吾輩は獅子である ~Most famous Lion~

この世界のどこかに、ドドリトル先生という人がいます。


ドドリトル先生は、とても優れた獣医なのです。

今日も彼のもとには、たくさんの動物たちが診察に訪れます。


先月は、大きなカバがやってきました。

「ドドリトル先生、歯が痛くて痛くてたまらないんだ」

「なるほど、虫歯だね。抜いてあげよう」

ドドリトル先生は見事な抜歯術でカバを治療しました。


先週は、弱りきったキジがやってきました。

「ドドリトル先生、全身が腫れて下痢がひどいんだ」

「鳥インフルエンザだね。ワクチンを打ってあげよう」

ドドリトル先生が注射をすると、キジはたちまち元気になりました。


数日前は、ちょっとググるのは推奨できない見た目のカタツムリがやってきました。

「ドドリトル先生、えげつないぐらい目玉が飛び出すんだ」

「ロイコクロリディウムに寄生されているね。緊急手術だ」

ドドリトル先生のオペは完璧で、カタツムリはググれる範囲の見た目に戻りました。


そして今日は、なんと百獣の王・ライオンがやってきました。

「ドドリトル先生はどこだ」

「はいはい、私です。今日はライオンさんですか。……ええと、前回の診断書はお持ちですかね?」

見覚えのあるライオンだったので、ドドリトル先生は訊ねます。

「前回? いや、初診であるが」

「おや、そうでしたか。失礼しました」

患者の顔を見間違えるとは、自分も老いたかな?

苦笑するドドリトル先生の内心など知らず、ライオンは訴えます。

「ドドリトル先生よ、聞いてくれ。この吾輩わがはいがいくら吠えても、人間たちがちっとも怖がらないのだ」

「人間があなたを怖がらない?」

どんな怪我や病気もたちどころに治療してきたドドリトル先生も、これには首を傾げました。

「そんな馬鹿な。ライオンと言えば恐ろしい野生動物の頂点でありシンボル。普通の人間なら怖がるに決まっています。失礼ながら、あなたの吠え方がよほど弱っちいとか間抜けだとか……」

「なんだと、吾輩を愚弄するか! ぐわああおぉ!!!」

「ひええ!」

ライオンの咆哮は見事なもので、さしものドドリトル先生も腰を抜かしました。

「いやあ、鼓膜が破れるかと思った。少しおしっこを漏らしました。それほど見事な咆哮を人間たちがちっとも怖がらないなんて、そんな馬鹿な……」

「しかし現に、怖がられないのだ。どいつもこいつも、雄々しく吠えたてる吾輩をまったく怖がることなく、ある者は笑い、ある者は真剣な表情で見ておる。大人も子供も誰も彼もが、呑気のんきに菓子なぞ食いながら……」

「ああ、なるほど。でしたか」

道理でライオンの顔に見覚えがあるわけだと、ドドリトル先生は腑に落ちました。

「残念ですが、さすがにそれは私にも治せませんな、世界一有名なライオンさん。何せ人間たちはみんな、あなたの咆哮の後で始まる映画をワクワクしながら待っているんですからね」

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