第98話 苛立ち


 リュカに一人で寝ると言われて、俺は仕方なく一人で寝室で眠ることにした。


 これがリオとの仲を喜んでやれなかった俺への罰か。リュカはそうしようと思った訳じゃねぇとは思うけど、結果的にそういう事なんだろう。


 どんな攻撃をされるよりも、これが一番精神的にヤられるな……

 当分立ち直れそうにねぇ……


 寝室にあるベッドは一人じゃ大きくて、横にゴロゴロ転がっていってもまだスペースがある。

 ベッドの端まで転げていって、また同じようにしてゴロゴロ転がって元の位置に戻ってくる。って、なにやってんだ、俺。

 こんな事したら余計に虚しくなるだけじゃねぇか……


 いつも傍にあった小さくて温かい感触が無くて、すっげぇ虚無感に襲われる。

 やべぇ……どうやってリュカの成長期を乗り越えていけばいいのか分かんねぇ……!


 その夜は色々考えてしまってなかなか寝付けずにいて、ついいつもよりも起きるのが遅くなってしまった。


 目に優しい陽射しが届くけど、まだ起きたくなくてそのまま目を閉じていたら、温かい感触が傍にあるのに気づいた。

 無意識にそれを抱きしめて、顔にかかるサラサラとした髪の心地よさに、思わず頬を擦るようにスリスリしてしまう。

 

 その時、なんかゾワゾワした嫌な感触を感じる……


 なんだこれ……

 

 これは昨日の……あの呪いの感覚に似た……


 なんでそれを今感じる?

 いや、その夢でも見てたか? ここで呪いを感じるなんてあるわけがない……


 ゆっくりと目を覚ますと、そこにはリュカがいた。思わずガバッて起き上がって見てしまう!


 

「リュカ?!」


「ん……あ……エリアス……あれ?!」


「なんでここにいるんだ? あ、いや、いてくれて嬉しいけどっ!」


「あれ? なんで、かな? その……ごめんなさい……」


「いや、謝るな! 何も悪くねぇから! ってか、良かった!」


「え? 良かった?」


「俺、リュカに嫌われてねぇって事だよな?」


「嫌いになんかなるわけないよ! そんなんじゃない!」


「そっか! なら良いんだ! ……良かった……」


「エリアス……」


「やべ、もう起きなきゃなんねぇ!」


「あ、うん、そうだね!」



 すぐに起きて朝食の用意をする。さっきの呪いの感触は気のせいだろう。夢でも見てたんだろうな。それほど、あの呪いの効果は酷ぇもんだった。自分が思ってるより精神的に堪えてたかも知んねぇ。


 簡単に朝食を作って大急ぎで食べて、後片付けをリュカに任せて出て行くことにする。

 出て行く前に、昨日寝る前に出来なかった体力やらの補充をリュカにしておく。

 一日二日でどうにかなる訳でもねぇけど、そこはやっぱり気になるからな。

 しっかり目を見ていつものように補充していく。よし、これで大丈夫だ!



「リュカ、すまねぇな、慌ただしくて! 今日は大丈夫か?! 帝城へ行けるか?!」


「うん! 大丈夫だよ!」


「そっか! なんかあったらすぐ連絡しろな? じゃ、行ってくる!」


「うん、いってらっしゃい! ……あ、エリアス」


「ん? どうした?」


「……ううん……何でもない……その……今日も頑張ってね!」


「あぁ! じゃな!」



 何か言いたげなリュカの事が気になったけど、また帰ってから聞く事にするか。


 外に出て少し歩いたところで後ろを振り返ると、リュカが微笑んで手を振っていた。

 俺も同じように笑って手を振った。


 やっぱリュカは可愛いな。

 最高だな!


 見送って貰ってる中で、空間移動でまずは大商人マルティンの元へ行く。昨日ゾランからマルティンなら黒の石は、ある程度調達する事が可能だと知らされたからだ。流石だ。

 ウルとラリサ王妃は、時間があれば採取は可能だと言ってくれたらしいが、今は急を要するので、まずはマルティンに用立てて貰う。

 どれくらい必要かまだ分からねぇから、ウルとラリサ王妃にも引き続き動いて貰うことにする。


 マルティンも忙しいらしく、俺が受け取れるのは朝の早い時間じゃなきゃ無理だったんだ。

 俺との取引を尊重してくれてるから、他の者には任せたくないとの事だった。

 何とか指定の時間に間に合って、取引を終える。思ったより多く手に入れる事ができた。俺に手渡すギリギリまで探して集めてくれていたみたいだ。有難てぇ。

 もちろん代金はちゃんとゲルヴァイン王国に請求する。そこまで面倒みれねぇからな。 


 購入した石を持ってゲルヴァイン王国の王都にある王城までやって来た。

 門を通ると面倒過ぎるから、今日はイェスベルの元まで空間移動でやってきた。

 俺がいきなり目の前に現れたからか、イェスベルはすっげぇ驚いていた。


 

「な、なぜ急に! 貴殿はなぜそんな事がっ!」


「まぁ、俺はそういう事が出来んだよ。門番通すとまた長く時間掛かるだろ?」


「そうだが……昨日も急に王の目の前からいなくなったから、皆が凄く驚いておった。そうできるのに、今まで順だってここまで来てくれていたのだな」


「まぁな。で、どうだ?黒の石は集まったのか?」


「うむ。なるべく多く集めたつもりだ」


「俺も集めてきたぜ。鉱石のままの物から加工されて身につけられる物まで」


「こんなに集められたのか……!」


「まだ増やせると思うぜ。すぐにこれを身につけた救助隊を派遣してくれ。鉱石のままの物は結界として使えば良いんじゃねぇかな」


「そうだな。だが、遺跡近くまで行くのに馬で急いだとしても三日はかかる。まずは先発隊として早馬を使い行かせ、後発隊では私も向かうことにしよう」


「三日なんてかけてらんねぇよ。で、後発隊でアンタが来るってのは……」


「昨日この事を貴族や官僚達にも伝えたのだ。しかし、簡単に信じようとはせず……ならば現場を見よと申したのだが、遠出するのに用意が必要だと言われてしまったのだ。その貴族達を引率するのに私が動向するのだが……」


「そんな悠長にしてる暇なんかねぇぞ?! 旅行に行くんじゃねぇんだからな! ここには簡易転送陣はねぇのか?!」


「転送陣……?」


「ったく! 他国と交流しねぇから遅れを取るんだろうが! 簡易転送陣は俺が用意すっから! アンタはとにかく救助隊をなるべく多く集めてくれ! それと、ぬるい考えの貴族共のケツでも叩いてやるんだな!」


「わ、分かった!」


「いい加減この国の危機だって分かれって言うんだよ!」



 なんだよ! もっと切羽詰まった感じで対応しねぇといけねぇだろ!

 自国の民が意味もなく死んでいってんだぞ?! 少しでも長引けば、それはもっと拡大して行くんだぞ?!

 そんな事は自分達には関係ねぇってか?!

 あの状況を見てから言いやがれってんだ!


 オルギアン帝国まで戻り、ゾランに簡易転送陣を用意させる。

 それには流石にゾランが難色を示したが、転送陣を使った後、展開されている魔法陣の情報を記憶から消すという事を条件に何とか許可を得た。

 同盟国でもなく、ましてや友好も結んでいない国に、みすみすこちらの情報のみを渡すわけにはいかなかったからだ。


 転送陣を展開させるのに、オルギアン帝国から使い慣れている兵士を何人か連れて行く事にする。もちろん黒の石をキチンと装着させてだ。

 

 すぐに兵達を連れてゲルヴァイン王国に戻る。

 イェスベルは、また俺が突然現れて、今度は俺だけじゃなくて六人の兵士がいる事にも驚いていた。



「救助隊は集まったか?」


「い、今召集をかけていてな、じきに出発できる筈だ」


「遅ぇな! 迅速に対応すべき事だぞ?! こんな時まで手続きやら官僚の機嫌やら伺ってる場合じゃねぇ事くれぇ、分かるだろ! この少しの遅れが他国との争いの場合大きく作用すんだぞ?!」


「う、うむ、そうだな……!」



 こういう緊急事態に慣れてねぇんだろうな。分かるけど、だからと言っていつもと同じような対応じゃダメなんだ。それを分からせねぇといけねぇ。

 ったく、どこまで面倒見させるつもりなんだよ!


 集まった救助隊は二十人程だった。もっと集めて貰うように言って、先にこの人数で遺跡近くの村へ送り込む。

 俺も一緒に行って、現状を見させて状況を伝え、まだ生きている人達を集めるように言う。

 

 皮膚が黒くなった人に黒の石を装着させるけど、黒くなった所が治る事はなかった。ただ、それ以上広がる事はなく、呪いの進行を止める事はできた。

 ひとまず止められるということが分かって安心した。

 

 他の街や村にも行って、同じようにして進行を食い止める。呪いが何処まで広がっているのも確認して、境界線を探って加工されていない黒の石を置いていく。


 まだ石が足んねぇな。それと人員もだ。

 何度も城と現場を行き来して、これ以上広げないように迅速に対応していく。


 最初は俺の言うことを素直に聞こうとしなかったゲルヴァイン王国の兵士達だったが、黒くなった人達を見て現状を把握して、その上で俺がどう動けば良いか詳しく指示していくから、反発していた奴等も次第に協力的になっていった。  

 こんな時にいがみ合ってる場合じゃねぇからな。


 どうしていくかが分かってからは、各自動いてくれるようになったから、次にこの現状を知って貰う為に官僚達を連れてくる事にする。


 素直に来るかどうか分かんねぇけど、とにかく現場を見せなきゃ話になんねぇからな。


 出来れば王も連れてきてやりてぇ。

 幼くても一国の王だ。アイツだけ蚊帳の外ってのはダメだ。キツくても、ちゃんと目で見て把握して貰った方がいい。


 さぁ、一番ややこしい作業に取り掛かるとするか。


 

 

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