花子さんの噂 ~Break the story~




『花子さん』って、知ってる?





ううん。クラスの女の子の名前じゃないの。




ううん。先生の名前でもないの。




ううん。OBの名前でもないの。




ううん。わたしの名前でもないの。



わたしの名前は真由美だって、知ってるよね?






花子さんはね。学校のトイレに棲んでいるの。




ううん。清掃のおばちゃんの名前でもないの。



そういうことじゃないって、わかるよね?



わたしは、怪談をしようとしているの。






花子さんはね、学校の女子トイレの、3番目の個室に棲んでいるの。



ううん。類稀たぐいまれな便秘とかではないの。



だから、そういう話じゃないの。



話の腰を折らないでくれる?






花子さんにはね、独りで、3時に、学校の女子トイレに行くと会えるの。



ううん。午前3時のことなの。



15時のことではないの。



15時に会えるなら、みんな割と頻繁に会ってるはずだよね?



話の腰を折らないでくれる?






午前3時に、学校の女子トイレで、3番目の個室のドアを、3回ノックするの。



ううん。4回では駄目なの。



確かにビジネス書には『フォーマルな場でのノックは4回』って書かれていることが多いけれど、このケースはそういう問題ではないの。



わたしがしているのは、そういう話ではないの。



話の腰を折らないでくれる?






ノックを3回したらね、『花子さん、いらっしゃいますか』って訊くの。



ううん。『入ってますか?』では駄目なの。



それは失礼だよね。



それは、『今、用を足していますか?』って訊くのと同じだから。



ミカも女の子なんだから、それくらいの常識はわきまえようね。






で、『花子さん、いらっしゃいますか』って訊いたらね。

『はぁい』って言葉が返ってくるの。



ううん。そこで『すみません』と言って隣の個室に入ったら駄目なの。



そしたら話が終わっちゃうよね。



ミカは、ただ午前3時に学校に用を足しにきただけの子になるよね。



そういう話ではないの。






『はぁい』って声が聞こえたらね。



ゆっくりと、個室のドアを開けるの。



ううん。ここは開けても失礼には当たらないの。



わたしは今、性犯罪の話をしているわけではないの。



話の腰を折らないでくれる?






個室のドアを開けるとね、そこにはおかっぱ頭の女の子が立っているの。



ううん。河童かっぱではないの。



おかっぱ頭。



皿は、乗ってないの。



聞いたことないの?



ミカは本当に常識がないよね。



ときどき、怖くなるよ。






おかっぱ頭の花子さんが現れたらね。『何をして遊ぼうか』って訊かれるの。



そうしたらね、『かくれんぼをしましょう』って答えるの。



ううん。『スマブラ』って言ったら駄目なの。



花子さんはね、空襲で焼け死んだ女の子の幽霊っていう設定なの。



たぶんスマブラは知らないの。



ううん。たしかにスマブラは面白いよ。



でも、そういう話ではないの。



話の腰を折らないでくれる?






『かくれんぼをしましょう』って言ったらね。花子さんは喜ぶの。



そしたら、一緒にトイレを出て校庭に出るの。



ううん。トイレを出る時に手を洗わなくてもいいの。



もちろん、洗っちゃいけないってことはないんだけど。



でも、物語には『流れ』ってものがあるよね。



そこで手を洗うという無駄な行為は、物語の流れを阻害するよね。



だって、ほら、もう花子さんが付いてきてるわけだから。



ミカが石鹸で手洗いしてジェットタオルで乾かすのを無言で待ってる花子さんの心境を想像すると、ちょっとね。



話の腰を折らないでくれる?






校庭に出ると、かくれんぼが始まるの。



どっちが鬼になるか、じゃんけんで決めるの。



ううん。田舎いなかチョキを出したら駄目なの。



まあ、出したら駄目ってことはないんだけど。



でもほら、怪談って、全国的な普遍性が要求されるから。



場面を頭の中で思い浮かべた時に、地方性を強く出しすぎるのは、ちょっとね。



話の腰を折らないでくれる?






かくれんぼが始まったらね、必ずミカが隠れる側になるから、全力で隠れるの。



ううん。絶対に探す側にはならないの。



違うの。インチキとかではないの。



そういう風にできてるの。



怪談に、ストーリー分岐は必要ないの。



話の腰を折らないでくれる?






かくれんぼが始まったら、ミカは全力で隠れなければいけないの。



見つかってしまったら、その場で殺されてしまうから。



ううん。探し続ける花子さんをほっといて帰宅してはいけないの。



それは、ただのイジメだよね。



ミカには昔からそういうとこあるけど、本当にいけないと思うよ。






えっ?



『でも、実際にかくれんぼの途中で帰ってきちゃったからしょうがない』?



ミ、ミカ……。



隠れられてない。



ぜんぜん隠れられてないよ。



だって。



今、あなたの後ろに立ってる、おかっぱ頭の女の子は……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



わたしはミカの後ろに立っている花子さんの顔面にフライングニーを放った。


「話の腰を折らないでくれる?」

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