ミカと真由美の七不思議 ~Over Seven Fears~

一日の授業が終わった放課後。あたしと真由美は、今日も二人だけで、部室に座って怠惰な時間を過ごしていた。


ここ一週間ほど熱中していたソーシャルゲームも、何だか急に冷めてきた。

あたしはスマホをスリープモードにして、机に放りだす。


「あーあ、今日も暇だなー。ねえ真由美、なんか面白い話ない?」

あたしが訊ねると、向かいの席で本を読んでいた真由美は顔を上げた。

「ないわね。それより、ミカもたまには部活らしいことをしてみたら?」


あたしと真由美は、この学校で二人だけの『オカルト研究会』だ。


本当は部活の申請は5人からなんだけど、クラスメイトに名前だけ貸してもらっている。3人は幽霊部員。オカ研だけに。


「部活らしいことねえ……じゃあ、今日はオカ研らしく『学校の七不思議』でも追究してみる?」


あたしが言うと、真由美の片眉がぴくりと動いた。


「七不思議なんて……定番すぎでしょ。わたしたちには今さらすぎるわ」


口ではそう言っているが、真由美もオカ研部員だけあって生粋のオカルト好きだ。

内心は興味をそそられているのだろう。


「ちっちっち。ところがどっこい真由美さん。我が諸喪無しょもな高校の七不思議には、他の学校と違ってけっこう風変わりなのが揃ってるんだよ」

「……へぇ?」

真由美は読んでいた本を閉じた。

「そうなんだ? 二年間も通ってて知らなかった。灯台下暗しだね」

「ふっふっふ。実は真由美に内緒で、夏休みを丸々かけてリサーチしてみたの。ミカさんも、毎日ただ遊んでいたわけではないのですよ」


「……ちょっと面白そうね。聞かせてちょうだい」

胸を張って言ってやると、真由美は眼鏡を持ち上げた。

完全に『喰いついた』時のリアクションだ。


「オッケー。じゃあ、あたしが今からこの高校の『七不思議』を発表するから、どの不思議を追究するか、真由美が決めてくれる?」


「……分かったわ」


真由美は頷いた。


「じゃあ、さっそく発表するね。まずは一つ目の不思議から……」


部室のホワイトボードにマジックペンを這わせながら、あたしは真由美に『当校の七不思議』を説明し始めた……。




1~咽び泣く人体模型~

「理科室に、人体模型あるでしょ? あれ、実は本物の人間の臓器が使われてるんだって……。夜中になると、生きてた頃の記憶が戻っていつも泣いてるんだって……」


2~一つ増える階段~

「図書室から音楽室へ上る階段、あるでしょ? あの階段は12段あるんだけど、数えながら上ってみると、ときどき13段になってるんだって……。ちなみに13階段っていうのはね、死刑囚が絞首台に上る時の最後の階段の数と同じらしいよ……」


3~合わせ鏡の向こうに映る自分~

「階段の踊り場に、大きな鏡があるでしょ? 家からもう一枚鏡を持って行って、4時44分に合わせ鏡をすると、そこに映った自分の顔が、苦悶に満ちた老人の顔になるらしいよ……。それが、自分が死ぬときの顔なんだってさ……」


4~桜の木の下に埋まる死体~

「校庭に、とっても大きい桜の木が立ってるでしょ? 実はあの根元には、死体が埋まってるんだって……。昔の在校生で、ストーカーに殺された女の子らしいよ……」


5~呪われたウサギ~

「飼育小屋に一匹だけ、真っ黒なウサギがいるでしょ? あの子、もともとは真っ白なウサギだったんだって……。受験や青春に悩む生徒たちの昏いエネルギーを浴びすぎて、黒くなっちゃったらしいよ……。人間の負の心って、怖いね……」


6~笑うモナリザ~

「美術室のモナリザ。ときどき目が動いたり、笑ったりするらしいよ……。悪ガキの男子が目に画鋲を刺したら、血の涙を流したっていう事件もあったみたい……」


7~トイレの花子さん~

「これは、あたしと真由美も見たことがあるよね。トイレに棲む女の子の怪異だよ。夜中にトイレを三回ノックすると現れるの。遊んでいると殺されちゃう。でも、意外と物理攻撃が効くみたいだね……」


8~誰もいない音楽室で鳴るピアノ~

「音楽室のグランドピアノ、あるでしょ? 夜中になると、誰も座ってないのに鳴り出すらしいよ……。『エリーゼのために』を弾いてるんだって……。前から思ってたけど、エリーゼって誰なんだろうね……」


9~体育館の首なし幽霊~

「夜の体育館で、首のない男の子がバスケの練習をしてるんだって……。しかも、よく見ると、投げてるのはバスケットボールじゃなくて自分の首なんだって……。練習しすぎて、今はどのエリアからでもスリーポイントシュートを決めるらしいよ……」


10~赤い紙・青い紙~

「トイレの個室に入ってると、ときどき『赤い紙と青い紙、どっちがいい?』って声がするんだって。そこで『赤い紙』って答えると、全身から血を吹き出して真っ赤になって死んじゃうんだって……。『青い紙』って答えると、全身の血を抜かれて真っ青になって死んじゃうんだって……。『白い紙』って答えると、新品のトイレットペーパーをくれるらしいよ……。紙が切れてる時は、イチかバチかで頼るのもアリだね……」


11~歩く二宮金次郎像~

「校門の横に、二宮金次郎の像が立ってるでしょ? あれ、夜中になると台座から降りてきて校庭を歩き出すんだって……。もとは野山を歩きながらも読書を続ける勤勉さの象徴だったのに、最近『歩きスマホの誘発を招くから不謹慎』とかディスられてブチ切れてるんだって……」


12~欠番~

「12話は欠番なんだって……。なんか色々と問題になったらしいよ……」


13~水中に引きずり込んでくる男の子~

「プールで泳いでると、ときどき水中から誰かに足を掴まれるんだって……。白目の部分が全然ない、真っ黒な目玉をした男の子なんだってさ……。Dカップ以上の女子を優先的に狙ってくるらしいよ……」


14~開かずの扉~

「職員室の横に、いつも封鎖されてて絶対に開けられない扉があるでしょ? あれ、実は異世界に通じてて、開けた人間は向こう側に連れていかれちゃうんだって……。しかも、向こうではロクなスキルが貰えないらしいよ……」


15~いつまでも帰ってこない本~

「図書室の書架に一冊だけ、もう何十年も昔から返却されていない本があるんだって……。『竜馬がゆく』の5巻らしいよ……。だから今まで、6巻以降が貸し出されたことは一度もないんだってさ……」


16~疾走する100キロばばあ

「信じられない速度で、校庭を走り回ってるみたいだよ……。東京五輪を総ナメにするつもりなんだってさ……。ときどき校庭を歩いてる二宮金次郎像とニアミスして、口汚い罵り合いをしてるらしいよ……」


17~人面魚~

「校庭の隅に大きな池があるでしょ? あそこには、人間の顔をした人面魚が泳いでるんだって……。驚くと『ギョギョ!』って言うんだって……。でもサバイバル同好会に刺身にされる直前は『マジで!?』って言ったらしいよ……やっぱり安易なキャラ付けだったんだね……」


18~ベッドの下の男~

「保健室に、ベッドが二つあるでしょ? 実はあの下には大きな鉈を持った男が隠れていて、真夜中の0時になると、ベッドの下から這い出してくるんだって……。でも、真夜中の0時に保健室で寝てる人間はいないから、基本的に無害らしいよ……」


19~あの世に通じる公衆電話~

「職員室の前に、公衆電話あるでしょ? あれを午前4時44分に『4444-4444-4444』でコールすると、啜り泣く女の人が電話に出るんだって……。泣きながら家の住所を訊かれて、正直に答えちゃうと、着払いで高額な蟹が送り付けられるらしいよ……」


20~渡り廊下横の、押しても決して鳴らない非常ベル~

「完全に壊れてるらしいよ……」


21~花壇に咲くラフレシア~

「死ぬほど臭いらしいよ……」


22~一度も散髪の形跡が見られたことのない、数学の有沢先生~

「やっぱりヅラらしいよ……」


23~いつも喧嘩ばかりしている、国語の塚本先生と音楽の下田先生~

「ほんとは不倫関係にあるらしいよ……。学校で険悪そうにしてるのは世間へのカモフラージュなんだって……。やっぱりえげつなさでは生きた人間に勝てないね……」


24~夜な夜な違法な実験を繰り返していると噂の、理科の安藤先生~

「こっそり覗いてみたら、アルコールランプで炙った烏賊イカさかなに、フラスコに注いだカシオレを飲んでたよ……。家に居場所が無いんだってさ……。可哀想だよね……」


25~正体はろくろっ首だという噂の小堺教頭~

「家出した娘さんの帰宅を、首を長くして待ってるらしいよ……。頓智とんちだね……」


26~魔王の生まれ変わりと言われている高天原たかまがはら校長~

「これは本当に根も葉もない噂だったよ。ただ顔が怖いだけで、中身は優しいお爺ちゃんだもん。こないだ公園で孫と遊んでるところを見たけど、こっちが恥ずかしくなるくらい溺愛してたからね」


27~いつも仏のような笑みを絶やさない山本理事長~

「本当の魔王はこっちの方だよ……。あたしは彼女の口から聞いてしまったんだ……宇宙開闢かいびゃくときから学校の地下に眠る、虚栄の神の存在を……」


28~未だ目覚めぬ虚栄の神~

「うちの学校の地下には、銀毛繚乱八十八岐大蛇ぎんもうりょうらんはちじゅうはちまたのおろちが眠っているんだって……。この世は全て彼が見ている泡沫うたかたの夢に過ぎず、彼が太古の眠りより目覚めた時、世界は一粒のつゆと消えてしまうらしいよ……」


29~それを知ってはならない~

「これだけは、本当に知っちゃいけないって噂だよ……。知っちゃうと、えらいことが起こるんだってさ……。マジでドン引きするようなことが起こるらしいよ……」


30~七不思議なのに何故か七個以上ある~

「まあ、やっぱり最後はコレだよね……」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「さあ真由美、一体どの七不思議から調べてみる?」

あたしがそう言って振り向くと、真由美はもう部室にはいなかった。

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