7-4
蝋燭の明かりでマジックスクロールを書いていたら目がショボショボとしてきた。
光魔法には「マジックランプ」というランプのようなものもあると聞いている。
こんな夜なべ仕事には便利かもしれない。
フユさんに術式を聞いてみて、簡単なようなら作ってみるかと考えている。
そろそろ時刻は地の5刻(22時くらい)を過ぎた頃だろう。
もうベッドに入ろうかと思っていたら、鎧戸を叩く音が聞こえた。
「バートン、開けてくれ~。寒くて死にそうだ」
窓を開けてやると、冷たい夜風と共にキンバリーが部屋に飛び込んできた。
「寒い、寒い! 火炎魔法のお恵みを!」
「そんなことに使えるか。ほら、手の中においで」
両手で包み込んで凍えたキンバリーの体を温めてやった。
「ふぃー、沁みるねぇ」
「すっかり冷え切っているね。ジゼルのお湯割りでも飲む?」
「ジゼルよりブランドンが飲みたい」
ブランドンは葡萄酒を蒸留させて作る高級酒だ。
サリバンズの屋敷にいたときは親父殿の瓶からスポイトで吸い出して、キンバリーに分けてやったものだ。
キンバリーが飲む量なんて数滴だから、バレることはなかったのだ。
だけど、今となってはそれもできなくなってしまった。
「おいおい、贅沢を言うなよ。ブランドンなんてブラックベリー所長の部屋にしかないぞ」
しかも、鍵のついた食器棚に入っているので絶対にとってはこられない。
「しょうがねえなぁ、だったらジゼルで勘弁してやらあ。ただしハチミツは入れてくれよ」
蝋燭を使ってポットにお湯を沸かした。
少量のお湯でいいから、か細い火でもなんとかなる。
「それで、何かわかったかい?」
「それがさぁ、夫婦の会話を聞いてやろうと思って隠れていたんだけど、アイツらなんにも喋らないんだよね」
「どういうこと?」
「なんか冷め切った夫婦でさ、夕飯のときさえ一切会話がないんだぜ。夫の方は仕事ばっかりで、奥方の方はムッツリした顔で家事をしているだけなんだ」
エッセル氏は40代前半の年齢だったはずだけど、それくらいになると奥さんのことには興味がなくなってしまうものなのだろうか。
「ジェーンの話題が出て来ないかと聞き耳を立てていたんだけど、まったくの空振りだったよ。10刻もあの家で粘って、聞いた会話は『ご飯です』『わかった』の二言だぜ。何が楽しくて一緒に暮らしているんだろうな」
それはすごい。
完全に冷め切っていた親父殿と奥様でさえ冗談を言い合うことさえあったのに。
もっともあの二人はそれぞれに公認の愛人がいたから、却ってサバサバした気持ちになっていたのかもしれない。
嫉妬なんて感じないほど、互いに気持ちがなかったのだろう。
「あの夫婦は寝室さえ別だったぜ……」
「ということは、ジェーンについての情報は何もないってことか」
「すまん、バートン! 日記とかも探したんだけどさ、あの家には帳簿しかなくて」
キンバリーはいかにも悔しそうに頭を下げていた。
「ほらハチミツ入りのお湯割りができたよ。温かいうちに飲みな」
キンバリーなりに頑張ってくれたんだから仕方がない。
「それを飲んだら今夜はもう寝よう。明日になったらいい考えが浮かぶかもしれないしね」
そんなに都合よく事が運ぶとは思っていなかったけど、希望だけは持っていたい気がした。
ところがだ、翌日になってエッセル夫人がジェーンに面会を求めてきて、事態は急変を告げた。
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