんは引きこもりを決め込んでいます。

 シルビアさんがさすがに心配して見舞いに行ったのですが……


「ダイアナ、どうしたの?」とシルビアさん。

「……その……胸がドキンと……」とダイアナさん


「えっ、ひょっとして恋わずらい!」とシルビアさん。


「……」


 柄にも無く、真っ赤になるダイアナさん……


 シルビアさんが、

「そう、貴女もついにお年ごろに!いいわ、誰、男?女?いいなさい!叔母さんが話をつけてきてあげるわ!」


「……誰かわからないの……それに名前も聞きそこねて……」

 ダイアナさんはポツポツと話はじめました。


 シルビアさんが、

「それで助けてもらったのね、何処かの魔法士でしょうが……どんな魔法を使ったの?」


 ダイアナさんは、

「雷と転移……」


「不思議な杖を持ってられたわ……それに……」


 シルビアさんが、

「しゃんと返事しなさい、男だったの?」

 首を振るダイアナさん。


「女だったのね……まぁいいわ」

 ネメシス伯爵家の事は後回しにして、いまはダイアナさんの幸せを考えるシルビアさん。


「で、年は?」とシルビアさん。


 ダイアナさんは、

「お若かったわ、見た目は私よりも年下に見えたけど……雰囲気は年上のように思えたの」


「分からない説明ね!」とシルビアさん。


 ダイアナさんは、

「信じられないほどお綺麗で……ひれ伏しそうになったの……」


 ここでふと、シルビアさんはある女を脳裏に思い浮かべます。

「雷と転移……ひれ伏すような美貌の女性……」

「ダイアナ、その方、雷の魔法を使うとき、杖を持っていたのね?」


 ダイアナさんが、

「持ってられたわ、杖の先から稲妻が走り出て……人攫いが焼け焦げたわ」

「そのあと手を振られたら、野火が瞬時に消えて、人攫いの死体も土に帰ったの」


「やはり……あの方しか……」とシルビアさん。

「叔母さま、知っているの!どなた!」とダイアナさん。


「相手が……悪いというか、よすぎるというか……」とシルビアさん。

「お願い、叔母さま、私……」とダイアナさん。


「たくさん女がおられる方よ……」

 シルビアさんは、しみじみとダイアナさんを値踏みしました。


 確かに大柄だがスラっとしたスタイル、大きな目と優しい顔、十人並みどころか千人並みの美貌、掛け値なしの美人です。


「資格はあるわね」とシルビアさん。


 エラムの女なら誰もが憧れる地位、黒の巫女ヴィーナスの寵妃。

 シルビアさんは我が姪に、その資格を見出しましたが、

「でも……ヴィーナス様は、ダイアナのあの能天気なところをどう思われるかしら……」


 実は先ほどの女官長の会議で、一人も寵妃の居ないハレムが問題となり、各地の女官長は必ずそれなりの人選をするように、との申し合わせがあったのです。


 ネメシスが属すシャヘル騎士団領には寵妃が一人もいない……シルビアさんは美女を探していたのです。


 ほんと、確かにダイアナは美しいですが……毎日毎日、困りごとをやらかすダイアナを、果たして推薦して良いものか……


 難しい顔をして黙りこんでしまったシルビアさんを見て、ダイアナさんはしょぼくれています。

 しかし、どうしても憧れの方の正体を知りたいダイアナさん、

「あの方はどなたなのですか?」

 と聞きました。

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