第6話 モールス信号機

翌日、アマリリスは、何とか起きられるようになっていた。

それは、体力が回復してというよりも、じっと横になっていることが耐えられないからだった。


父親の消息に関しては、何日経っても、わずかな手掛かりすらもたらされることはなかった。

希望を持たせるようなことを言ったことを、今となってはクリプトメリアは後悔していた。

その希望は、むしろ一層、アマリリスの苦しみに加担しているように見えた。


モールス信号を送受信するクリプトメリアを、側でじっと見つめるみどりの瞳は、

交信を終えた彼が胸の潰れる思いで結果を告げる時、

悲痛とか絶望とかいった生やさしい状態を超え、

本物の病におかされて、死の床にある人のように見えた。


奇妙な話ではあった。

アマリリスとヘリアンサスは、小型の救命ボートでトワトワトに流れ着いた。

ファーベルが発見したとき、ボートには二人だけで、ともに気を失っていた。

しかし二人は、父親と一緒に海に落ち、それ以降は記憶がないと言う。

それなら、彼らをボートに乗せた人物がいることになる。

それが二人の父親なのかも知れないが、その人は一体どこへ消えた?


まだふらふらする足取りで、アマリリスは海岸に行きたいと言い出した。

自分たちが漂着した場所の周りを、自分で探すのだと。

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