第46話 想定外


 午前中はリュカに魔物を抑えるように動いて貰った。


 これでベリナリス国は暫くは安泰だ。この効果がいつまで続くかは分かんねぇけど、それは定期的に確認しに来る事でどうにかできるだろう。


 そうしてから、ニレの木の元へ行って、そこで持たせて貰ったサンドイッチやらを二人で食べる。このニレの木は、深い森の奥の小高い丘の上にあって、一際大きく一本だけそこに佇んでいる。俺もリュカも、この場所が気に入っている。


 リュカの魔力を供給すんのに、この場所を買い取って家でも建てるか……ってか、誰が売ってくれんだ?勝手にここに住んでも問題なさそうな感じはするな。今は帝城に暮らしてる感じだけど、仮住まいみたいなもんだ。ここなら滅多な事では誰も近寄れねぇし、勿論魔物もそうだ。よし、そうしよう!二人で住む家を、リュカが気に入る家を建てよう!ならもっと頑張って働いて稼がなきゃな!


 食い終わってからリュカを帝城に送り届ける。別れる時に、リュカにピンクの石のついた首飾りを手渡された。昨日ゾランにプレゼントとして貰ったらしい。これは希少でなかなか手に入らない魔道具だ。ゾラン、奮発してくれたんだな。後で礼でも言っておくか。


 リュカにも礼を言って、使い方を教える。話したい人を思って石を握ると、相手の石が光るようになっている。光った石を相手も握れば、それで会話ができるようになる。声に出さなくても会話ができるから、聞かれたくない話でも大丈夫だ。そう言ってリュカの首につけてあげると、リュカも俺の首につけてくれた。これで俺も安心するし、リュカの気持ちも落ち着いてくれるかな。


 午後からは一人でシアレパス国へ行って、フレースヴェルグの事を聞きまわる。行商人の男は今別の街へ行ってるらしいので、その街まで走って行く。街に着いて、行商人を見つけて話を聞く。ついでにその街でもフレースヴェルグの事を聞いてまわる。やはり、土砂災害のあった場所にフレースヴェルグは現れたみたいで、被害者の死体を貪り喰らっていたとの情報を得た。やっぱりそうだったんだな。


 その後、北の方へ飛んで行ったとの話を聞き、元は北の方に住む魔物だと聞いていた事もあって、俺も北にある街へと行くことにした。行ったことのない場所だから、そこまで行かなきゃなんねぇけど、まず移動だけで時間がかかる。場所さえ分かれば、空間移動でやってくる事ができるけどな。転送陣は大きな街なんかに設置されてる事が多いから、辺境の地に行くにはこうやって地道に進んで行くしかねぇ。急ぎたい時なんかはこういう事が歯痒く感じるけど、それでも俺は空間移動できるだけマシなんだろうな。


 北へと進んで行って、陽が暮れてきたから帝城へ戻ることにする。旅をしていた頃ならここで野宿とかしてたな。けど今は俺を待っててくれてる人がいる。そう思えるだけで心が温かくなる。いいよな、こういうのって。


 リュカと一緒に野宿すんのもいいな。今度体験させてやるか。アシュリーと旅をしていた頃は二人でよく野宿をした。アシュリーの作る料理はすげぇ旨かったな。リュカにも料理を教えてやろうか。

 

 そんな事を考えていると、胸元が淡く光った感じがした。見ると、ピンクの石が光ってる。すぐに握ってリュカを思う。



『エリアス?』


「リュカ、どうした?」


『わぁ!本当にエリアスの声が頭に響く!』


「ハハハ、そうだな。リュカの声も俺の頭に響いてるぞ?」


『ふふ……ねぇ、エリアス、まだ帰ってこない?』


「いや、もう帰ろうかと思ってたところだ。なんでだ?」


『ううん。ちょっとお話ししたくて。』


「そっか。じゃあ、今からすぐに帰……」



 そう話してる最中に、いきなり胸に激痛が走る……なんだ……?何が……


 胸元を見ると、何かが胸から生えている……


 違う……貫かれてるんだ……


 やべぇ……


 動けねぇ……


 喉から鉄の味が込み上げてくる……


 血が逆流してんのか?


 俺、何をされたんだ?


 目の前が影に覆われる。見上げると、俺を見ている大きな……鷲みてぇな……コイツが……


 気配とか何も感じなかった。


 なんでいきなり……


 やべぇ……このままじゃ……

 

 リュカ……


 リュカの、元へ……



『エリアス?エリアス?どうしたの?』



 頭にリュカの声が響く。けどそれに答えられずに石から手を離し、貫かれてるモノを掴む。


 胸にあるのは爪、か?何とかそれを引き抜くようにして地面を蹴る。そのまま転げるように地面に倒れ込む。


 体を起こそうとするけど、体が言うこと聞かねぇな。


 やべぇ、立ち上がれねぇ…!


 鷲みてぇな大きな魔物……これがフレースヴェルグか……?ソイツが大きく口を開けて勢いよく迫ってきた……


 俺を喰うのか?


 まだ死んじゃいねぇぞ……!


 襲ったりする魔物じゃねぇって聞いてたけど、そうじゃなかったのか?


 ダメだ、思考が定まんねぇ……


 リュカ……


 俺がいなくなったら、リュカはどうなる?


 ゾランが面倒を見てくれるんだろうけど、能力が覚醒したら一年もリュカは生きらんねぇ。


 だからコイツをやっつけねぇといけないのに……!


 俺はまだ死ぬわけにはいかねぇんだよ……!


 そう思ってるのに……


 目の前が暗くなって歪んでいって


 俺はそのまま暗闇の中に落ちていった


 


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