第115話 物語


 オルギアン帝国の帝都エルディシル



 ここでも呪いは蔓延し、黒く染まった肌に驚愕した人々が薬を求め医師を求め、あわや騒動になる寸前だった頃、一人の少女がその騒動を治めるべく、人々から呪いを無くしていった。


 国はこれ以上呪いを広げない為に、黒の石で結界を張るように帝都を囲み、黒くなった人々にも黒の石を装着させた。それにより、被害は少しずつ終息へと向かっていく。けれど、呪いに侵された人々の症状はそのままの状態だった。


 そうして幾日か経った頃、突然帝都から呪いが忽然と消えたのだ。


 それは帝都だけではなく、少しずつ広がっていっていた近隣の街にも、同じ様にして呪いが無くなっていて、人々はこの現象を奇跡と口々に言った。

 この現象から、これはある冒険者の成せる技だと結論付けられた。それ以外に考えられなかったからだ。


 帝都に現れた一人の少女


 その姿は天使のようにあどけなくも可憐で、黒龍のような漆黒の髪と瞳と翼を持っていた。

 

 少女は颯爽と現れ、人々から呪いを取り除き、それから翼をはためかせて去っていった。


 夢でも見ていたのかと思う程に、それは一瞬の如く僅かな時の間に起こったことで、人々はそれを幻想的な現象として捉えた。

 そして人々は、自分達を救ってくれたこの少女を、『黒龍の天使』と呼び、崇めるまでになった。


 そうやって帝都は、元あった姿へと戻っていったのだ。


 それから幾年かが過ぎ、あの呪いの恐怖は人々から忘れ去られていった。

 

 けれども人々は、この帝都を守った『黒龍の天使』を忘れる事は無かった。

 その象徴のように、帝都の中央の噴水のある広場には、ある像が建てられている。

 その像に触れると病気が治ると言われているのだ。


 優しく微笑む翼の生えた幼い少女像は、『黒龍の天使』と呼ばれており、帝都の守り神的な存在となっている。


 それにあやかるように、他国の大きな街等にはこの『黒龍の天使』の像が建てられはじめた。

 病から街を守る『黒龍の天使』の像は、今や世界各国で見られるようになっている。


 優しく穏やかに月日は流れていく。


 オルギアン帝国は今日も平和だ。


 けれど、それは守られているからこそであり、幾度となくこの国が脅威に晒された際、大事になる前に問題がなぜか突然解決する、と言う事が頻繁に起こっていたのだ。


 例えば皇女誘拐事件が起きた時。

 人員を確保し捜索隊を出動させようとした頃、フラリと皇女は帰って来たのだ。しかも、拘束された犯人と思われる者も出頭してくる。

 その時は派閥争いで起こった事件だったが、皇女は

「黒髪の優しい男の人に助けて貰った」

と、話していた。

 

 他にも、高ランクの魔物の被害が出た、と報告が上がった翌日には、その魔物が素材として売られたとの情報が入る。勿論既に高ランクの魔物は出現しなくなっている。


 どこでどう情報を掴むのか。それは分からないが、その冒険者が密かにオルギアン帝国を守ってくれているんだろうというのが簡単に予測できる。


 そして、それはオルギアン帝国だけには止まらなかった。


 他国でも何か問題があった時、すぐに解決するという現象が起きていた。

 よくよく調べてみると、その報告がある街には必ず『黒龍の天使』像があるのだ。


 その事から、人々は更に『黒龍の天使』が禍いをも払いのけてくれる幸運の像として、より一層崇められるまでになっていく……




 オルギアン帝国では、現在十人のSランク冒険者達がいる。誰もが他国のSランク冒険者とは比べものにならない程に実力は高く、有事の際にはその力を遺憾無く発揮している。

 Sランク冒険者の十人はその中でも一位から十位までランク付けされており、一年に一度、査定によりランクが変更される。


 そんな強者揃いのオルギアン帝国には、特別にSSランク冒険者という立場が設けられている。その強さから誰もが憧れ、敬われる存在である。

 しかし、今はその姿を見ることが叶う事はなく、その存在は伝説となりつつある。

 若年者や帝城に来たばかりの者には、その伝説は聞くのみの事柄であり、本当にこの世に存在するのかさえ疑わしいと思う程となっていた。


 けれどSSランク冒険者の功績は大きかった。

 大事件となる筈の事が事前に終息している事案が多く起こり、大事にも関わらずその手際の良さから、SSランク冒険者を知る人は誰もが言わずとも、これはあの方が治めた事だと理解できるのだ。


 そんな功績から、いやそうでなくともゾランはその報酬をきちんと支払っている。

 そして、そうしろと言われたわけではないけれど、インタラス国にある孤児院に毎月運営費を渡している。

 今その場所はカイルと言うこの孤児院出身の若者が引き継いでいて、順調に運営している。

 

 それはアクシタス国にある孤児を養っている村でも同じようにしていて、勿論これはSSランク冒険者であるエリアスに支払う筈の給金から支払っている。

 確証はないが、それ以上に余る程の仕事をしてくれているので、エリアスのギルドにある口座にも毎月入金をしている。

 この僅かな繋がりさえ、ゾランには嬉しい事だったのだ。


 

 そうやって時はやさしく流れていく



 『黒龍の天使』とオルギアン帝国のSSランク冒険者は、伝説として語り継がれていく。

 

 黒の石を異性に贈るのは告白する事という風潮になり、黒の色は幸運を運んでくれる色としてオルギアン帝国のみならず、他国へも広く伝えられていく。


 その昔、黒龍の加護に守られていたアーテノワ国にも『黒龍の天使』の像があり、その像を設置してから魔物の脅威が無くなったと喜ばれている。

 そして、アーテノワ国のみこの像を『黒龍の娘』と呼んだ。




 これはそんな、黒龍の子の物語



 人間であった、黒龍の子にまつわる物語

 

 




                  <完>




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