転生魔王戦線 ~旧魔王城は吹き飛びました~
赤田 沙奈
チュートリアル(の体をした何か)
目の前に迫るそいつは普通によく見かける奴だ。
ただのバカデカイ鉄の塊、トラック。
そいつが自分に向かって来るというだけで普段とは打って変わって身体が言うことを聞かなくなるもんだな、と思う。
トラックはぶつかる瞬間周りの景色ごと根こそぎ奪い去っていく。
オレは、椅子に座っていた。
高校の応接室とかそう言う感じの豪華な部屋で、人を自堕落にするクッションに背もたれと肘掛を付けたようなふかふかの椅子に座っていた。
目の前には猫が1匹。
真っ黒な黒猫。
「んー、水瀬サクト、トラックに撥ねられ死亡。
はぁ…、トラックに体当たりするのは最近の流行りかなんかなのかにゃ?
まあいいや、ちょっと待ってるにゃ」
そいつはそう言うとクッションからピョンと飛び降り、戸を少し開け誰かを呼ぶ。
何か伝言でもするとまたすぐに戻ってきて、クッションの上に収まった。
「ぼくは閻魔大王の代理。何か質問はあるかにゃ?」
質問しかない。
逆にどこから質問したものか、言葉は喉につかえる。
「何も無いのかにゃ?じゃあぼくは行くにゃ」
「いや、待て!」
オレは慌てて呼び止め、とりあえず漠然とした質問から始める。
「ここはどこだ?」
「閻魔大王のお部屋。」
違う、そうじゃない。
いや、あってはいるんだろうが…
「じゃなくて…、ここは死後の世界とかってやつか?」
「んー?ぼく達はここの産まれだから、死後の世界はピンと来ないにゃ。
あ!でもこっちじゃ、リスポーンし放題だから、死後の世界には変わりないのかにゃ?
まあでも君にとっては来世とかでもいいかもにゃ。」
やはりか。
「じゃあオレはどうなる?記憶を消されて、また赤ん坊とかからやり直すのか?」
「お望みならそう出来るにゃ。だけど面倒だからそのまま生きていくといいにゃ。
あーそうそう、なんて言ったかにゃ…、ここは、君の前世でいうゲーム?の世界にゃ。
ぼくにはちんぷんかんぷんなんだけどわかるかにゃ?」
「あぁ…、何となくは。」
「なら良かったにゃ。
ここでキャラメイク?とかを済ませたら『始まりの街』か『魔王城前』を選んで転生にゃ!」
「は?」
なんだ後半の選択肢、ド初っ端からラスダン目前じゃねーか。
「あ!魔王城って言っても今は跡形もなくて観光地になってて安全だから心配しなくていいにゃ!」
「いや、それはそれで文句があるぞ」
「文句は言ってもしょうがないから諦めるにゃ。
それよりもどっちにするにゃ?
『異世界ゆるゆるスローライフコース』か
『群雄割拠転生魔王戦線コース』か。」
「群雄割拠転生魔王戦線コースでお願いします。」
「なら決まりにゃ。
あとは、そうにゃ、一応、特殊オプションの見た目変更があるけどどうするにゃ?
これ使えば見た目だけだけどエルフとか獣人に…、」
「是非お願いします。」
「了解にゃ。あ、料金は転生後、借金一億DPってのと、変更する時に死んだ方がマシってレベルの激痛があるけど大丈夫かにゃ?」
いや、それ全然大丈夫じゃない。
だがまあ、それでも捨て難いオプションではあるが…、
「…、お願い、します…。」
苦渋の決断だった。
「あ、後々スキルを獲得すれば自分で変化はできるにゃ。」
「じゃあいいです。」
「あとはそうにゃ…、こう手を伸ばしてみるにゃ?
そしてコアよ、出ろ〜って思うといいにゃ。
この世界の人間には必須のダンジョンコアという奴にゃ。
使い方は…、
ぼく出せないしよくわかんないや。みんなに聞いてみるといいにゃ。」
使い方分からねぇのかよ。
ってか説明諦めんなよ
だがオレは猫に言われた通り手を伸ばしてみる。
そしてポゥッと目の前に現れたダンジョンコアとやらは言われずして使い方がなんとなく分かってしう。
まるで自転車にどう乗っているのか今更聞かれても分からない、そんな感覚だ。
まあ、これはダンジョンコアを出せない奴には分からなくても仕方ないか。
とそんなことを考えていると、ガチャっと戸が開かれ水着にサングラスで浮き輪を抱えた男が水を滴らせながら入ってくる。
「ワシが閻魔大王だ。平伏せ。」
「は?」
「気にするでない。冗談だ。
時にクロよ、もう準備は済んでおるのか?」
男の問にクロと呼ばれたその猫は「多分?」と首を傾げる。
え?多分?
まだあるかもしれないの、チュートリアル?
それに対して自称閻魔大王が「まあいいだろう」とか言い出したのに不安がよぎるが、為す術もなかった。
オレがツッコミを入れるよりも早く男がパンと手を叩くとグンっと世界が歪んだ。
おい、なんだか適当過ぎないか?
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