騎士アドーハ
援軍を得て、ハーナブ兵達は色めき立った。広場中央の指揮官の指令で、敵を円形に包囲する。キラ達もその包囲網に加わった。押しつ押されつの攻防が繰り広げられ、じわじわと敵兵の数が減ってゆく。長丁場で体力の上がってきたキラは、少しだけ――ほんの僅かだが――気が緩んだ。その隙を、敵の屈強な戦士が見逃さなかった。
ガツン!
片足で思い切り腹を蹴飛ばされ、キラはよろめいた。ラバンのユニットからキラだけ離れてしまう。
「小僧! さっきから見ておれば、中々やるようだな! お前の相手はこのアドーハ様がしてくれるわ! 神妙に相手をせい!」
戦士はそう叫ぶと、剣を片手で構え、盾を体の前へ突き出してキラを挑発する。
「アドーハだと!? あのジルーダ王国の猛者か?」
周囲はざわめいた。アドーハは周辺国にまで名を轟かせた凄腕の騎士である。
「キラ! 挑発に乗るな! 奴は俺が……」
ラバンがキラに駆け寄ろうとするのをアドーハの部下が立ちはだかって阻止した。
「クソッ! キラ、気を付けろ!」
キラはアドーハの眼前で身構えると、身動き出来ずにいた。今までの敵とは明らかに何かが違う……彼の全身から発散される強烈な殺気の様などす黒い気に、キラは気圧されていた。
――迂闊に動けば命取りになる――
それは言わば本能の声だった。だがこうして睨み合っていても埒が明かない。そう思った矢先、アドーハの体が動いた。剣を繰り出すために僅かだが盾から体がずれる。その隙を狙って、キラは斬り込んだ。
シュッ!
アドーハの脇をタリルの剣が掠める。外したが、奴の懐に入り込んだため、アドーハはキラを攻撃出来ないでいた。
――どうする?――
キラの脳裏にそんなセリフが浮かんだ刹那、アドーハは
「小癪な!」
と叫んで盾で思い切りキラの体をぶっ飛ばした。まるで鳥の羽の様にキラの体は宙に弧を描き、地面へ激突する。キラはそのままピクリとも動かなかった。
「キラ!」
ラバンの絶叫が辺りに響き渡る。そんな彼の叫びにはお構い無しに、キラの回りをアドーハの部下が取り囲んだ。一人が槍を構える。終わりだ。誰がどう見ても……と、次の瞬間、空から火炎が降り注いだ。
「ドラゴンッ!」
アドーハと部下達はそう叫びながら熱さにのたうち回る。そこをラバンと彼の師団が駆けつけて斬り倒した。
「キラ……」
ラバンが膝を付いてキラを抱き抱える。キラは動かない。ラバン達の背後にレグルが降りたって、キラの顔を覗き込んだ。
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