第三話―① 放課後の帰り道
私は〝彼氏〟である
なんでも、特に親しくしている友人二人を私に紹介してくれる、というのだが……
何といっても彼らは、学園でも名物と呼ばれるトリオだ。すれ違う生徒達の視線が居心地悪くて仕方がない。
「
「初めまして、波川です。どうぞお見知りおきを」
そんな好奇の目も彼らにとっては慣れっこなんだろうか。入間くんの声に応じて、波川くんが涼しい顔で
「そいで、コイツはさっきもいたけど、まあ、一応。中学からの悪友・
「備前だ。ま、一つよろしく頼むぜ」
「は、初めまして……朝比奈
「へえ、下の名前は若葉さんって言うのかぁ! 名前もとっても
「って、知らなかったのかい?」
入間くんが
「まあ、コイツも教室で対面するまで顔もわからなかっただろうしなあ。当然って言えば当然かね」
うん、うんと
……少し、ホッとした。
「へえ……何にせよ、喜ばしい事には変わりないか。おめでとう、
「思う所が無くもないが……祝福してやんよ。やったな、晴斗!」
「あ、ありがとな。二人とも!」
はしゃぐ入間くんを囲むようにして、二人が祝福の言葉を投げかけてゆく。
その光景をぼうっと眺めながら、私は沸き上がる罪悪感を必死で押さえつけていた。
「んじゃ、目通りも済んだことだし、俺らは行くか」
「そうだね、お邪魔虫は退散する事にしよう」
入間くんの両肩をぽん、ぽん、と
「あれ、もう行っちゃうのか? 一緒に帰ればいいのに」
「おう、練習もあるしな」
「僕も今日は用事があるから。じゃあ、
「おう、また明日な!」
別々の方向に歩き出した二人のその背中に向けて、
「仲が良いんですね」
「まあ、腐れ縁って
そう言いながらも、友人達の事を語る彼の顔は、どこか誇らしげだ。
……正直、羨ましいと思った。
「じゃ、じゃあ……俺達も、その、帰りましょうか?」
「あ、は、はい」
私達の居るこの場所は、一年の教室から良く見える位置にある。
ゆえに──『彼女』の顔が、窓の向こうに映り込んでいるのが、くっきりと見て取れた。
「
「あの、どうかしました?」
「い、いえ! 何でもありません!」
彼に気付かれないよう視線を戻すと、その場から逃げるように歩き出した。
帰り道。入間くんは、遠慮がちに、ではあったけど……私に色んな話を振ってくれた。
主な内容は、学校の事。先ほどの二人の話題を筆頭に、面白おかしく身振り手振りで語り出す。おそらく、場を盛り上げようとしてくれているんだろう。
けれど、私は曖昧に
まさか、馬鹿正直に
彼にしてみれば、さぞつまらない女の子に見えただろう。
やがて話題は、好きなテレビ番組や音楽、そして互いに住んでいる家の場所などに移っていった。
これなら、大丈夫。家を教えるのに若干の抵抗はあったものの、いってみれば、問題はそれくらいだ。入間くんの質問に、私は当たり
「ふーん、朝比奈さんのお
「は、はい。もうちょっと先にあります」
そうこうしているうちに、分かれ道に差し掛かった。
彼の住む家は、ここから二駅離れた場所にあるというのだから、ここで彼とはお別れできる。ひとまずこれで、今日の所は終了だ。この苦行から、ようやく解放される。
──あと一つ、『ノルマ』をこなせば、それで……
送って行こうか、という彼の言葉をできるだけ丁重にお断りする。
「じゃあ、ここで失礼しますね! また明日、学校で!」
そう言って、
「あ……」
「あれ、何かありますか?」
言葉にもならない
本当は、ここでさよならをしたい。けれど、私には彼に言わなくてはならない事があった。そう、果たさなければならない、『ノルマ』があるのだ。
「は、はい。その……
「土曜? えっと、たぶん大丈夫かな。それが、どうかしましたか?」
「あ、その……よ、良ければ、なんですけれど」
「え?」
「──私と一緒に、遊びに行きませんか?」
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