第73話 困惑
リュカが現れたのは、俺が兵舎の訓練所で話をしていた時だった。
昨日の事で皆に頭を下げて謝ったら、畏れ多いと恐縮された。皆が口々に、「あの時は凄かったです!」とか、「流石です!」「尊敬致します」なんて事を言ってくれる。皆の気持ちに嘘はねぇ。けど、俺への恐怖心はまだあって、それを何とか出さないように我慢してくれてんのが分かる。きっとゾランが皆に俺の事を言ってくれてたんだろう。
けど良かった。これからも共に戦うかも知れないコイツ等と、こうやって笑って話し合う仲でいとかねぇと、いざという時に連携が取れなくなるからな。
そう思って、話しを済ませて立ち去ろうとしていた時だった。
目の前が歪みだし、リュカが現れたのは。
その姿に一瞬戸惑ってしまう。黒龍となったリュカは俺より1メートル程高く、黒い鱗に覆われたその姿は、前の時より大きく立派になっていた。そして黒龍になったリュカは、目から涙を流していた。
「なんだ?!……リュカ……なのか……?」
「……エリアス……私……」
なんでだ?!なんで黒龍になったんだ?!何があった?!
いや、それよりもまずこの場をおさめねぇと!
リュカの姿に驚いた兵達が攻撃体制に入る。それを止めさせるべく、俺は皆に幻術をかけた。兵達は一瞬で自分が心地いいと思う場所へと脳内で場面が切り替わったのだ。それには戸惑いもあっただろうが、暫くはそのまま動かずにいてくれるだろう。
黒龍の姿のリュカに触れて、すぐにニレの木まで飛んでいく。まだ涙が止まらないリュカは、俺を見下ろして動揺した感じでいる。落ち着くように言って、人間に戻れるように強く思うように伝えると、目を閉じて何度も深呼吸をする。
そうしていると、リュカは小さくなっていって、人間の姿に変わっていった。
良かった……
膝を折ってリュカを抱き寄せる。自分の力に戸惑い、リュカはその能力を怖いと思っている。気持ちが鎮まるように、何度も背中を撫で続ける。すると、そのままリュカはまた眠りに落ちた。
朝と同じようにニレの木にもたれ掛かり、リュカを抱きかかえて暫くそのままでいる。
さて、どうするか……まだ能力に目覚めたばかりだ。だから自分の力を上手く使いこなせねぇのは分かる。けど、いきなり黒龍の姿なっちまうのは困るな……朝みてぇに魔法が暴走すんのも困るけど、まだ何とか修正はきく。けど、今日みたいな事がまた起これば、リュカが嫌な思いをする。
俺が記憶を消す事はできる。けれど、なるべくならリュカの記憶は消したくねぇ。じゃねぇと、いつまでたっても力を使いこなせる様にはならないからだ。失敗した結果を覚えておかないと、今度は失敗しねぇように改善しようと努力しなくなる。だから失敗は必要だ。けど、この事を覚えているって事は、リュカに悲しい記憶が残るって事だ。
出来るだけ悲しい記憶は無くしてやりてぇ。そんな事は経験させたくねぇ。だけど、経験しねぇと出来ない事があるし、教訓を得ることも出来ない時がある。
人を育てるって難しいよな……
大切に思う人であればある程だ。
ひとまずゾランに連絡を入れることにする。ピンクの石を握ってゾランを思うと、少ししてゾランの声が響く。
『エリアスさん、どうされましたか?』
「今、俺はリュカと一緒にいる。」
『え?あれ?今日はリオと勉強しているんじゃなかったんですか?』
「何が原因でそうなったか分からねぇんだけどな、リュカが黒龍の姿になって俺の前に表れたんだ。」
『黒龍に?!なぜそんな……あ、エリアスさんも分からなかったんでしたね……』
「あぁ。その時俺は兵舎にいて、突然表れた龍に兵達が驚いてな。何も分からねぇからリュカに攻撃しようとしたのを慌てて止めたんだけど、その時に皆に幻術を放ってしまってな。」
『えっ!?幻術って、恐怖に思うものが見えるとか言う……?!』
「あ、いや、流石にそれはしてねぇって。今頃アイツ等は幸せに感じる場所にいる筈だから。頭の中だけな。ただ、このままじゃ使いモンにならねぇ。早く戻って元通りにしてぇんだけど、リュカが今また眠ってしまってな。一人にすんのがちょっと……な……」
『そうですね……ひとまず兵達は置いておきましょう。実害がない訳ですから、急ぐ必要はありませんよ。僕はなぜリュカがそうなったのかを調べます。』
「いつも悪いな。俺たちの事で……」
『もちろん見返りは期待してますから!また連絡します!』
何があったのか。勉強してたのに、か?
けど、龍になろうと思ってなった訳じゃなさそうだ。じゃねぇとリュカは泣かないだろうし、昨日の事があったのに、突然空間移動で俺の元まで来ないだろう。
龍になった事で、一番困惑したのはリュカだろう。命を長らえる為にフレースヴェルグを倒すことはする。けど、その力をもて余しているリュカに、制御の方法をどう伝えたら良いのか……まだリュカの力の全ては分かってねぇ。何処までの力を持ってるのかが分からねぇ。分からないのに教える事とか出来んのか?いや、してかなきゃなんねぇんだろうけどな。
眠っているリュカの頬を撫でて、涙の跡を拭う。もう嫌な思いとか、辛い、悲しい思いをさせたくねぇ。俺がそういうのを全部取り払って、リュカには悩みとかなく、いつも笑ってられるようにしてやりてぇ。
けど、それじゃリュカが成長しねぇ。親ってのは、子供が大きくなって独り立ちできるようにさせる為のサポートをする役割をするんだって思ってる。だから親が成長する機会を奪っちゃいけねぇ。
分かってる。だけど、リュカに降りかかる事は普通の事じゃねぇ。その年にしちゃ過酷な事ばかりだ。だから困る。俺も同じように……いや、それ以上に苦しくなる。
リュカを見ると切ない気持ちになる。まだこんなに幼い。多分リュカは9歳になった位だろう。なのにもう能力に目覚めて、その力が強すぎて制御できなくて……
少しでも俺がリュカの重荷を取ってやりてぇって思うけど……
「あ、れ……?」
「リュカ、大丈夫か?何ともないか?」
「あ、うん……あ、そうか……私、龍になっちゃったんだ……」
「そうだな。疲れてねぇか?腹減ってねぇか?」
「んっと、お腹空いた。」
「ハハ、だろうな。帝城に戻るか?」
「……戻って……良いの?」
「もちろんだ。でも、何があった?」
「お父さんを……ズタズタに切り裂いた魔物が、ね?ヴリトラって魔物だったの……先生に魔物の事を教えて貰ってて、それで……」
「そっか……分かった。もう言わなくていいからな。色々思い出しちゃったんだな。」
「うん……そしたら勝手に龍になって……どうしよう……リオにバレたかもしれない……私、リオと友達でいられなくなっちゃう!」
「大丈夫だ。リオはゾランの息子だ。だから大丈夫だ。」
「でもーー」
「きっと大丈夫だから。な?」
「怖い……リオに会うの、怖いよ……エリアス!私、どうしたら……!」
「分かった、分かったから……じゃあ、俺の部屋に一旦帰ろう?そこで俺と一緒に飯を食おう。これからの事はそれから考えよう。な?」
「うん……うん……」
リュカを抱き上げて、帝城の部屋へ戻る。リュカをソファーに座らせて、俺は一人で給仕の元へ行って昼食を部屋に用意してもらうよう頼み、それからゾランの元へ行く。
ゾランは自室に戻っていて、そこにはミーシャとリオがいた。
「あ、エリアスさん!リュカは大丈夫ですか?!」
「あぁ、大丈夫だ。その、リオは……リュカの事はどこまで……」
「ごめんなさい!あの、僕がリュカに魔法を使って欲しいって言ったんです!リュカは使いたくないって言ったのに、断られて僕、その……ちょっと怒っちゃったって言うか……あ、でも本当に怒ったとかじゃなくて、何だか羨ましくなって……だからそれでリュカの機嫌が悪くなっちゃって……!」
「そうなの、か?」
「エリアスさん、僕もリオには注意をしておきました。本当に申し訳ありません。」
「あ、いや、そうじゃ……な……」
「リュカは僕の事、許してくれるかな……」
「あ、あぁ、そうだな、リュカは怒ってるとかじゃねぇから。また仲良くしてやってくれな?」
「はい!もちろんです!」
どうやらリオはリュカが龍に変わった事に気づいてなかった様だ。良かった。
ゾランに目配せをして、別の部屋へ二人で入る。
「すみません、エリアスさん。リオがリュカに……」
「あ、いや、そうじゃねぇ。先生に魔物の事を教えて貰ったって言ってて、父親の黒龍をズタズタに切り裂いた魔物の正体が分かったらしいんだ。」
「え?そうだったんですか?」
「その時の事を思い出して、まだ能力の制御が出来ねぇリュカは龍になっちまったと思う。」
「そうでしたか……あ、でもリオにももっとキチンと言っておきます。」
「すまねぇな。リュカはリオに龍の姿を見られたと思ったみたいで、もう友達じゃいられないってビビって、だからリオと会うのが怖いらしいんだ。龍になるってのは伏せて貰ってもいいけど、どんなリュカでも友達でいてやって欲しいって思うな……」
「もちろんですよ!リオにとってリュカは大切な友達ですから!」
「ありがとな。」
龍の事はバレてねぇみたいで良かった。それからすぐに部屋へ戻って、リュカと飯を食う。やっぱり食欲はすごくて、すっげぇバクバク食ってた。
リオの事を話すとリュカは安堵の表情を浮かべて、何度も「良かった……本当に良かった……」って言って涙ぐんでいた。
今回は大事にはならなかった。けど、次はどうかは分かんねぇ。今はなるべくリュカのそばにいてやりてぇ。リュカは何も言わないけど、すっげぇ不安な筈だ。
その後リュカはまた眠くなったみたいで、昼食後に眠ってしまった。まだ体がその能力についていけてないんだろう。慣れるまで、リオと会わせるのも止めといた方が良いかも知んねぇ。
今後の事を踏まえて、またゾランと話しをしに行くか。
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