男性の家のご飯(2)

「わぁ〜!」

食堂についた私は感嘆の声を漏らした。ここで舞踏会を開けるのではないかと思えるような広い部屋に、シャンデリアが吊り下げられていた。綺麗な絨毯が中世ヨーロッパを連想させる。

 大きなテーブルに乗せられているのは、ハンバーグにパスタ、グラタンにほっかほかのスープ。どれもこれも美味しそうな物ばかり!

「美味しそう・・・」

私はそう呟いた。すると、母の手料理が思い出された。驚くほどジューシーな唐揚げに、チーズが入っているハンバーグ。辛いのが苦手な私のために作ってくれた甘口カレー。ほっかほかの手羽先に、私の大好きなわかめスープ。そして、山盛りのキャベツの千切り。対して時間が経ってないはずなのに、家族が懐かしく思えた。

雪璃ゆりちゃん、アレルギーないよね。」

透羽とわさんの言葉に現実に戻された私は、

「はい!」

と答えた。いい香りが鼻をくすぐり、また『ぐりゅるぐりゅる』と腹の虫が鳴いた。それを聞いた透羽さんは

「早く食べようか。どうぞ」

とまた笑って、椅子を引いた。顔を真っ赤にした私は

「はい」

と小さく言って、その席についた。上品な柄の椅子は、座り心地が良かった。優しい、かっこいい、イケヴォ(重要)、エスコートができる・・・もう完璧じゃないか!勉強ってできるのかな。

「いただきます」

と手を合わせ、ナイフとフォークを手にとった。私は幼い頃からテーブルマナーを徹底的に仕込まれていた。しかし、今日に至るまでそれを実践する機会がなく『無意味じゃないか』と思ってたが、『やっといて良かった』と今初めて感じた。親に感謝する。

「そういえば、雪璃ちゃんはどうして喋れるの?」

透羽さんの声に顔をあげた。

「えっと、分かんないです。そういえば、今って西暦何年ですか?」

透羽さんは、少し考えてから

「この世界に『西暦』なんてものはないよ」

と言った。酷く混乱したが、西暦を教えたら何かわかるのではないかと思い、

「えっと。西暦は、イエス・キリストというキリスト教のいわば神様がお生まれになった年を0年と考える方法です。で、私は西暦2004年生まれなんです」

と言った。透羽さんはハンバーグを飲み込んでから

「西暦は知っているんだ。僕の世界にもあったから」

と昔を思い出すように言った。

(帰りたいな。父さん、母さん、いっちゃん。それに、ゆうちゃん。ゆうちゃんどうしてるかな。あぁ、可愛いゆうちゃん。早く会いたいな・・・)

心の聲だ。やっぱり、恋人がいたわけだ。そりゃそうだ。こんなにかっこいい人だもん。私は気づかないふりをして、

「透羽さん?」

と回想にふけている彼を呼んだ。彼は我にかった様子で、ごめんと謝ってから

「僕は、1年ほど前にこの世界にきたんだ。」

と静かに続けた。一年か・・・。

「タイムスリップというのだろうか、強い光が見えた気がするんだ」

強い光・・・。たしかあの時、フラッシュのようなものが光った。

「私もですよ!」

彼も同じ光を見たという事に、安堵した。

 私がグラタンを食べていると、島田さんが扉から入ってきた。

(透羽おぼっちゃま。旦那様がお見えになられました)

その言葉に、仔犬のような表情を少しだけ見せてから

(応接室でお茶を差し上げて)

と言った。

(はい。承知いたしました)

と、その問いに答えた島田さんはまた部屋から出て行った。

「あの、旦那様って・・・」

と私がおずおずと聞くと、彼は

「会ってみればわかるよ。いい人だから。」

とウインクした。そのウインクに心臓が口から出そうになったが、グラタンを食べて元に戻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

睡蓮のあとに 房成 あやめ @fusanariayame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ