第93話 幼き王


 翌朝、リュカの調子は良さそうだった。


 食欲もあったし、俺への対応も普通な感じだ。けど、今日も家でゆっくりしたいって言う。俺が色々言ったから、リオと会いづらいと思ってるのかも知んねぇ。これから言動にもっと気をつけなきゃいけねぇな。


 俺も休もうか?って聞くけど、大丈夫だよって笑顔で返された。その笑顔を信じて、何かあればすぐに連絡を入れるように言って、俺はゲルヴァイン王国までやって来た。


 昨日と同じように、あちこちへ誘導されて待たされて、何だったら質疑応答とかもされた。なんか、昨日よりもガードが固くなっているな。昨日のパトリクって奴の対応のせいか、俺への風当たりが強くなってる気がする。


 けど、俺は誰に対しても態度は基本的には変えねぇ。それが他国の王であってもだ。無礼だと言うなら、俺の力なんか借りなきゃ良い。でなくてもやることは山ほどあんだからな。


 かと言って、喧嘩をするつもりもねぇ。俺は極めて平和主義だ。と自負している。

 なるべくなら争いは無い方が良い。それは個人的なことから国単位にしてもだ。 

 

 だからこの国の王と話がしたい。昨日軽く見ただけだが、この貧富の差が酷すぎる情勢で問題はないと思っているのか。他国と友好を築く気はあるのか。どう考えて国を動かしているのか。それを聞きたい。

 いや、聞かなくてもいい。俺が読み取れば良いからな。

 さて、王と会わせて貰えるのかどうなのか……


 何回か部屋を巡って待たされて、その度に担当者が変わって質疑応答を受けて、温和な俺でもそろそろイライラが態度に出そうになった頃、昨日会ったイェスベル侯爵と会うことができた。

 


「ったく、ここに来るまで何人も会わすとか、いい加減疲れんだけど。どうにかなんねぇのか?」


「申し訳ない。侵入者を防ぐ為に必要なのだ。簡単に通してしまうと、何かあった際そこの担当者の責任となってしまうのでな。」


「面倒な国だな。で? どうだ? 俺は王と会えんのか?」


「うむ。面会の許可が下りた。貴殿をこれから王に会わす予定でいる。」


「お?! 思ったより早かったな。良かったぜ。早めに対処した方が良いからな。」


「何をだ?」


「それは王に会ってから話すよ。じゃ、着替えるか。」


「着替え?」


「流石にこのままの格好じゃ具合が悪いだろ?一国の王と会うんだ。それぐらいの配慮はするぜ?」


「そう、か。では部屋を用意しよう。」


「構わねぇぜ?ここでも。」


「ここで?」



 こういう事もあろうかと、Sランク冒険者の正装を持ってきていて良かった。

 

 透明化して見えなくしてから、空間収納から服を取り出し倍速で着替えを済ます。風を自在に操れるようになったら、行動も速くできるようになった。

 脱いだ服はちゃんと正座して皺も伸ばして綺麗に畳んで、空間収納に片付けてから姿見を取り出して全身のチェックをして、髪型も櫛でキチンと整え、姿見やらを片付ける。こういう時にキチンとしておかねぇと、アシュリーに怒られてたからな。

 因みに武器は事前に収納しておいた。また預かるとか言われると面倒だったからだ。


 準備が終わったところで透明化を解くと、凄く驚いた顔をしたイェスベルがいた。



「な、なんだ?! 姿が消えたと思ったら一瞬でそのような状態に……! 何をしたのだ?!」


「着替えただけだ。これで問題ねぇだろ?」


「問題は……ない……しかし、なんという……」


「倍速で動いただけだ。じゃあ案内して貰えるか?」


「う、うむ……」



 イェスベルの後ろについていた従者達も驚いた様子で俺を見ていた。別の部屋で着替えとかしてたら、また時間がかかるからな。

 案内をするイェスベルの後ろをついて行く。

 勿論、俺の周りには護衛の騎士達が何人もいて俺を囲っている。俺が何かしようものなら、即座に殺しにかかってくるだろう。まぁ、俺は簡単には死なないけどな。勿論何もする気はねぇぞ?なんたって俺は平和主義だからな。


 大きな扉の前まで来て従者は扉をゆっくりと開ける。そこには玉座に鎮座している国王と思われる人物がいた。

 周りには貴族やらがいっぱいいて、重々しい雰囲気が醸し出されている。


 ゆっくり近づくと、皆、王に一斉にひざまずく。その中で一人、俺だけが何もしないまま立ち尽くしていた。

 

 その様子を見た奴等は、俺の行動を窘めようとして動こうとするが、王はそれを手を軽く上げて制止する。


 ゲルヴァイン王国の国王……


 それは成人も済んでいない、よわい12の子供だった。



「貴殿がオルギアン帝国の使者、エリアスと申す者か。」


「そうだ。俺はオルギアン帝国Sランク冒険者のリーダーを務めるエリアスだ。」


「貴殿がそうか。余は国王、シグリッド・カルステニウスだ。貴殿は余と会いたいと申したそうだが、何か知りたい事でもあったのか。」


「そうだな。知りたい事は色々ある。けど、話しても無駄な事が分かった。」


「貴様っ! 我が王に対してなんという口の聞き方か!」


「よい。控えよ。余はその者と話したいのだ。下がるがよい。」


「……はっ!」


「話しても無駄とは、どういうことか。」


「アンタ、政治に関わってねぇだろ? 俺が聞きたかったのは、この国の国民の生活をどこまで把握してるのか、他国と友好を築く意思はあるのか、と言うことだ。それに対して答えられるのか?」


「ある程度は把握しているつもりだ。他国とは友好にする必要はないと考えておる。」


「それはアンタの意思か?」


「それは……」


「周りに決められた事を決行しているだけだったら、アンタと話しても意味はねぇ。決定権があるように見えて、アンタは何も決めらんねぇからな。」


「…………」


「まだ子供だ。仕方ねぇ。けど、国民は仕方ねぇで済まない事態になってるよ。でもな、最もらしい事を言われて良いように使われてる状態のアンタに、俺が何を言っても無駄だって思うのは分かるよな?」


「貴様っ!捨て置けぬぞっ!!」


「下がれと言っておる!!」


「しかし王よ!」


「現状を知る必要があるぜ? このままじゃそのうち破綻するぞ? ……前国王は……暗殺されたか。王妃も病死に見せかけて……毒殺だな。優秀な兄がいたのか……そいつも暗殺されてんな。キツネ狩りに行って……あぁ、横にいるソイツに殺されてるぞ。魔物に襲われた、とか言ってたみたいだけどな。それでアンタが即位する事になった。それが……二年程前か。」


「な、なぜそれを!!」


「王よ!あの者の言うこと等聞いてはいけません!たばかろうとしているのです!」


「そうです!事前に調べて弱味に漬け込むつもりでいるのです!騙されてはなりませぬ!」


「控えよと申しておる!余はこの者と話をしているのだ!邪魔をするでない!」


「……っ!」


「俺を信用するかどうかはアンタに任せる。王都の周りはきらびやかだったぜ? 生活も安定していてな。けど王都から離れて行くと、人々の暮らしは悲惨なもんだったよ。食べるものもままならないボロボロの状態だ。こんな現状、アンタは知ってたのか?」


「……いや……」


「知らないじゃ済まされねぇぞ? 王様だろ? アンタ、この国で一番偉いんだろ? 違うのか?」


「違わない……余は……王だ……」  


「右手の中指につけてる指輪はアンタの母親の形見だろ? その紫の石は人々を良い方向へ導く石なんだろ? そう言われてその指輪を託されたんじゃねぇのか?」


「なぜそれを……!」


「自分に心地良い言葉ばかり言う奴が良い奴とは限らねぇからな。まぁ、オルギアン帝国と友好を築きたくなったら言ってくれよ。俺なら呼べばいつでも来てやるしな。あ、いつでもは無理か。これでも俺、忙しいからな。」


「…………」


「じゃ、俺は調査に言ってくる。早めに片付けておいた方が良さそうだからな。」


「行ってくれるのか?!」


「あぁ。王と会わせて貰うのが条件だったからな。それに、あの場所を放っておいたらやべぇ事になりそうだらな。」


「それはどういう……」


「遺跡近辺の街や村の様子がおかしい。伝染病か呪いかが広がってる。それも踏まえて調査すっけどな。またイェスベル侯爵を通して報告するよ。あ、直接話をしてもいいしな。今度はこんな大勢じゃない方がいいけどな。じゃな!」



 怒り狂ったような顔をして俺を睨んでいる奴等があちこちにいて、イェスベル侯爵は困惑した状態でその場にいる。

 なんかややこしくなりそうだったから、その場から空間移動で姿を消して、昨日見た黒くなってしまった人がいる村へ行く。


 しかし、堅苦しいのはやっぱ性に合わねぇな。すぐに正装からいつもの冒険者としての服装に着替える。


 まだ幼い子供を王に祭り上げて、右も左も分からない王を操って行政を進めている。これがこの国の現状だ。

 ったく、やりたい放題じゃねぇか。

 王の周りにいた奴等は好きなように国費を使いまくってんな。

 税も絞り取れるだけ絞り取って、上層部だけが良い思いをしている。


 王には、魔物がいるからと遠出はさせず、王都に近い街を見させて安心させている。

 この国マジでやべぇぞ? 


 けどまぁ、ひとまず俺は、王に会ったって事で依頼を受けようと思う。リュカとそう変わらない子供の王。そのまま放っておくって、なかなか出来ねぇよな。


 さ、村の様子を見てから遺跡に行って調査してくるか!


 

 

 


 

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