墨汁Aイッテキ!2019二月号

迷子


この町が知らない顔で私を見下ろしている。

私を囲む建物の表情はどこか不思議そうだ。

通り過ぎる人々は見知らぬ顔で、目的地へと急ぐ。


ここにお前の場所はないよ。静かに建物はささやく。


邪魔者はさっさと帰れ。歩く人々の声が聞こえる。

静かな圧力に潰されそうになる私。ここに一人。

名前のない不安感に襲われ、こぶしを硬く握る。


大丈夫、初めて来たわけじゃない。

仕事でも気晴らしでも、何度か訪れている。

大丈夫、ここは知っている場所だ。


怖くない、怖くない。何度も自分にそう言い聞かせる。



大きな不安の塊を飲み込んで、大きな一歩を踏み出した。



墨汁Aイッテキ!2019二月号

https://protozoa.booth.pm/items/1232863

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