第105話 介入
エリアスさんからピンクの石で連絡があった。
どうやら遺跡では時間の感覚が狂うらしい。
その事でエリアスさんからリュカの事を頼まれた。
エリアスさんが気にしているのは、リュカに体力と生命力を補充できなくなるという事だ。補充しなくても、すぐにどうにかなる訳じゃない。けれど、そうするとリュカの持つ黒龍から奪った力が使われていく事になる。この事が今のリュカの生命線になっている。
エリアスさんは前に、リュカに補充している体力と生命力が足りているのかが分からない、と不安そうに言っていた。それを確認する術はない。リュカにもきっと分かっていない。だから、一日でも補充できなくなるのが凄く心配だって言っていた。
だから、僕にリュカの事を託したんだ。僕はリュカの事を龍の時から知っているし、リュカの置かれている状況も知っている。今住んでいる家の場所は特殊で、普通の人は近寄る事すらできない事も知っている。
それはあの場所は魔素が異様に多く、それに皆あてられるからだ。
けれどそれがリュカの命を救う一つとなっている。常に魔力を取り入れる事ができるようになっているあの場所が、普通の人には感覚が狂う程の状態になって、普通に歩くことも出来なくなるあの場所が、エリアスさんとリュカにとっては安らぎの場所となっている。
だから、もしエリアスさんが当分帰って来れないのだとしたら、リュカはなるべく家にいた方が良いのかも知れない。
そんな事を考えていると、仕事部屋にノックの音が響いた。
「ゾラン様、お呼びでしょうか?」
「あぁジルド、悪いね、呼び戻してしまって」
「いえ、お呼びとあればいつでも参ります。ゲルヴァイン王国の事でしょうか……?」
「流石だね。既に書状は送ってある。今から向かうところなんだ。動いてくれるかい?」
「勿論です。護衛の者はどうされますか?」
「そうだね、Sランク冒険者のギーゼルに頼もうかな。あと護衛以外に数人連れてくよ」
「承知致しました」
転送陣が使えるようになってから、各国へはすぐに向かうことができるようになった。これはオルギアン帝国が開発し、その技術を専有している。
今回、エリアスさんに頼まれて簡易転送陣を設置する事を許可した。僕は密かに、オルギアン帝国とゲルヴァイン王国を繋ぐ転送陣を設置してもらうように、エリアスさんについて行かせた兵士に言っている。
それにより、瞬時にゲルヴァイン王国へと向かうことが可能になった。
エリアスさんが遺跡に入って出てこない事を逃げ出したと思われたくないとエリアスさんは言っていて、今回はその事も踏まえて話をするつもりだ。
エリアスさんに聞いていたので、僕も同行する者達にも、黒の石を身に付けている。
そうやって転送した先はとある街。
そこは黒くなった人達がそこここにいて、動かなくなった人達は兵達に一つの場所へ集められていて、まだ動ける人達は簡易テントに集まって他の兵達に保護されていた。
聞いてはいたけれど実際目の当たりにすると、その状況は酷いとしか言い様がなかった。
思ったよりも亡くなった人が多くいて、その人達を運び出すのにも手間がかかっている。
動けなくてもまだ息がある人を見付ける為に兵達は街中をくまなく捜索していて、それはこの街だけではなく近隣の街や村へも同じように救助隊が慌ただしく動き回っている。
炊き出しもされており、そこに並ぶ人達も多いが、明らかに人員が足りていない。
ふと見ると、テントの横に置かれてあるテーブルセットに腰を掛けている身なりの良い者達がいて、何やら文句を言っていた。
「なぜ私がこんな所にいなければならないのか!」
「全くだ! これは兵達の仕事だろう?! 私達がいても何もならないではないか!」
「おい、食事はこんな物しかないのか! 食前酒が無いと食事はできぬぞ!」
「先程から呻き声やらがうるさいぞ! 黙らせるのだ!」
なんだ……この状態にあって、なぜそんな事が言えるんだ……
なぜ平然として、自分達のいつもの環境をここで要求するんだ……
これがこの国の官僚か。
こんな人間が官僚としてのさばっているこの国が、良い国な訳がない。
苛立つ気持ちを抑え、遅れて来たジルドと共に別の場所にある転送陣へ向かう。
その転送陣で着いた場所は村で、そこでもさっきの街と同じような状態で、兵達は呪いに侵された人々を救うべく働いていた。
そこに一人の子供がいた。
見るからに高級な衣装や装飾品に身を包むその少年は、辺りを見てオロオロしながらも手伝おうと兵士に歩み寄るが、
「大丈夫ですので休んでいてください」
と言われ、どうすれば良いか分からずに悔しそうに佇んでいた。
その少年に歩みより、挨拶をする事にする。
「初めてお目にかかります。私はオルギアン帝国のゾランと言う者です。今回の件を一任されている者ですが、シグリッド・カルステニウス国王陛下でいらっしゃいますか?」
「あ、う、うむ、そうだ、余がシグリッド・カルステニウスだ。」
「書状を送らせて頂きましたが、お返事を頂きませんでしたので、こうやって直接伺わせて頂きたく参りました。」
「しょ、書状とな……」
「はい。今回、私共のSランク冒険者のリーダーであるエリアスが遺跡に調査へ向かっておる件でございます。それに加え、貸し出している簡易転送陣と兵士についてですが……」
「そ、そうなのだな……エリアス殿は、その、遺跡に入ってから何の連絡もなくもう三日経つ事から、他の者が逃げ出したと申しておったのだ。……やはりそうなのか……?」
「いえいえ、我が帝国の誇るSランク冒険者のリーダーであるエリアスが逃げ出す等有り得る筈がございません。エリアスから連絡がありまして、遺跡には何らかの術がかけられてあり、すぐに出る事は出来ないと申しておりました。それでもエリアスは、呪いを解くべく身を投じてただ一人、あの遺跡に立ち向かっているのです」
「やはりそうであったか! いや、余もそうだと思っておったのだ! エリアス殿が逃げ帰る等とある筈がないと……!」
「陛下……エリアスを分かってくださり、ありがとうございます」
「う、うむ! 余はエリアス殿……いや、エリアスと友達になったのだ! 友を信じない等、あってはならぬ事であろう?!」
「えぇ。もちろんそうです。エリアスは信用に足る男でございます。私もエリアスとは友人だと思って付き合っております」
「そうか! そうなのだな! エリアスは私に上辺だけを言う者とは違うのだ! エリアスの言うように余は自分で考えて行動をしようとして……それで……」
「陛下のそのお気持ちは素晴らしい事でございます。なれど、陛下がなさる事は別の事でございます」
「え……そ、それは、何なのだ? 余は少しでも国民を助けたい思いでこうしてここにいるのだぞ!」
「人にはその役割がございます。兵達はここで人々を救うべく動く事が役割でございます。しかし、陛下がここにいても役には立ちません」
「ではどうすれば……!」
「まずはもっと人員が必要です。明らかに人手不足です。それに物資も足りておりません。その手配を迅速にさせる必要があります。」
「そうであるな! しかし……兵隊はこれ以上動かせないと騎士団長や兵隊長に言われてしまったのだ……こうしている間に攻め込まれでもしたらどうするのかと言われて……」
「自国の国民がこんな状態であるのにですか……では今、この事に割いている兵士は全体の如何程なのでしょうか?」
「それ、は……恐らく……一割程だと……」
「このように著しく困窮している状態であるのに、一割程とは……陛下はそれで納得されていらっしゃるのですか?」
「納得等してはいない! だが……!」
「であれば、我が国がお力添え致しましょう。エリアスは私の友人でございます。友人の友人もまた、友人でございましょう?」
「しかしそれでは……」
「今、早急に必要な事は何か、陛下はお分かりの筈です。貴方は一国の王なのです。今その力を使わなくてどうするのです?!」
「……っ! ……そなたはエリアスと同じことを言うのだな……」
「勿論です。友人ならばこそでございます」
「相分かった! ではゾラン! 余に力を貸して貰えぬか?!」
「仰せのままに……!」
幼き王を王として育てようともせず、自分に有利になるように言いくるめてきたこの国は、このままでは廃退していくのが目に見えている。上層部はそれが分からないのだろうか。本気で分からないのであれば、それはただの馬鹿だ。
ジルドを呼び出し指示をしていく。ジルドはすぐに動き出す。
暫くしてゲルヴァイン王国に設置した転送陣からは、オルギアン帝国の兵装をした兵達が続々と現れる。
元いたオルギアン帝国の兵達に各現場へと案内させ、迅速に動いて行く。
元よりこのような有事の対応には慣れている我が国の兵達は、迅速に動き成果をあげていく。
この動きに戸惑ったのは、管を巻いていた官僚達だった。明らかに他国と思われる兵達が自分たちに親身になって助けてくれる。人々は記憶する。助けてくれたのは他国の兵達であると。燃え立つ炎のように赤い国旗の色の、その帝国の兵達の優しさを。
官僚共は国王に詰め寄るが、それをイェスベル侯爵が制していく。イェスベル侯爵と交渉したのはジルドだ。やはり上手く話をつけてくれたようだ。
さぁ、この国に介入させて貰うとするか。
タダほど怖いものはないんだからね?
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